特集 日本の新政治勢力の研究
メディアが生んだ「モンスター」橋下徹

祝迫 博【Profile】

[2012.07.10] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

政治的に、今最も注目されている橋下徹大阪市長。改革者か扇動家か、首相待望論も根強いカリスマ的政治家の本質に、間近で取材してきた記者が迫る。

橋下徹大阪市長とは何者なのか。日本のあらゆるメディアがその正体を見極めようとしている。真の改革者なのか、希代の扇動家なのか。時代のあだ花に終わるのか、首相に上り詰めるのか——。規格外の政治家像から政界の「モンスター」と呼ぶ声も聞く。いずれにしても一地方の一首長への論評としては政治史上、異例の事態だろう。

メディア報道を常に意識

橋下氏は2008年2月、国内2位の総生産を誇る大阪府の知事に38歳で就任した。以来、ニュースの発信源であり続けている。なぜか。彼の言動を追い続けてきた者として提示できる一つの答えはメディアとの関係だ。

大阪市長選と大阪府知事選で当選を確実にし、支援者らと万歳する橋下徹氏(中央左)と松井一郎氏(同右) (2011年11月27日、写真=時事)

橋下氏は「メディア抜きには僕なんて存在できない政治家ですよ。メディアの皆さんが無視すれば僕は終了」と言う。政治生命の維持のため、常にメディアに報道させることを意識していると読める発言だ。2011年11月の大阪府知事、大阪市長のダブル選はその好例で「どうすればメディアに取り上げてもらえるか」と計算し、決行したことを明かしている。

争点となった「大阪都構想」の説明は後述するが、この選挙で橋下氏は「都構想で大阪を再生させる」と訴え、知事職を途中辞任して格下とも言える大阪市長選にくら替え出馬し、構想に反対する現職市長を追い落としにかかった。知事選には、腹心の府議会議員の松井一郎氏を後継指名、大阪で40年ぶりとなるダブル選を仕掛けた。

知事選も市長選も、公明党以外の主要政党がすべて敵に回る中、橋下氏は「この戦いは大阪を変えるか、変えないかの二者択一だ」と訴え、自分たちを改革派、既成政党と対立候補を守旧派とする印象を植え続けた。結果は、長引く不況や国政の停滞に嫌気の差していた有権者の変革への期待をすくい取った橋下氏側の勝利となった。

小泉元首相と似て非なる点 

ダブル選後、橋下氏の求心力は一層高まっている。代表を務める地域政党・大阪維新の会(以下、維新)の次期衆院選への進出を明言し、その候補者予備軍を養成する「維新政治塾」には定員400人に3326人が殺到し、2045人を受け入れて2012年3月に開講。計5回の講義で受講態度や選挙資金力を基準にさらに888人に絞り込み、7月以降は街頭演説など実戦的な訓練を積ませる予定だ。維新を脅威と感じる主要政党は、都構想実現の法整備に乗り出す一方、橋下氏との衆院選での連携を模索する状況が続いている。

「自民党をぶっ壊す」と叫び、自民党候補に刺客を立てて2005年8月、総選挙を敢行した小泉純一郎・元首相と重ね合わせた方もいるかもしれない。2人とも、対立構図に持ち込む選挙戦術やワンフレーズの圧倒的発信力、大量の政治信奉者を生み出すカリスマ性を兼ね備えている。

だが、小泉氏が自民党の古い派閥政治を生き、首相という政治家人生の頂点でメディアの脚光を浴びたのに対し、橋下氏は政治とは無縁の世界から突如現れ、メディアを生命線に駆け上がってきた。何より、まだ若い。43歳だ。

また小泉氏は歴代首相で初めて1日2回、報道陣の質問に応じる取材スタイルを取り入れ、私も東京時代に参加したが、数分か長くても10分程度で、途中の打ち切りも多かった。だが、橋下氏は1日2回、質問が尽きるまで応じ、1回で1時間に及ぶこともある。別に週1回開く定例記者会見は2時間近く話すことも珍しくない。

その分、報じられ方には強く執着し、朝は出勤中の車中で主要新聞にすべて目を通し、夜は録画したニュース番組をチェックする。内容によっては即座に「誤報だ」などと報道機関や記者を名指しで批判し、ツイッターで反論する。

