特集 これからの日本をどう守るか―安全保障と日米同盟―
日本の防衛政策と日米同盟の今後

高橋 杉雄【Profile】

[2012.02.03] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

国際情勢が大きく変化し、日本をめぐる安全保障環境が変わりつつある。「動的防衛力」の構築に焦点をあてた最新の防衛政策と、日米同盟の今後の在り方について防衛研究所の高橋杉雄主任研究員が解説する。

2010年防衛大綱:動的防衛力の構築

「防衛計画の大綱」(以下、防衛大綱)は、基本的な情勢分析を示し、その上で防衛力の役割や自衛隊の基本的な兵力構成を定める、日本の防衛政策の基本となる文書である。これまで、防衛大綱は、冷戦期の1976年、冷戦終結後の1995年、9.11テロ事件後の2004年に策定されてきた。そして、最新の防衛大綱が、2010年12月に策定された、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」(以下2010年防衛大綱)である。

2010年防衛大綱の中で、最も重要な点は、動的防衛力の構築を目標として掲げたことである。具体的には、「平素から情報収集・警戒監視・偵察活動を含む適時・適切な運用を行い、我が国の意思と高い防衛能力を明示しておくことが、我が国周辺の安定に寄与するとともに、抑止力の信頼性を高める重要な要素となって」おり、「防衛力の運用に着眼した動的な抑止力を重視していく必要がある」とした。その上で、「即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築する」との方針が提示されたのである。

平時と有事の中間領域における「抑止」

動的防衛力を理解する上で重要なポイントは、「領土や主権、経済権益等をめぐり、武力紛争には至らないような対立や紛争、言わばグレーゾーンの紛争は増加する傾向にある」という認識をベースとして、2010年防衛大綱では防衛力の役割を「平時における抑止」と「事態発生時の対処」の二分法で捉えていないことである。現在の世界では、テロ対策や破綻国家における平和構築のための活動、あるいは海賊対策のためのパトロールなど、国際的な安全保障環境を改善するための活動が不断に行われている。言ってみれば、平時でも有事でもない中間領域における、烈度はそれほど高くないが長期間にわたる継続的な活動が増加している。こうした状況においては、有事を防ぐための抑止力よりも、平時と有事の中間領域において、常時継続的な活動を行うための、「動的」な防衛力を整備していかなければならない。2010年防衛大綱で示された動的防衛力への方向性は、こうした状況を捉えたものである。

2010年防衛大綱では、防衛力の役割として、〔実効的な抑止及び対処〕〔アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化〕〔グローバルな安全保障環境の改善〕の3つが示されている。動的防衛力とは、これらすべてで防衛力を積極的に活動させていくことを目指すものであるが、特に〔実効的な抑止及び対処〕の関連ではやや補足的な説明が必要であろう。ここでは、動的抑止という新たな概念が提示されているからである。

日本周辺においては、大規模な紛争が生起する可能性は低下していると考えられる一方で、活発な軍事活動が行われており、また、現実に東シナ海には摩擦要因が存在している。こうした軍事活動は、伝統的な「抑止」概念が対象とする攻撃的行動とは明らかに異なる。そのため、これらに対応するためには、「抑止」概念の再構築が必要であり、動的抑止とは、そのために提示されたひとつの方向性なのである。

抑止論は、特に冷戦期に、米ソの「冷戦」が「熱戦」となること、すなわち「平時」が「有事」となってしまうことを防ぐという問題意識に基づいて発展してきたものである。その中で、抑止が失敗する状況として、(1)相手に対応する時間を与えずに現状の変更を図る既成事実化(fait accompli)戦略を相手がとった場合、(2)抑止力が発動する最低限度の事態を探ろうとする探索活動(probing)といったものがあると指摘されてきた。

動的抑止とは、まさにこうした平時と有事という二分論で捉えることは難しく、有事を念頭に置いた伝統的な抑止によっては対応できないと考えられている「既成事実化戦略」と「探索行動」に該当する行動を抑止することを主要な目的としている。具体的には、警戒監視・情報収集活動や、訓練・演習を含む活動、更には国際平和協力活動など、実際の防衛力の運用を通じて、時間的・地理的な隙がないことなどを示し、相手国の行動を思いとどまらせることが、動的抑止の目指すところである。

そしてこの、動的抑止と動的防衛力こそが、今後の日米同盟を進化させていく上でのキーワードとなるのである。

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  • [2012.02.03]

防衛研究所政策研究部主任研究官。ジョージワシントン大学卒業。1997年、防衛庁防衛研究所助手。2009年4月より現職。主な著書に『日米同盟とは何か』(世界平和研究所編、北岡伸一、渡辺昭夫監修)第3章「米国による拡大抑止の実体」

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