特集 人口減少社会が突きつける現実
超高齢・人口減少社会の現実と対応

島崎 謙治【Profile】

[2012.07.02] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

超高齢・人口減少社会に突入した日本。近未来にはこれまでと異質の社会が到来する。2012年1月の「日本の将来推計人口」をもとに、政治、経済、社会保障の面でどのような変化が生じるのか、そして、いかなる対応が求められるのかを政策研究大学院大学の島崎謙治教授が解説する。

1.はじめに

わが国は超高齢・人口減少社会に突入した。日本の総人口は2008年前後をピークとして減少に転じるとともに、高齢化率(65歳以上人口の総人口に占める割合)は2007年に21%(超高齢化の基準値)を超えたからである。そして、国立社会保障・人口問題研究所が2012年1月に公表した「日本の将来推計人口」によれば、人口減少・高齢化のピッチは今後ますます速まると見込まれている。近未来の日本は、これまでとは異質の社会を迎えるのである。本稿では、それがどのような社会なのか解説するとともに、いかなる対応を図るべきなのか考察することとしたい。

2.超高齢・人口減少社会の現実

(1)人口ピラミッドの変化と人口問題の特質

わが国で人口問題が論じられる際、総人口の減少が象徴的に取り上げられることが多い。しかし、近未来の日本は現在の人口ピラミッドが “相似形”で縮小する社会ではない。

図は、1960年、2010年、2060年(推計)の人口ピラミッドの変化を示したものである。2010年から2060年にかけて、総面積(総人口)が縮小しているだけでなく、人口ピラミッドの形状が変わることがみてとれよう。というより、2010年の形はもはや「ピラミッド」とはいえず、中高年齢層が厚い「壺型」に変形している。そして、2060年には「逆ピラミッド」の形状に変わる。ちなみに、2060年の図で100歳以上の者が相当数に上るようにみえるが、これは作図の誤りではない。1960年頃は100歳を超える者の数はわずか100人程度であったが、2010年には約4万4000人まで増え、2060年には63万7000人に増加すると見込まれている。(※1)いずれにせよ、近未来の日本は総人口が減少するだけでなく人口構成が一変するというのが、強調したい点である。

また、この図でもう1つ注目されるのは、(1)1960年で15歳より少し下の年齢層が膨らんでいること、(2)2010年で60歳代前半の年齢層および40歳前後の年齢層が突出していることである。これは、1947年から1949年の第一次ベビーブーム(いわゆる「団塊の世代」)の影響である。すなわち、(1)は「団塊の世代」が1960年に11歳から13歳に到達したことによる。そして、(2)は、2010年に「団塊の世代」が61歳から63歳に達するとともに、そのジュニア層(第二次ベビーブーム世代)が40歳前後を迎えたからである。

これは人口問題の特質を考える上で示唆に富む事実である。ある時点の出生数の影響がその後何十年という長期に及ぶということを示しているからであり、一般化していえば、過去の事象が現在のみならず近未来をも“拘束”してしまうのである。実際、日本の人口構造が大きく変容するのは、1947年から1949年の第一次ベビーブーム後、合計特殊出生率(total fertility rate:以下「TFR」という)が切り下がり、特に1970年代半ば以降、長期にわたりTFRが人口置換水準(その出生率が維持されれば人口が維持される水準)を下回ってきた結果であり、近未来の超高齢・人口減少社会は相当程度「所与のもの」と受け止めざるをえない。

(2)日本全体の人口構造の変容

人口ピラミッドの変化は人口構造の変容を視覚的にとらえる上で有用であるが、近未来の日本の超高齢・人口減少社会の現実や対応を考えるに当たっては、もう少し精緻な分析を行う必要がある。下の表は、「日本の将来推計人口」等に基づき、「過去」(1960年・1985年)、「現在」(2010年)、「未来」(2035年・2060年)の人口の基本指標をまとめたものである。特に重要な点は次の5つである。

