特集 台頭する中国の外交戦略
中国の対外経済協力
メコン地域を中心に

北野 尚宏【Profile】

[2012.05.24] 他の言語で読む : ENGLISH |

経済発展著しい中国は対外援助の分野でも存在感を高めている。国際協力機構(JICA)東・中央アジア部長の北野尚宏氏が、メコン地域諸国との関係を中心に、中国の対外経済協力の現状を解説する。

近年、中国と隣接国・地域の経済関係が急速に深まりつつある。双方は二国間経済協力や地域経済協力の枠組みを活用し、道路、鉄道、送電線、石油・天然ガスパイプラインなどの整備や国際陸上輸送協定の締結など制度面の整備を通じて連結性(コネクティビティー)を高めながら、企業レベルの経済協力を促進している。本稿では、メコン地域諸国(カンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス)を中心に、中国の対外経済協力の動向を対外援助に焦点を当てながら概説したい。

対外援助の体制と政策

中国政府内では、商務部対外援助司が対外援助政策・業務を所管しており、政策策定プロセスには商務部傘下の国際貿易経済合作研究院、社会科学院や大学などの研究者も加わっている。援助のメニューには無償資金による建設事業(工事は中国企業が請け負う)、一般物資供与、専門家派遣、中国などでの研修事業、対外医療援助チーム派遣、緊急人道援助、ボランティア派遣、債務免減がある。

借款には、無利子借款に加えて、中国輸出入銀行(中国輸銀)の優遇借款部が実施を担っている人民元建ての優遇借款と、統計上は対外援助には含まれないものの優遇借款とほぼ同様の優遇条件で貸し付けるドル建ての優遇バイヤーズクレジットがある。対外援助以外の経済協力を実施する機関としては、中国輸銀の企業向け貸付部門や国家開発銀行(中国開銀)がある。

対外援助実施体制は多くの部門に跨っていることから、2011年2月には副大臣レベルの部門間調整機構が設立されている。2012年3月に開催された部門間調整機構の第2回全体会合には商務部、外交部、財政部はじめ33に上る部局が参加した。

2011年4月に公表された「中国対外援助白書」では、中国の援助政策として、(1)被援助国の自主発展能力の向上を支援する、(2)いかなる政治条件も付加しない、(3)平等互恵・共同発展を堅持する、(4)力相応の援助を提供し、ニーズに最大限応える、(5)時代とともに進み、改革・革新を堅持する、という5点を挙げている。1番目に自主発展能力の向上を挙げるとともに、対象国としては後発開発途上国(LDC)や島しょ国を重視し、セクターとしては食糧安全保障やインフラ建設だけでなく民生の向上にも力を入れるとしているのは、開発援助に関する国際世論を意識している表れと推察できる。3番目の平等互恵・共同発展は、相手国の発展を支援しながら、自国企業の海外進出や資源獲得など中国の発展にも寄与するという、両立型(Win-Win)のアプローチと解釈できる。

メコン地域諸国との二国間経済協力の枠組み

中国は、二国間経済協力の枠組みと、アフリカでいえば中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)、中央アジアでいえば上海協力機構(SCO)などの地域枠組みを活用しながら、貿易、投資、援助を組み合わせた、包括的な対外経済協力を推進している。メコン地域における地域的経済協力の枠組みは後述するが、メコン地域各国とは下記のような二国間経済協力の枠組みを構築している。

タイとの間では、同国のインラック首相が2012年4月に訪中した際、戦略的協力共同行動計画(2012-2016)および経済貿易協力5カ年発展計画に調印している。ベトナムとは、1994年に締結した経済貿易協力委員会にかかる協定に基づき、2011年4月に副大臣レベルの第7回委員会が開催された。両国間にはハイレベルの二国間協力指導委員会があり、同年9月に第5回委員会が開催され、さらに10月には経済貿易協力5カ年発展計画が締結されている。