2月に民主党幹部が、意に添わない批判記事を載せた新聞社を記者会見から閉め出す問題が起きたが、橋下氏は「僕だったら、その記者に来てもらって、悪口を言いまくる」と反応した。私の知る限り、彼ほどメディアに貪欲な政治家はいない。

橋下劇場の初「演目」は財政再建

知事になる前の橋下氏は茶髪にTシャツ、ジーパン姿で法廷にも立つ弁護士だった。派手な服装は「依頼者に強烈な印象を与える営業戦略」で、猛烈な仕事ぶりと相まって、独立まで10年と言われた業界で、弁護士登録から1年、28歳で個人事務所を開設。示談交渉が得意な一匹狼として名をはせた。

そんな異才が注目され、テレビ番組のコメンテーターとして出演するや、肩書と外見との落差がウケて、一躍人気者になった。その活躍ぶりに大阪出身の作家、堺屋太一氏が目を付け、知事選に担ぎ出したのが政界進出までの大まかな経緯だ。

橋下氏を理解するには、この「テレビの世界で生きてきた」経歴の分析が重要だ。テレビの特性とは何か。本人は実体験から「圧倒的特徴がないと視聴者に伝わらない」ことを挙げる。コメンテーターは複雑な事象でも歯切れよく斬ること、時には極論で茶の間を沸かすことが求められる。発言は、あいまいさを排して「黒か白か」に単純化され、過激さを増す。橋下氏はテレビの世界で培った手法を政治家になっても踏襲した。政治・行政の劇場化である。「舞台」は選挙にとどまらず、日常の会議や政策決定過程まで及び、メディアに公開して賛否両論が巻き起こるような対立劇を演出した。

最初の「演目」は大阪府の財政再建だった。4年前、府は6兆円近い府債(借金)を抱え、財政の硬直度は47都道府県中、ワースト2だった。橋下氏は就任初日、職員を前に、その財政状態を「府は破産会社。皆さんは破産会社の従業員だ」と訓示し、メディアが飛びつくフレーズで財政再建の必要性を広く周知することに成功した。

同時に、完成直前の2008年度予算案を白紙撤回し、4月から4か月限定の予算に組み直し、その間に徹底的な財政再建策をまとめる奇策をとった。

柱となった府の全職員約9万人を対象とした給与カットは役職に応じて3.5~16%削り、退職金は都道府県で初めて5%切り込んだ。労働組合からは激しい反発が起こったが、橋下氏は従来、非公開だった組合との交渉を公開。「我慢の限界を超えている」と反発する組合幹部と、「財政が立ちゆかなくなったら民間企業なら従業員はクビだ」と攻める橋下氏との応酬が報じられ、橋下氏を支持する圧倒的多数の声が、カット案を審議する府議会議員に寄せられた。長引く不況で雇用情勢が不安定になる中、身分保障された公務員に注がれる厳しい風潮を巧みにあおり、追い風にしたといってよい。

「奴隷解放」を叫んで国に圧力

メディアにどう報じさせるか。橋下氏のこの意識は数々の印象的なフレーズを生み、物事を動かしてきた。例えば、国直轄事業負担金制度。国が行う道路整備や河川改修などの公共事業費の一部を、地元自治体にも負担させる仕組みだが、2008年当初は金額の明細も示さなかったため、地方の不満が高まっていた。

橋下氏は2009年2月、府の予算からこの負担金の一部計上を見送ることを表明して問題提起すると、直後に上京し、制度を所管する当時の国土交通相と面談。報道陣に公開された短時間に「地方は国の奴隷ですよ。奴隷解放をしてもらいたい」とまくし立て、制度の問題点を「奴隷」という言葉で広く発信した。さらに1か月後の政府の委員会では、不当な高額料金を要求する悪質な飲食店に例えて、「ぼったくりバーみたいだ」と酷評、さらに波紋を広げた。負担金の廃止は全国知事会が1959年から国に求めてきた古い課題だったが、国に公共事業を減らされることへの恐れもあって大きな声にならなかった歴史を持つが、橋下氏の一連の発言が報じられると、他の知事らも次々と呼応。地方の圧力が国を動かし、2010年度から制度の一部廃止につながった。