日本の人口の基本指標(1960年から2060年)
年次 1960年 1985年 2010年 2035年 2060年
総人口(A)(単位:万人) 9,342
(73.0)
12,105
(94.5)
12,806
(100)
11,212
(87.6)
8,674
(67.7)
人口3区分
(単位:万人)
年少人口(B)
(15歳未満)
2,807
(166.7)
2,603
(154.6)
1,684
(100)
1,129
(67.0)
791
(47.0)
生産年齢人口(C)
(15~64歳)
6,000
(73.4)
8,251
(101.0)
8,173
(100)
6,343
(77.6)
4,418
(54.1)
老年人口(D)
(65歳以上)
535
(18.1)
1,247
(42.3)
2,948
(100)
3,741
(126.9)
3,464
(117.5)
(参考)(D)のうち
後期高齢者人口の再掲(75歳以上)
(単位:万人)
163
(11.5)
471
(33.2)
1,419
(100)
2,278
(160.5)
2,336
(164.6)
(参考)死亡者数
(単位:万人)
71
(59.0)
75
(62.8)
120
(100)
166
(138.3)
154
(128.3)
(参考)出生数
(単位:万人)
161
(149.9)
143
(133.6)
107
(100)
71
(66.5)
48
(45.0)
高齢化率
(D/A)
5.7% 10.3% 23.0% 33.4% 39.9%
老年従属人口指数
(D/C)
8.9%
(11人で1人を支える)
15.1%
(7人で1人を支える)
36.1%
(2.8人で1人を支える)
59.0%
(1.7人で1人を支える)
78.4%
(1.3人で1人を支える)
(参考)生産年齢人口を20~69歳、老年人口を70歳以上とした場合の老年従属人口指数 6.0%
(17人で1人を支える)
10.6%
(9人で1人を支える)
25.3%
(4.0人で1人を支える)
43.9%
(2.3人で1人を支える)
62.2%
(1.6人で1人を支える)

(注) 総人口、人口3区分のかっこ書きは、2010年を100とした場合の指数である。
(出典)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計(2012年1月)」の出生中位・死亡中位推計、総務省『国勢調査』に基づき筆者作成。

第1は、総人口の減少である。日本の総人口は2010年から2060年にかけて、1億2806万人から4,132万人減少し8,674万人となる。日本の総人口は今後半世紀の間に約3分の2まで縮小するのである。また、2010年から2035年の減少幅(1,594万人)に比べ2035年から2060年の減少幅(2,538万人)が大きいことも注目される。人口減少のピッチが今後加速することを意味するからであり、実際、2040年以降は毎年100万人以上の規模で人口が減少すると見込まれている。100万人といえば小さな県の総人口に匹敵するが、これほど大規模な人口減少が生じるのはなぜか。その理由は、高齢化に伴い死亡者数が急増するとともに出生数が減少するからである。たとえば、2040年の死亡者数は167万人、出生数は67万人であり、総人口は差し引き100万人減少する。そして、死亡者数は2040年前後をピークに減少傾向に転じ2060年には154万人になるが、同年の出生数は48万人であるので、総人口は106万人減ることになる。

第2は、高齢者の増加および高齢化の進展である。老年人口は2010年の2,948万人から2035年には3,741万人に増加する。その後、老年人口は2042年の3,878万人をピークに減少傾向に転じるが、総人口の減少が進むため、2060年の高齢化率は39.9%まで上昇する。つまり、10人のうち4人が高齢者である社会を迎えるということである。また、老年人口の中でも75歳以上の後期高齢者の伸びが大きく、特に2010年から2035年にかけて1,419万人から1.6倍増の2,278万人となる。これは、「団塊の世代」が2024年には後期高齢者の仲間入りをすることが主因である。さらに、2010年から2035年にかけて死亡者数が120万人から1.4倍増の166万人まで増加することも改めて確認しておきたい。超高齢社会は「多死社会」なのである。

