特集 中国・習近平新政権が直面する国内問題
中国「資本過剰経済」からの脱出が課題

梶谷 懐【Profile】

[2012.10.16] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

リーマンショック後、世界経済のけん引役になったものの、最近は減速が懸念される中国経済。梶谷懐神戸大学准教授は同国の「過剰資本蓄積」がバブルや格差などを生み出しており、その抑制が習近平政権の課題だと指摘する。

改革開放路線によって市場化を進めてきた中国経済は、1990年代半ば頃から大きな転換点を迎えることになる。第1に、税目などで中央政府と地方政府の税を分類する分税制を1994年に導入したことに代表されるように、それ以前は地方政府に大きな運営上の裁量権を付与していた財政・金融システムについて、中央政府のコントロールをより強化し、一定のルールによって制御する方向の改革が行われた。もう1つの大きな変化として、それまで発展途上国として基本的に資本不足の状態にあったと考えられる中国経済が、持続的な高度経済成長と旺盛な国内投資を背景として、次第に「資本過剰経済」へと転換していったことが挙げられよう。

資本不足経済から資本過剰経済への転換の契機は、海外資本の積極的誘致、国有地使用権の払い下げを通じた都市開発推進、そして、それまで国有企業などが提供していた住宅の市場を通じた供給への転換、さらに内陸地域への財政補助金を用いたインフラ建設の本格化など、江沢民政権期(1992年~2002年)に実施された一連の経済政策に求められる。しかし、「資本過剰経済」への転換と、その帰結としての「過剰資本蓄積」が本格的に観測されるようになったのはむしろ胡錦濤政権期(2002年~)のことであった。

特に、リーマンショック後の景気刺激策は、市場に対する政府の介入の度合いを増大させ、「国進民退」と一部の経済学者などから批判される事態を招いた。そのような地方政府主導の過剰な固定資本投資とセットになった一連の景気刺激策は、「過剰資本蓄積」の根本的な解決をもたらすものではなく、市場に対する国家の介入を通じて問題の先送りを行うものだったからである。

「過剰資本蓄積」とその帰結

まず、経済が「過剰資本蓄積」の状態にあるとはどのようなことか、マクロ経済の動学理論に基づいて簡単に整理しておこう。ここでいう「過剰資本蓄積」とは、端的に言うと、固定資本投資の収益性が低下し、現在の投資を減らして消費を増やした方が明らかに経済厚生が増加するにもかかわらず、消費が抑制され、さらなる資本投資が持続的に行われるような状況のことである。

ここで重要なのは、「消費の時間選好率」と「投資の収益性」との関係である。「消費の時間選好率」とは、将来の消費よりも現在の消費を好む割合であり、現在の消費1単位と、それと等価になるような将来の消費との比率によって定義される概念である。消費の時間選好率が投資の収益率を上回っているとき、現在の投資を減らして消費を増やした方が経済厚生は増加する。

経済が「過剰資本蓄積」にあるとは、資本ストックの蓄積が十分に進んで、すでに投資の収益率が時間選好率を下回っているにもかかわらず、投資の勢いが止まらず、さらに資本蓄積が進んでいくような状況のことを指す。このような状況下では、資産価格上昇による「キャピタルゲイン」への期待によって投資の実質的な収益性の低下が埋め合わされることになる。すなわち、資本の過剰蓄積は資産バブルの発生と非常に親和的なのである。

このような資本の過剰蓄積が、中国経済にもたらした帰結は、以下の3点にまとめられるであろう。

(1)不動産バブルの顕在化
(2)経済主体間の資産格差の拡大
(3)産業の「二重構造化」の顕著化

不動産バブルと格差拡大

このうち、(1)の不動産バブル顕在化の背景としては、1990年代後半の土地制度改革によって地方政府が土地の使用権を不動産業者から実業者に有償譲渡できるようになり、同時に国有企業の住宅が従業員に払い下げられるなど、住宅の市場化・商品化が進んだことなどが挙げられる。

この意味では、しばしば「バブル」として言及される不動産価格高騰の制度的源泉は明らかに江沢民政権期に求められる。ただ、江沢民政権当時は、地方政府幹部と業者との癒着に対する「重し」が朱鎔基首相の下で機能していたのに対し、この重しが効かなくなり、頻繁に資産バブルが発生するという形で問題が顕在化するようになったのは胡錦濤政権期であるといえよう。