ミャンマーとは1997年に経済貿易技術協力連合工作委員会にかかる協定を結び、2005年および2008年に副大臣レベルの会合を開催している。ラオスとは1997年に経済貿易技術協力協定に調印し委員会を設立、2012年には副大臣レベルの第5回委員会を開催している。カンボジアとは2000年に経済貿易協力委員会設置にかかる協定を結び、2001年、2004年、2007年に副大臣レベルの委員会を開催している。中国はメコン地域諸国とそれぞれ二国間投資保護協定を締結しており、タイ、ベトナム、ラオスとは二重課税防止条約にも調印している。

二国間貿易・投資関係

ラオス・中国国境付近で中国向け木材を輸送するトラック(2011年3月、ラオス北部・ボピアット村、写真=Hoang Dinh Nam/AFP・時事)

メコン地域諸国と中国との貿易額は、2000年の100億ドルから2010年の803億ドルと、約8倍に増加し、これら5カ国の貿易総額に占める中国の割合は5.9%から14.2%に高まっている。各国と中国との貿易額はタイ460億ドル、ベトナム273億ドル、ミャンマー47億ドル、カンボジア13億ドル、ラオス10億ドルとなっている。タイ以外は、基本的に資源を輸出して、工業製品を輸入するという構造になっている。

投資動向を見ると、2010年にメコン地域諸国が受け入れた中国からの投資額(認可あるいはコミットメントベース)は合計約76億ドルで、うちミャンマーへの投資額が約7割を占める。ミャンマーに対する投資額は香港からの投資を合わせると100億ドルを超え、主に石油・ガスおよび電力開発向けとなっている。中国の海外工事受注実績(契約ベース)は、2010年にベトナム44.1億ドル、ミャンマー34.9億ドルとなっており、以下カンボジア13.4億ドル、ラオス8.3億ドル、タイ7.3億ドルと続く。

ASEANとの経済協力関係

中国は上述のように伝統的に二国間関係を重視しているが、1991年から東南アジア諸国連合(ASEAN)との対話を開始し、1997年からは中国・ASEAN首脳会議を開催している。2002年にカンボジアのプノンペンで開催された第6回首脳会議において、ASEANと包括的経済協力枠組み協定を締結し、農業、情報通信技術、人的資本開発、投資、メコン河流域開発を優先協力分野とした。その後、優先協力分野はエネルギー、運輸、文化、観光、保健衛生、環境に拡大している。

2003年の第7回首脳会議においては戦略的パートナーシップ共同宣言に調印するとともに、中国・ASEAN博覧会の開催が提唱された。その後、共同宣言に関しては行動計画(2005-2010)が策定されるとともに、博覧会は2004年より広西チワン族自治区の南寧で毎年開催されている。ASEAN憲章が発効し、ASEANに地域機構としての法人格が付与された2008年12月には、初代駐ASEAN中国大使が任命された。

2009年の第12回首脳会議において中国は、中国・ASEAN投資協力基金設立を表明するとともに、優遇条件の借款67億ドルを含む150億ドルに上るASEAN諸国向け借款をコミットした。加えてカンボジア、ミャンマー、ラオスに対する2.7億人民元の特別援助を表明した。その結果、例えばカンボジアでは複数の幹線道路整備事業に中国輸銀が優遇借款や優遇バイヤーズクレジットを供与している。

前述の中国・ASEAN投資協力基金は、対ASEAN投資促進のために、中国輸銀が中心となって香港で設立されたプライベート・エクイティ・ファンドである。総額100億ドルを見込んでおり、2010年4月から第1期10億ドルとして、運輸インフラ、公共施設、通信網、石油、天然ガス、鉱物資源などを対象とした投資を行っている。同年5月には世界銀行グループの一員である国際金融公社(IFC)が同基金に参加した。メコン地域ではこれまでカンボジアの中国系光通信事業者、ラオスでカリウム鉱山開発を手掛ける中国系企業、タイ・レムチャバン港への出資が決まっている。

中国・ASEAN対話関係樹立20周年記念首脳会議で「中国・ASEANセンター」設立を発表する中国とASEAN各国の首脳(2011年11月18日、インドネシア・バリ島、写真=Mast Irham/EPA・時事)