第3は、出生数の減少および年少人口の激減である。年少人口の推移をみると、2010年の1,684万人に比べ、2035年には1,129万人と、ほぼ3分の2に減少し、2060年には791万人と半減以下となる。留意すべきことは、出生数が大幅に減少するのは、出生率の低下が今後さらに進むと仮定しているからではないことである。実際、「日本の将来推計人口」の出生率中位の場合のTFRの仮定値は、2010年の1.39に対し、2035年1.34、2060年1.35とほぼ同じであり、出生率高位推計では2035年1.59、2060年1.60と高い。それにもかかわらず出生数は減少する。(※2)これは、過去の出生率の低下の影響により出産数の母数となる出産年齢人口が減少しているからである。もちろん、これは少子化対策を講じる必要がないと言っているわけではない。出産・子育てと就労の両立支援や若者の失業対策など、結婚・出産・子育てをしやすい環境を整備することは非常に大切である。ただし、出生率を高めれば近未来の年少人口や総人口の減少を回避できると安易に考えるべきではない。

第4は、生産年齢人口の激減である。生産年齢人口は既に減少しているが(ピークは1995年の8,717万人)、2010年の8,173万人に比べ2060年は4,418万人とほぼ半減する。労働参加率が同一であれば、労働力人口は生産年齢人口に比例する。その意味で、2010年から2035年の生産年齢人口の減少幅(1,830万人)が、2035年から2060年の減少幅(1,925万人)とほぼ同じであることは重要な点である。つまり、2010年から2035年にかけて老年人口が急増するが、それを支える生産年齢人口は大幅に減少するのであり、山登りにたとえるとこの時期が「胸突き八丁」なのである。

第5は、いま述べたことと関わるが、老年人口の生産年齢人口に対する比率(老年従属人口指数)の急騰である。老年従属人口指数とは高齢者1人を現役何人で支えるかを表す指標であり、1985年は現役7人で1人の高齢者を支えていたのが、2010年に2.8人で1人、2035年には1.7人で1人まで急減し、2060年には1.3人で1人を支える社会となる。(※3)なお、日本では高校・大学進学率が高いことや高齢者の就業意欲も高いため、生産年齢人口が15歳から64歳、老年人口が65歳以上というのは必ずしも社会実態に合わない。そこで、この表では参考として、生産年齢人口を20歳から69歳、老年人口を70歳以上とした場合の指数も掲げている。これをみると、老年従属人口指数の変化のピッチはやや緩和されるが、それでも相当な勢いで上昇することがわかる。

(3)地域による高齢化の相違および世帯構造の変容

以上、近未来の日本の人口減少や人口構成の変化をみてきたが、特に超高齢社会への対応を考えるに当たっては、日本全体の人口指標をみるだけでは足りない。さらに押さえるべきことが2つある。

第1は、地域による高齢化の相違である。これまで高齢化の問題は農村部や過疎地の問題であると考えられてきたきらいがある。しかし、国立社会保障・人口問題研究所「日本の都道府県別将来推計人口(2007年5月)」によれば、大都市圏の方が高齢者の実数が激増するだけでなく増加率も高い。(※4)ちなみに、2005年から2035年にかけて老年人口が75%以上増加するのは、埼玉県、千葉県、神奈川県、沖縄県の4県、50%以上増加するのは、東京都、愛知県、滋賀県であり、沖縄を除けばいずれも大都市およびその周辺の県である。大都市圏の高齢者の増加が著しい理由は、高度経済成長期に地方から都市へ大量の若者の人口移動が生じ、その者が高齢期を迎えるからである。(※5)もちろん、過疎地も人口の絶対数の減少が著しく、深刻な問題を抱えている(いわゆる「限界集落」はその象徴である)ことも間違いないが、ここで強調したいことは、都市部における高齢化問題が「待ったなし」の状況にあることである。

第2は、世帯構造の変化である。これは医療・介護の問題を考える上で重要である。国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)[2008年3月推計]」によれば、わが国の世帯は、三世代同居世帯が減り、単独世帯(1人暮らし世帯)や夫婦のみの世帯が急増すると見込まれている。特に世帯主が65歳以上の世帯数は、2005年から2030年にかけて1,355万から1,903万に増加するが、このうち夫婦のみの世帯は465万から569万に、1人暮らし世帯は387万から717万に増加する。さらに、1人暮らし世帯といっても、子どもが近居の場合、遠方に居住している場合、子どもがいない場合では、家族による支援の可能性や緊急時の対応等はまったく異なる。その意味で注目されるのは、未婚の1人暮らしの高齢者数が、2005年は男性27万人、女性53万人であったのが、2030年には男性168万人、女性120万人と急増することである。これは、たとえば認知症が発現した場合に成年後見人をつければすむという問題ではない。地域の中で家族の代替機能を誰がどのように確保するかという難題が突きつけられている。