上述のような住宅資産の私有化、市場化、ならびに土地使用権を含めた資産価格全般の高騰は、そのような資産を「持つ者」と「持たざる者」の間の格差拡大をもたらす。中国社会科学院社会科学研究所の調査(李、陳、李、2006)では、家計所得のジニ係数が0.496であるのに対し、資産保有額のジニ係数は0.653であり、上位20%の保有額と下位20%の保有額との格差は72.4倍にも達したことが指摘されている。(※1) このような家計間のストック格差の拡大は、資本所得の拡大を通じて、フローである所得の格差拡大にも影響を与えていると考えられる。

産業の「二重構造化」

(3)に挙げた産業の「二重構造化」の顕著化についても少し述べておこう。これは、産業構造が中央・省政府に近い企業と民間の中小企業とに二分化し、前者が政府と結びついた独占・寡占構造によってレント=収益増を享受するのに対し、後者は激しい競争と低収益にさらされる、という、いわゆる「国進民退」と呼ばれる状況が顕著になってきたことを指すものである。特に、リーマンショック後の景気刺激策は、市場に対する政府の介入の度合いを増大させ、国有企業とそれ以外の企業との利潤率の格差拡大をもたらした。

非国有の中小企業はまた、それを支える信用面でのインフラが脆弱(ぜいじゃく)であり、金融引き締めの影響を受けやすい。2011年秋に浙江省温州市では、民間金融機関が破綻し、それに伴って民間企業の倒産や企業家の「夜逃げ」が相次いで、信用不安が発生した。これは中国の民間金融、民間企業の脆弱さを象徴する出来事であったといえよう。

「資本過剰経済」の要因

すでに述べたように、胡錦濤政権期に入り、中国経済に資本不足経済から資本過剰経済への転換が本格化した。それは、下記のような「過剰資本蓄積」の要因ともいうべき現象が、胡錦濤政権期において深刻化したからにほかならない。

(1)(地方)政府主導の積極的な投資行動
(2)労働分配率の趨勢的低下
(3)企業による内部留保の増大
(4)家計部門における高い貯蓄率

以下では、これらの「過剰資本蓄積」の要因となる現象について個別に検討していくことにしたい。

(地方)政府主導の積極的な投資行動

改革開放期の中国においては、地方政府および銀行や不動産業者などからなる「コーポラティズム」的な一種の政財複合体が、消費需要が伸び悩む状況の下で、積極的な投資拡大行動によって高成長をけん引してきたと考えられる(梶谷、2011)。(※2)

1990年代以降、投資に占める地方管轄比率が全体の50%を超え、さらにその比率は年を追って上昇し、現在は90%近い水準に達している。社会的なセーフティーネット構築が不十分な下で高成長を続け、所得上昇分に比べて国内消費が伸び悩んでいる現在の中国にとって、地方政府主導で行われる固定資産投資は、その高成長を支える国内需要の最大要因になってきた。

ただ、このような地方政府の積極的な投資が効率的なものであったかどうかとなると、それに疑問を投げかけるような実証研究がいくつも発表されている。

例えば、ファンとチャン・カン(Fan and Chan-Kang, 2008)は、1980年から2002年までの期間に、高速道路の供給が急速に進んだ半面、より地域性の強い道路の供給が遅れた状況に注目した興味深い研究を行っている。(※3) 彼らはまず、道路の等級別にその供給状況を整理した上で、それらを「上級道路」「下級道路」の2つに分類し、それぞれの供給が、都市・農村の生産性向上、さらには貧困改善に対してどの程度貢献しているかを比較した。その結果、いずれの推計においても、より下級の、すなわち地域性の強い道路の供給の方が経済的な効果は大きい、という結果が得られたのである。また彼らは、より経済効果が高いはずの、地域に根差した道路の整備が後回しにされ、高速道路や幹線道路の供給が優先されるのは、地方政府にとってより短期的なリターンが得られる後者の方を優先するインセンティブがあるからだ、と指摘している。

政府主導による積極的投資行動の影響は、道路建設のようなインフラ投資にとどまらない。リーマンショック後の4兆元の景気刺激策の例が示すように、国有企業の設備投資行動も、中央・地方政府の政策的な意向の影響を強く受けていると考えられる。また、政府主導の固定資産投資の効率性には、地域によって大きな差異が存在する。いくつかの実証研究の結果からも、「和諧社会」(調和のとれた社会)建設を政策として掲げた胡錦濤政権期に大々的に行われた内陸部重視の投資政策は、資本の非効率な配分をもたらすことで、結果的に資本の過剰蓄積を深刻化させた可能性が高い。

