特集 これからの日本をどう守るか―安全保障と日米同盟―
中国の動向と日本の海洋戦略

道下 徳成【Profile】

[2012.02.02] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

海洋戦略における中国の台頭が著しい。防衛政策を揺るがしかねない事態に日本はどう対処するのか。政策研究大学院大学の道下徳成准教授がその対処方法と課題を考察する。

近年、米国や欧州における財政危機などにも助けられ、中国の台頭が一層目立つようになっている。筆者は講演のための出張先である欧州で本稿を執筆しているが、こちらでも中国の話題になると聴衆の目の色が変わるのが分かる。マドリッドにおける議論では、スペインの政府関係者が中国に対する武器輸出に肯定的な見解を示すなどして、驚かされた。財政危機に直面しているスペインにとって、国債を買ってくれる中国は明らかに友好国なのである。

中国はグローバルなプレゼンスを示しつつ、アジア地域においても着実に影響力の拡大を進めている。そして、そのための手段の1つが海空軍を中心とする軍事力の増強と近代化であり、その運用方法の多様化である。一言で言えば、中国は海空軍力の増強によって、いわゆる「アクセス拒否能力(anti-access capabilities)」を構築しようとしているのであるが、これは南シナ海、東シナ海、黄海などから米国をはじめとする他国の影響力を排除し、それを通じて、地域において自国に有利な秩序を形成することを目的とするものである。

こうした状況の中、日本をはじめとするアジア諸国にとって、「中国の台頭による秩序変化にどう対処するか」が外交・安全保障政策の最大の焦点になってきている。本稿ではこうした認識に立ち、海洋における中国の動向と、それに対して日本がどのように取り組もうとしているのか、また、今後の課題としてどのようなものがあるかを論じることとする。

1 中国の動向

現在、中国が強化しつつあるアクセス拒否能力の目的は、短期的には台湾への米国の介入を阻止するためのものであり、中長期的には米国や日本をはじめとする地域諸国が、領土や資源の帰属を含む地域秩序のあり方に口出しできなくするようにするためのものであるとみられる。そして、中国はその手段として各種の水上艦艇、潜水艦、戦闘機、爆撃機、巡航ミサイル、弾道ミサイル、対艦弾道ミサイル(ASBM)などを増強あるいは開発している。中でも、中距離弾道ミサイルや長射程の巡航ミサイルは前方展開された米軍や在日米軍基地に脅威を与えることができ、多数の対艦ミサイルを搭載したソブレメンヌイ級駆逐艦、静粛性にすぐれるキロ級潜水艦などは、米国の空母をはじめとする機動打撃部隊が中国の周辺海域や西太平洋で行動するのを阻碍することができる。一方、ASBMは技術的には実現困難であり、米海軍にとっての現実的な脅威とはなり得ないであろう。しかし、実際に命中しないとしても、ASBMが配備されれば米軍はコストのかかる対抗措置をとらざるをえなくなり、また、米国の政策決定者は中国近海への空母などの配備をためらわざるを得なくなる。そして、ASBMがなくても、J-20ステルス機をアクセス拒否のために用いることは十分可能である。

なお、中国のアクセス拒否戦略は、多くの点で冷戦期にソ連が採用していた「海洋支配」および「海洋拒否」戦略と共通している。当時、ソ連はオホーツク海を聖域化し、この周囲に「海洋支配」および「海洋拒否」ラインを設けて、オホーツク海へのアクセスを拒否しようとしていた。現在、中国は自国の周辺に「第1列島線」と「第2列島線」という2つの防衛ラインを設けて、南シナ海、東シナ海、黄海を聖域化しようとしている。中国が、ロシアが冷戦期に開発・生産した装備を多数導入しているのは偶然ではない。

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  • [2012.02.02]

政策研究大学院大学准教授、安全保障・国際問題プログラムディレクター。1965年、岡山県生まれ。2003年、米国ジョンズ・ホプキンス大学、ポール・H・ニッツェ高等国際問題研究大学院(SAIS)博士課程修了、博士号(国際関係学)取得。内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付・参事官補佐、防衛省防衛研究所主任研究官などを経て、2010年より現職。

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