3.超高齢・人口減少社会への対応

人口は社会経済活動の基本であり、これだけ大規模な超高齢化や人口減少は多方面に甚大な影響を与える。以下では、紙幅の制約上、(1)政治、(2)経済、(3)社会保障の3つだけ取り上げ、その政策課題と対応について考察する。

(1)政治

超高齢・人口減少社会が政治に及ぼす影響としてまず挙げられるのは、国力の低下である。(※6)しかも、日本の人口は急減する一方、発展途上国の人口は増加するため、人口規模でみた日本の相対的地位はさらに低下する。ちなみに、日本は世界の中で1950年では5番目、2010年でも10番目に人口が多い国であるが、国際連合の推計によれば、2050年には16位まで低下すると見込まれている。もちろん、国力は人口だけで規定されるわけではない。特に経済力は重要な意味をもつが、後述するように、高齢化や人口減少は経済成長のマイナスに作用することから、その意味でも国力の低下は免れない。

このため、外国からの移民を本格的に受け入れ、人口減少を補充するという議論(いわゆる「補充移民」論)も生じよう。しかし、これは国家のあり方の根本に関わる問題であり慎重に考えるべきである。また、外国人労働力の受入れについては、現状でも日系ブラジル人等の労働力に依存している実態があるが、欧米諸国の経験を踏まえれば、安直な単純労働力の受入れ拡大は好ましいとはいえず、まず日本人の労働参加率を高めることが重要である。これは日本が国際社会に門戸を閉ざし、“独りわが道を歩む”という主張ではない。諸外国、とりわけ東南アジア諸国と信頼を深め、経済的にも政治的にも連携を強固にすることが必要である。また、日本は経済力に比べ国際機関等で活躍する職員数が少ないが、国際社会で通用する人材の養成や情報発信力を高めることは喫緊の課題である。

次に、超高齢・人口減少社会が国内政治に及ぼす影響であるが、世代間の利害対立が深刻化することが懸念される。これは、高齢者の有権者比率が上昇するため、高齢者にとってマイナスとなる政策決定が行いにくくなることによる。ちなみに、2010年の高齢者の有権者比率は28.0%であるが、2035年には38.8%、2060年には45.8%まで増大すると見込まれる。このため、高齢者の給付減・負担増を伴う政策決定を先送りする傾向が強まると予想されるが、“右肩下がり”社会では、これは子や孫の世代の負担を高めることにほかならず、事態をさらに悪化させる。

これを回避するには、国民1人ひとりが、超高齢・人口減少社会の厳しい現実を認識し、現在の課題は現世代で解決する責任があることを自覚することが基本であるが、選挙制度の見直し等も必要だと考えられる。(※7)たとえば、現行の小選挙区制の下では、選挙の争点が局所化され国全体の長期的な利益を考える政治家が選出されにくいきらいがあるため、かつての中選挙区制に戻すことを検討すべきである。なお、既述したように、大都市部に比べ地方都市や農村部の人口減少が大きいことなどから、地域間の対立という問題も生じよう。「国全体の長期的な利益」という視点は、世代間の利害対立の問題だけでなく地域間の対立という問題を回避する上でも重要であることも指摘しておきたい。

(2)経済

経済成長の源泉は、(1)資本蓄積、(2)労働力、(3)技術進歩の3つであるが、人口減少(特に生産年齢人口の減少)や高齢化の進展は基本的に経済成長にマイナスに作用する。