日本の教育委員会制度にもかみついた。小中学生向けの2008年度の全国学力テストは当時、都道府県別の結果のみの公開で、市町村や学校別については「序列化を生む」として教育委員会が非公開としていたが、7人の子持ちの橋下氏は保護者の視点でラジオ出演の際、「くそ教育委員会が(結果を)発表しないと言うんですよ。ガンガン文句言ったらいいですよ」と発言、さらに報道陣の前で教育委員会を束ねる文部科学省を「ばかですね」などとこき下ろした。公人とは思えない「くそ」「ばか」発言は大きな物議を醸したが、情報公開を求める主張は主に保護者の共感を呼び、教育委員会側が押し込まれ、翌年度、大阪府内では市町村別の結果が情報公開請求に応じて、原則公開された。

人物評は割れる橋下氏だが、誰もが勉強量は半端でないと証言する。さまざまな施策や制度を猛烈な勢いで学び、議論し、課題を理解することにかけては、比類ない能力を発揮するという。直轄事業負担金や教育委員会の例でも分かるように、彼の過激な言葉は単なる罵詈雑言ではなく、機能不全に陥る日本のシステムの弱点を突いており、訴求力を持つ秘密となっている。

「民意」を盾にコストカットにまい進

メディアを通じた発信と受信を重視する橋下氏の政治スタイルは、必然的に「民意が何を求めているか」「何をすれば民意に支持されるか」という行動基準を生む。知事就任早々、公約を棚上げしてコストカットに集中したのも、それが民意と判断したためだ。

2008年度から3年間の「財政再建プログラム」は、前述の公務員の給与カットを含め、▽建設事業費の原則2割カット ▽私学への学校運営補助金の10%~25%削減 ▽集客中心の28 府立施設のうち9 施設を廃止・民営化など削減、廃止、縮小のオンパレードとなった。切られる側は強く反発したが、労働組合との対決同様、利害のぶつかる生の議論が公開される中で、橋下氏の弁護士として鍛えた論争術とメディアを通じて集まる「府民の声」の前に、ほとんどが押し切られた。

文化行政を巡る論争では、橋下氏は、府設立の交響楽団への年約4億円の補助金の削減方針を打ち出して強い反発を招いたが、こんな発言で平然と挑発した。

「行政や財界は、インテリぶってオーケストラ(が大事)とか言うが、大阪はお笑い(漫才や落語)の方が根付いている」

「無教養」を自認する橋下氏は、時に伝統や文化に無知とも言える暴論を吐き、効率性で切り捨てる。大いなる危惧を覚える点だが、一方で彼の「税金で、どの文化をどこまで守るのか」という訴えには本質的な問いが含まれており、この議論は結局、補助金ゼロの楽団自立化で決着した。コストカッターに徹する橋下氏の狙いは的中し、任期中の府民の支持率は7~8割を維持し続けた。

「第一級の取材対象」の立場を肥やしに

カットに関する話を、もうひとつ。橋下氏が率いる維新の大阪府議団は、2011年春の統一地方選の前に、議員報酬の3割カットを主導し、一気に都道府県議会の最低水準まで引き下げた。さらに統一選で、議員定数を約2割減らす公約を掲げて単独過半数の最大会派に躍進すると、直後の府議会で、維新単独の強行採決で関連議案を可決。議論が不十分との批判も相次いだが、失職覚悟の断行は、半年後に橋下氏が実行したダブル選勝利への重要な伏線となった。こうした姿勢は、議員歳費や議員定数について議論ばかりで一向に削れない国政政党との大きな違いであり、維新が国民の期待を集める一因となっている。

自らが代表を務める「大阪維新の会」の「維新政治塾」の入塾式を終え、笑顔で記者の質問に答える橋下徹大阪市長(左)と石原慎太郎東京都知事(2012年06月23日、写真=時事)

とはいえ、橋下改革の評価には、相当な注意を要する。一例を挙げると、橋下氏は最初の3年間で、計3000億円もの収支改善を達成したが、府債残高は就任前の5兆8288億円から、2010年度に6兆739億円まで増加するなど、好転していない。主財源の法人税が不景気で落ち込んでカット分を帳消しにし、過去の大型公共事業で乱発した府債のツケが重くのしかかっているためだ。