2010年1月からASEAN・中国自由貿易協定(ACFTA)が始動し、約9割の関税品目が撤廃された。2011年11月にインドネシア・バリ島で開催された第14回中国・ASEAN対話関係樹立20周年記念首脳会議では、新たな共同宣言行動計画(2011-2015)に対する合意がなされるとともに、中国はASEAN諸国向け借款をさらに100億ドルコミットした。うち優遇条件の借款は40億ドルとされている。併せて北京に中国・ASEANセンターも設立された。同会議に先立ち中国外交部はこれまでのASEANとの協力関係を概観する「中国・ASEAN協力:1991-2011」を公表している。

ASEANは2003年の第9回ASEAN首脳会議において決定された「ASEAN経済共同体(AEC)」をはじめとする3つの共同体形成を通じたASEAN共同体構築を、加盟国の域内関税が原則ゼロになる2015年に設定している。その布石として2010年の第13回ASEAN首脳会議では、ASEAN連結性マスタープランが採択されている。中国もこの目標を支持している。

大メコン圏プログラム

次に大メコン圏(Greater Mekong Sub-region:GMS)プログラムについて触れたい。GMSプログラムは、1992年にメコン地域諸国および中国(雲南省)を加盟国、アジア開発銀行(ADB)を事務局として発足した地域協力型開発プログラムである。2004年には中国・広西チワン族自治区が加わった。

大メコン圏という名称は、メコン河流域以外のミャンマー全土をはじめ広範な地域を対象としていることに由来している。2002年の第6回中国・ASEAN首脳会議と同じタイミングで初のGMS首脳会議が開催された。同会議で採択された「GMSプログラム10カ年戦略フレームワーク」では、運輸、通信、エネルギー、環境、観光、貿易制度、投資、人的資本開発、農業の9分野が優先協力分野とされた。

2011年12月にミャンマーのネピドーで開催された第4回GMS首脳会議では、これまでの成果を総括するとともに、2022年までの10カ年戦略フレームワークを採択した。中国は会議に先立ち「GMS経済協力参加に関する国家報告」を公表した。中国は第1回会議以来毎回国家報告を公表しており、自国内の後進地域である雲南省や広西チワン族自治区の開発をメコン地域諸国の経済発展に連動させる観点から、GMSの枠組みを重視しているものと推察できる。また、GMSプログラムは中国に対し開発援助分野の国際規範を学ぶ場を提供しているともいえる。

交通、エネルギー分野などで進む協力

同報告などによれば、運輸分野については、中国国内で雲南省の昆明および広西チワン族自治区の南寧からメコン地域へとつながる道路の建設が進んでいる。昆明とバンコクを結ぶ南北経済回廊では、ラオス国内の区間がADB、タイ、中国の三者の資金供与で完成している。現在、タイ・ラオス国境をつなぐ第4タイ・ラオスメコン橋(第4タイ・ラオス友好橋)がGMSプログラムの枠組みで2012年の完成に向け建設中である。タイ側はタイの政府資金、ラオス側は中国の無償援助が供与され、コンサルタント、コントラクターともにタイ・中国の共同事業体(JV)である。中国はGMS域内の通関・出入国を円滑にするための越境交通協定(CBTA)にも積極的に参画しており、ベトナムやラオスとの二国間協定に加えて、2002年に多国間合意文書に署名している。中国、ミャンマー、ラオス、タイによるメコン河上・中流の航路整備も進み、基本的に通年航行が可能になっている。

GMSの鉄道整備については、ベトナム、ラオス、ミャンマーに通じる雲南省内の鉄道新線は既に「中国中長期鉄道網計画(2008年調整)」に組み込まれ、現在建設中である。このうち、昆明・ビエンチャン間鉄道事業構想は、輸送力増強中の昆明から玉渓までの既設鉄道の延伸としてラオスとの国境モーハンまで鉄道を新設するとともに、ラオス側国境ボーテンからルアンプラバンを経由しビエンチャンまで421kmにわたる鉄道を建設するもので、中国中鉄二院工程集団有限責任公司が2010年12月にビエンチャンに事務所を開設、中国政府の資金で2011年にラオス区間の事業化調査(フィージビリティ調査)を完了させた。しかし、新聞報道によれば、中国国内での高速鉄道事故を契機に計画は変更されており、一旦着工した工事は中断している。