第1の資本蓄積であるが、一定の貯蓄が行われ生産設備の拡大等の投資に回らなければ経済は成長しない。人は若い時に所得の一部を貯蓄として形成し、リタイア後にそれを取り崩し消費に充てるという行動をとる。経済学でいう「ライフサイクル仮説」であるが、これは社会全体についてもある程度当てはまり、生産年齢人口の減少および老年人口の増加は貯蓄率の低下をもたらす要因である。また、人口減少等に伴い日本の市場が縮小し、成長率の高い新興諸国に比べ投資の魅力が薄れれば、海外からの投資(資本供給)が減り、さらにそれが経済成長を低下させるという悪循環を招きかねない。

第2の労働力であるが、労働力人口は生産年齢人口に比例する。その意味で、2010年から2060年にかけて生産年齢人口が3,755万人も減少することの影響は甚大である。また、労働需給が逼迫すれば賃金の上昇を招き、内外労働コストの格差を一層増大させ、製造拠点の海外移転(いわゆる「産業の空洞化」)に拍車をかけるという影響も危惧される。なお、医療・介護は労働集約産業であり雇用誘発効果が強調されることがあるが、中長期的にみれば、医療・介護スタッフの確保が深刻化すると見込まれる。

第3の技術進歩については、技術進歩による生産性の向上があれば経済成長率を押し上げる。ただし、人口減少等が技術進歩にどう影響するかはそれほど単純ではない。たとえば、少子化は1人当たりに投入する教育費等を増加させ人的資本装備率を高めるという議論があるが、反対に、画期的な技術進歩自体が人口の関数であるという議論もあるからである。つまり、技術進歩の発生確率が一定であるとすれば、技術進歩の発生は人口に比例するという考え方である。(※8)また、IT等の技術進歩の受容・活用という観点からも高齢化の進展は一般的にはマイナスに作用すると考えられる。

なお、人口問題と経済との関係については、人口1人当たりのGDPで論じるべきだという見解がある。これは人口が減れば国全体のGDPは縮小するが、生活の豊かさは1人当たりで割り戻したGDPが尺度になるという理由による。ただし、次の2つのことに留意すべきである。1つは、「規模の利益」の要素を考慮すれば、マクロの視点も無視できないことである。たとえば、総人口の減少は国内市場の縮小を意味し、企業活動や資本導入等に悪影響を及ぼす。もう1つは、負債もカウントすべきだということである。わが国の国・地方の長期債務残高はGDPの約2倍に上っており、人口が減少すれば1人当たりの「負荷」(借金額)は大きくなる。

それでは、どうすればよいのか。ポイントは、(1)労働参加率を上昇させること、(2)生産性を向上させること、の2つである。(1)については、現状では有意に低い女性および60歳以上の労働参加率を引き上げることが重要であり、そのためには、保育所の整備など子育てと就労の両立支援、多様な就労形態・機会の提供等が不可欠である。なお、「60歳以上」と書いたが、これは特定の年齢に限定しているわけではない。定年制を撤廃し、高齢者であっても可能な限り就労が継続できるような環境を整えることが重要である。

(2)については、高等教育はもちろんのこと初等・中等教育を含む教育水準の向上、職場内あるいは職場外の能力向上等の取組みが不可欠である。また、企業の技術開発を促進する税制上の措置や規制緩和も大切である。さらに重要なことは、経済戦略として保護政策を採るのではなく、むしろ海外との競争にさらすことにより資源配分を効率化し、産業を活性化することである。

(3)社会保障

人口構造の変容は、社会保障に対し経済という「バイパス」を通じて影響を与えるだけでなく、ダイレクトに甚大なインパクトを及ぼす。特に重要な意味をもつのは老年従属人口指数の急騰である。なぜなら、社会保障は現役世代が生み出した「生産成果」を老年世代に配分するという世代間扶養の色彩を強く帯びているからである。

その最も分かりやすい例は年金である。日本の年金制度は実質的に賦課方式を採っている。賦課方式とは簡単にいえば、老年世代の給付を現役世代の負担で賄う仕組みである。従って、老年従属人口指数の急騰は、年金制度の持続可能性を危うくさせるとともに、世代間の給付と負担の公平性を損なわせるという問題を惹起する。また、日本の年金制度は社会保険方式を採っており、被用者の厚生年金の保険料は労使折半で負担される。このため、経済界からは「事業主負担の増加は生産コストを引き上げ国際競争上不利となる。したがって、社会保険料負担の増大に歯止めをかけるべきだ」という主張が強い。