自己反省を込めて言うと、日本のメディアは眼前の派手な対立や発信は大きく報じる傾向にあるが、事後検証力は概して弱い。また首都・東京と異なり、ニュースの発信源がもともと少ない大阪のメディアにとって、大統領制に近いトップダウンで次々と決定を下す橋下氏は「第一級の取材対象」であり、往々にして「今日は何を言ったか」「明日は何をするか」という視点で報じられがちだ。その土壌が橋下氏を肥え太らせてきた側面は否定できない。

競争主義と制度変革

橋下氏の政策を理解する二つの視点の一つは競争主義だ。14歳まで母子家庭で育ち、校内暴力で荒れた中学校から府内屈指の進学校へと進み、自らの才覚と努力で弁護士業界と芸能界を生き抜いてきた橋下氏は、政策にも強い競争原理を働かせる。例えば2012年3月に大阪府議会で成立した職員基本条例と教育基本2条例は橋下氏主導の産物だが、府職員への新たな人事評価は約2000人に1人程度だった従来の最低評価が20人に1人となり、2年続くと分限免職の対象として研修送りになるなど、一気に厳格化した。

教育条例の根底には教師や学校を競わせて質を高めようという思想が流れている。ただ、その結果、一連の条例化議論と同時期に重なった2012年度の大阪の公立学校教員採用試験で、合格者の辞退率は、例年より3~4ポイント高い過去最悪の数字を記録し、教員志望者の大阪離れが進んだ。米国のブッシュ政権時代に批判を浴びた教育改革「NCLB(No Child Left Behind)」(落ちこぼれゼロ法)との類似性も指摘されており、慎重な運用が求められている。

二つ目は制度や機構、手続きの変革を志向する側面だ。現在、大阪府知事と取り組んでいる大阪都構想は、大阪府と同等の権限を持つ大阪市を、府に統合し、類似施設の建設や類似施策の提供といった「二重行政」をなくし、広域行政を担う大阪都と、住民に身近な基礎自治体に再編する考えで、氏の制度論の根幹を成す。また維新が7月5日発表した次期衆院選の公約原案「維新八策」改訂版では、「グレートリセット」を合言葉に首相公選制や道州制、参院廃止など、国の根幹システムの変革案が並ぶ。

橋下改革の検証がメディアの責務

閉塞感に満ち、グローバリズムの波に飲まれながら、ゆるやかな衰退に向かう今の日本社会で、国の政治が抜本的改革を打ち出せない状況が続く限り、橋下氏は今後も求心力を維持するだろう。自らの国政進出は今のところ否定しているが、国会が現在のように政争に明け暮れる限り、首相待望論がやむこともないだろう。永田町からは「賞味期限切れを待つ」といった消極的対処法も聞こえるが、橋下人気の構造を読み取れば、甘い見通しと言わざるを得ない。

ただ、「グレートリセット」を魔法の言葉のごとく操り、制度を変えれば、この社会が劇的に変わるかのような幻想を与える橋下氏の訴えに、私は違和感を覚えるし、次から次へと戦う舞台と戦う対象を変え、熱狂を巻き起こすような手法には危うさを禁じ得ない。

例えば、私たちは衆院選の小選挙区制の導入で、本来の目的だった政策論争中心の選挙を実現出来ただろうか。土井たか子氏のマドンナブーム、細川護熙・元首相の新党ブーム、直近では民主党の政権交代と過去、何度も起きた政治的熱狂の後に、いくつもの仕組みや制度が改められたが、政治の質の向上を実感しているだろうか。

橋下氏が希有の人材であることは間違いないが、私たちは歴史からも学ばねばならない。日々発信される発言を吟味し、次々と決定される政策を検証し、その後を監視する。冷静に。息長く。それが時代を背負う「モンスター」を生み出したメディアの務めだろう。

タイトル背景写真:時事

 

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  • [2012.07.10]

1971年滋賀県生まれ。京都大学大学院終了後、読売新聞大阪本社入社。2002年から大阪社会部。主に政治・行政分野を担当し、橋下徹氏への取材は2007年の大阪府知事選前夜から5年続けている。

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