一方、2011年4月にはミャンマーのチャウピューから中国との国境のムセを結ぶ鉄道建設に関する覚書が締結されている。同年12月に習近平副主席がタイを訪問した際には、バンコク・チェンマイ間高速鉄道に中国が協力する用意があることが表明された。GMSプログラムでは域内鉄道事業に関して調整のための事務局設置が決定している。

エネルギー分野においては、中国はGMSにおける国際連系送電線による電力融通の分野に積極的に参加している。電力不足のベトナム、ラオスに対しては新たに送電線を建設して電力を輸出するとともに、ミャンマーでは中国電力投資集団公司、中国華能集団公司、中国大唐集団公司といった国有電力会社がBOT(build-operate-transfer)方式などで参入している水力発電事業から電力を輸入している。さらに中国華電集団公司、中国国電集団公司はカンボジア、中国長江三峡集団公司はラオスで水力発電事業に参入している。また、GMSの枠組み外であるが、ミャンマーでは、石油・天然ガス田の開発と、チャウピューと昆明とを結ぶパイプラインの建設が中国石油天然ガス集団公司(CNPC)などにより進められている。

人的資本開発にも一言触れたい。中国は、これまで北京の中国・ASEAN環境保護センター、南寧の中国ASEAN女性研修センターなどでメコン地域を対象に各種の研修を実施してきている。うち、メコン地域青年リーダー研修プログラムにはこれまで400名以上が参加している。また、2010年時点で、雲南省の高等教育機関で学ぶメコン地域からの留学生は約8000人に達している。

メコン地域における日中間の対話・協力

中国の対外経済協力が活発化する中で、ADBをはじめとする国際機関、二国間援助機関や国際的NGOが、メコン地域でも積極的に中国の対外経済部門との関係を構築しようとしている。日本もメコン地域において中国との関係を構築しつつある。2008年から両国の外交当局間で日中メコン政策対話が開始されたほか、現地レベルでも、カンボジアやミャンマーでは、JICA事務所が中国大使館の経済商務処との対話を開始している。日本の民間企業も、中国企業と世界各地でグローバルな協力関係を築こうとしており、メコン地域では、ベトナムにおいて日中の企業が共同で火力発電所やセメント工場の建設に取り組んでいる。

日中はメコン地域諸国との協力で切磋琢磨を

以上のように、中国はメコン地域諸国との経済協力を広範に進めてきた。中国の経済協力はメコン地域の経済発展に寄与する一方、さまざまな課題に直面していることも事実である。特に最近は、進出した中国企業と地元コミュニティーとの土地収用や環境問題などをめぐる摩擦や貿易構造の不均衡などが報道・指摘されている。

企業の社会的責任(CSR)の面では、日本は東南アジアにおいてさまざまな経験を積んできており、中国の関係者も高い関心を寄せている。日本・メコン地域諸国首脳会議などの枠組みを通じて、メコン地域諸国と経済協力関係を深化させてきた日本にとっても、中国の経済協力の迅速性は参考になりうる。2015年のASEAN共同体構築に向けて、日中両国が前述の対話をさらに深化させ、協力と競争とを通じて切磋琢磨していくことで、双方の経済協力の質が高まり、メコン地域に利益をもたらす可能性は大いにあるといえよう。

(本稿の内容はすべて筆者の個人的見解であり、筆者の属する組織や関連する組織の見解を表すものではない。)

タイトル背景写真=Stephen Walli

  • [2012.05.24]

JICA研究所副所長。1983年早稲田大学理工学部卒業(1981~82年中国清華大学土木・環境工学系在籍)。1992~96年海外経済協力基金北京駐在員。1997年米コーネル大学大学院博士課程修了(都市地域計画専攻)。国際協力銀行開発金融研究所主任研究員、京都大学大学院経済学研究科助教授、国際協力銀行開発第2部長、国際協力機構(JICA)東・中央アジア部長などを経て、2012年から現職。

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