こうした背景の下に、2004年の年金法改正では、年金の給付水準の抑制(例:被保険者数の減少率および平均寿命の伸びを勘案した給付額の調整など)、保険料の上限の設定(例:厚生年金の保険料の上限は2017年以降18.3%で固定)といった改正が行われた。(※9)しかし、年金制度改革の議論は終焉せず、さまざまな抜本改革案が提起されている。代表的なものを2つ挙げる。

第1に、世代間の格差を生じさせないよう年金制度を賦課方式から積立方式に改めるべきだという主張がある。しかし、世代間格差を年金制度の中だけで論じることは適当ではない。たとえば、現在の老年世代は、年金制度がなかった時代にその前の世代を私的に扶養していたのであり、各世代間の公平性の評価はそれほど単純ではない。また、積立方式に変えれば、巨額に上る積立金の運用をいかに行うのかという問題があるほか、インフレリスク等を考えれば、年金給付の実質的価値を保障できるかという年金制度の本質(存在意義)に関わる別の問題を抱え込む。さらに、仮に賦課方式を積立方式に変更する場合、「二重の負担」(移行期の生産年齢世代は、賦課方式で高齢世代の負担を負っていながら、同時に自らの分の積立も行わなければならない)をどう処理するかという難題がある。

第2に、社会保険方式を税方式に切り替えるべきだという意見がある。しかし、税も国民の負担であり、税方式に切り替えても、給付と負担の構造が本質的には変わることはない。また、税方式のメリットとして保険料未納による無年金者対策として主張されることがあるが、これまで保険料を納付していない者と真面目に保険料を納めてきた人とを同等に扱うことは公平の見地から許されない。このため、ある時点で一斉に社会保険方式から税方式に切り替えることはできず、長期にわたり税方式と(経過的な)社会保険方式が並存する複雑な仕組みとなる。

要するに強調したいことは、(1)年金制度の改革は多元連立方程式を解くのと似たようなところがあり、「部分解」は「全体解」を保証しないこと、(2)年金制度は長期保険(国と国民との一種の長期契約)であるため急激な制度の変更は難しいこと、である。これは現行制度を改める必要がないという意味ではない。たとえば、年金の最低保障機能の強化、年金の給付課税強化を含む年金の給付水準の見直しは行うべきである。また、受給開始年齢(現行は65歳)の引上げも検討を開始する必要がある。いずれにせよ、年金制度は、白紙の上に絵を描くようなわけにはいかない。現行制度をベースにして、人口や経済の変動と折り合いをつけながら、世代内・世代間で「痛み」を分かち合うしかないというのが筆者の結論である。

次に、年金と並ぶ社会保障のもう1つの柱である医療について考察する。年金は世代内・世代間の所得移転というファイナンスだけの仕組みである。これに対し医療はファイナンス(費用の精算・調達)の前にサービスの提供(デリバリー)という過程がある。このため、超高齢化や人口減少が医療に及ぼす影響は年金以上に複雑である。紙幅の制約上、重要な課題と対応を4つに絞り述べる。(※10)

第1に、単一的な医療観や医療モデルの転換が必要である。日進月歩の医療技術の革新に対応するためには医学の専門分化は必然である。ただし、専門分化が進めば包括的な医療の重要性も増す。とりわけ高齢者(特に後期高齢者)は複数の疾病を抱える場合が多いだけでなく、身体機能の低下や認知症の発現に伴い介護需要も高まる。臓器別ではない全人的な医療、日常生活を支える医療、尊厳ある看取りの医療等が重要になるゆえんである。そしてさらに、医療をこのようにとらえると、その関連領域は介護や福祉はもとより、健康寿命を延ばすための疾病・介護の予防や保健、生活の基盤となる住宅、さらには“まちづくり”まで拡大する。いずれにせよ、「医療は医学の社会的適用である」といわれることがあるが、適用すべき社会の姿がこれまでとは一変している以上、医学や医療のあり方自体を見直すことが必要になる。

第2に、医療の機能強化と効率化の双方が必要になる。高齢化の進展に加え医療技術の進歩に伴い医療費の増加は避けられない。これを無理に抑え込もうとすれば医療の質が低下してしまう。ただし、経済と無関係に医療が存立するわけではないことも間違いない。「投入したお金に見合う価値」(value for money)を高める努力はやはり求められる。具体的な課題としては、医療機関の機能分化と連携の推進が挙げられる。諸外国に比べ、わが国の医療供給体制は、病床数が多く、1床当たりの医療スタッフが少ないという顕著な特徴がある。医療の質の向上を図るには、医師をはじめ医療スタッフを集積し「医療密度」を高めることは喫緊の課題である。また、機能分化が進めば、医療機関相互あるいは医療と介護の連携も重要性を増す。在宅医療の推進の舵が切られているが、それを自宅(狭義の在宅)だけで受け止めることは現実的ではない。老人保健施設や特別養護老人ホームに加え、グループホーム、ケア付き住宅等の集住型の居住系施設・住宅の拡充を図る必要がある。これは、特に高齢化が急激に進む大都市部における喫緊の課題である。

第3に、労働力人口が減少する中で医療従事者の確保が切実な問題となる。しかも、医療の高度化に対応するには、数だけではなく質も重要である。しかし、優秀な労働力が欲しいのは他の産業分野も同じであり、特に若年労働力の「争奪戦」が激化すると思われる。その際に重要となるのは、医療従事者の専門職能の高度化や業務分担の見直し等による生産性向上である。医師や看護師等の職務の実状をみると、他の職能者や事務職で代替できる業務を抱えており、過重労働の大きな要因となっている。医師でなくても遂行できる業務は看護師など他の医療従事者や事務職に委ね、看護師でなくてもできる業務は介護職等に委ねるなど、本来の職務に専念できるようにするとともにそれぞれの職能のレベルアップを図る必要がある。

第4に、医療費の負担の公平性を確保することが重要になる。2009年度の年齢階級別の「国民医療費」をみると、総人口の2割強の高齢者が総医療費の過半(55.4%)を使っており、さらに高齢者を前期高齢者(65歳から74歳)と後期高齢者(75歳以上)に分けると、総人口の1割強の後期高齢者が総医療費の約3分の1(32.6%)を使っている。これは加齢に伴い受診率が高まるため、やむをえない面があるが、今後、超高齢化が進むことに伴い、医療費の給付と負担をめぐる世代間対立が深刻化することが懸念される。このため、前述した医療の効率化や予防を通じた健康寿命の延伸を図るとともに、現役世代に比べ低く設定されている高齢者の医療費の窓口一部負担割合の引上げを検討する必要があると考えられる。

4.おわりに――結びに代えて――

以上、超高齢・人口減少社会の現実と対応について考察したが、最後に3つ述べて結びに代えたい。

第1に、人口問題の“怖い”ところは、気がついたときには手遅れで「リカバリーショット」を打てないことにある。実際、近未来の超高齢・人口減少社会は相当程度「所与」のものと考えざるをえない。しかし、だからこそ、未来に生起する事態を「想像」し、その「備え」を今のうちから行うことが重要である。また、健康寿命の延伸や女性や高齢者の労働参加率の向上など超高齢・人口減少社会のインパクトを緩和する政策を推進する必要がある。

第2に、超高齢・人口減少社会は、古今東西を問わず、いずれの国も経験したことがない。「超高齢・人口減少社会、恐れるに足りず」といった論調も散見されるが、未経験の事象については謙虚さが求められよう。また、将来は完全には予測できないからこそ、そのときの「余力」を残す必要がある。端的にいえば、問題を先送りしてはならないということであり、これは将来世代に対する我々の社会的責務であるというべきである。

第3に、超高齢化や人口減少は日本固有の問題ではなく、世界からその対応が注目されている。特に、台湾、韓国、シンガポール等の出生率は日本より低く、他の東南アジア諸国でも人口置換水準を下回っている国が少なくない。また、超高齢社会にいかに対応するかは先進諸国が共通して抱える課題である。したがって、日本が叡智を結集し、超高齢・人口減少社会に適切に対応するモデルを示すことは、国際貢献という意味でも非常に重要である。

 

(※1)^ ただし、日本は世界で最も長寿化が進んでいる国であり、寿命が今後どの程度伸びるかは十分予測できない面がある。このため、「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」では、将来の死亡推移が高位、中位、低位の3つに分けた推計を行っている。63万7000人は死亡中位の数値であり、死亡高位では48万7000千人、死亡低位では82万1000人と推計されている。

(※2)^ ちなみに、出生率高位の場合の出生数は、2035年に85万人、2060年には68万人と見込まれており、2010年の107万人に対し減少する。

(※3)^ 換言すれば、日本は、かつての「人口ボーナス(bonus)」社会(高齢者を多くの現役で支える社会)から、「人口オーナス(onus)」社会(高齢者を少数の現役で支える社会:オーナスの原義は「重荷」)に移行しており、今後さらにそれが加速するのである。

(※4)^ 「日本の都道府県別将来推計人口(2007年5月)」は、「日本の将来推計人口(2006年12月)」の推計と平仄を一にするものであり、「日本の将来推計人口(2012年1月)」とは推計の基礎数値等は異なっている。ただし、新旧の「日本の将来推計人口」を比べると大きな傾向は変わっていないことから、ここでは、「日本の都道府県別将来推計人口(2007年5月)」の推計数値を修正せず用いる。なお、これは後述する「日本の世帯数の将来推計(全国推計)[2008年3月推計]」についても同様である。

(※5)^ さらに、大都市圏の中でも市町村レベルの実状は異なる。一例だけ挙げると、高度成長期に建設された代表的なニュータウン都市である東京都多摩市の高齢化率の推移をみると、1980年には4.5%であったのが、2005年には15.8%となり、2030年には33.0%と急上昇すると見込まれている。これは、都市開発が行われた時点では働き盛りの層が一斉に入居したため高齢化率は低かったのが、その年齢層がいわば「そのまま持ち上がり」、高齢化を迎えるからである。

(※6)^ 国力の概念および人口減少との関係については、小林陽太郎・小峰隆夫編『人口減少と総合国力―人的資源立国をめざして』(日本経済評論社、2004年)が好文献であり、参照されたい。

(※7)^ なお、有選挙権の年齢を20歳から18歳に引き下げることのほか、年金等の世代間負担に関わる重要な政策決定過程に若年者を参加させること等も検討する必要があると思われる。

(※8)^ たとえば、チャールズ・I・ジョーンズ著(香西泰監訳)『経済成長理論入門』(日本経済新聞社、1999年)を参照されたい。

(※9)^ 被保険者数の減少率および平均寿命の伸びを勘案した給付額の調整は「マクロ経済スライド」と呼ばれる。ただし、年金の物価スライド額からマクロ経済スライド分(約0.9%)を差し引くと年金額が下がる場合には発動されない。実際、2004年の年金法改正以降、物価は低下傾向にあったためマクロ経済スライドは一度も発動されていないが、このような場合でもマクロ経済スライドを発動できるよう改正が必要だと考えられる。

(※10)^ 医療政策の課題と対応に関する筆者の見解については、島崎謙治『日本の医療-制度と政策』(東京大学出版会、2011年)を参照していただきたい。

  • [2012.07.02]

政策研究大学院大学教授。1978年東京大学教養学部卒業。厚生省(当時)入省。千葉大学法経学部助教授、厚生労働省保険局保険課長、国立社会保障・人口問題研究所副所長、東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授等を経て、2007年から現職。東京大学大学院法学政治学研究科グローバルCOEプログラム特任教授(兼務)。主著『日本の医療-制度と政策』(東京大学出版会,2011年)、共編著『在宅医療の展望』(中央法規出版、2008年)、共著『社会保障財源の制度分析』(東京大学出版会,2009年)などがある。

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