労働分配率の趨勢的低下

中国におけるマクロ的な労働分配率は、1990年代から趨勢的な低下を示している。この労働分配率低下は、家計の消費需要低下と密接に関係しており、政府の投資需要による成長率底上げを誘発しやすいと考えられる。ただし、経済全体のマクロ的な労働分配率の推計は精度の面でいろいろな疑問点も抱えている。それに比べてより信頼性が高いのは、ミクロデータを用い、製造業部門における労働の限界生産性との比較において労働分配率がどの程度過大に評価されているのか検討を行う手法である。

1980年代後半に国有企業改革が開始されると、利潤追求を目的としない国有企業は、従業員に過大な賃金支払いを行っており、それが経営を圧迫しているという主張が盛んになされるようになった。しかしながら、その後、中国の労働分配率をめぐる状況は大きく変化した。過剰分配からむしろ過少分配の傾向が見られるようになったのである。

そのことを強く印象づけるのがフレイシャーほか(Fleisher, Hu, Li, Kim, 2011)による研究である。(※4) 彼らは、1998年から2000年の、全国425の鉱工業企業のミクロデータを用いて、労働の限界生産性と賃金水準とのギャップを推計した。その結果、教育水準の高い従業員(技能労働者)の2000年の賃金水準は労働の限界生産性のわずか7.5%、また、教育水準の低い従業員(非熟練労働者)の賃金水準も労働の限界生産性19.2%と、いずれも限界生産力を大きく下回る水準しか賃金が支払われていないことを明らかにした。これらの先行研究を見ても、2000年代に入って、工業部門における労働分配率がむしろ労働生産性を下回るようになったことはほぼ間違いないといってよいだろう。

企業による内部留保の増大

中国における粗貯蓄率を経済の部門別に見た場合、2000年代に入ってからの企業部門の貯蓄率が目立つようになっている。こうした企業部門における貯蓄率の上昇は、フォーマルな金融機関からの借り入れが困難である上に、激しい競争圧力にさらされた中小企業を中心に、労働者への賃金払いを圧迫して内部留保を増やした結果だと考えられる。また、そうして増大した企業の内部留保は、より一層の固定資本投資を促進したと考えられる。すなわち、労働分配率の低下→企業の内部留保増大→企業部門の積極的な資本蓄積、という因果関係が働いていたと考えられる。

家計部門における高い貯蓄率

一方、家計部門も一貫して高い貯蓄率を経験してきた。その要因として、特に農村部において社会保障制度が不十分なため、家計が将来のリスクに対する保険として貯蓄に頼らざるを得ない状況が挙げられる。特に1990年代後半以降には、国有企業改革による企業からの社会保障の切り離し、および住宅の持ち家化の推進という一連の流れの中で、受け皿となるセーフティーネットが不十分であったため、家計部門が一種の保険的な動機からより貯蓄性向を高めたものと考えられる。

以上に挙げた4つの現象は、どれか1つが過剰資本蓄積の主要な要因というわけではなく、相互補完的なものと考えるべきであろう。例えば、製造業部門における企業の内部留保の増大は、賃金所得を圧迫し労働分配率の低下につながり、それはまた家計における消費の低迷の大きな原因になっていると考えられる。そして民間部門の消費需要が伸び悩む中で、中央・地方政府が高成長と安定した雇用状況の維持のために依存したのが、政府主導による積極的な固定資本投資であった、というわけである。

このような状況下でも、政府部門が老齢年金などの社会保険の仕組みを整え、社会保障などのサービスを充実させれば、現役世代から消費性向の高いリタイア世代への所得移転が進むため、消費が刺激され、過剰な資本蓄積が抑えられる。しかし、実際に中国政府が取った行動は、社会保障制度を充実させるよりも、財政・金融政策を通じて政府・民間部門の固定資本投資を刺激し、当面の需給ギャップを解消することであった。これでは過剰な資本蓄積が抑えられず、経済が動学的に非効率な状態から抜け出せないことになる。

習近平政権の政策課題

米国における中国経済研究の第一人者であるバリー・ノートンは、「和諧社会」の実現に向けた胡錦濤政権期における経済政策のポイントを以下のようにまとめている(Naughton, 2011)。(※5)

(1)農村における医療・年金改革など社会保障制度改革の実施、「経済性住宅」の供給
(2)農村・農業、内陸部への補助金支出の拡大
(3)国有企業改革の停滞と独占化の進行、エネルギー・資源・通信など特定産業への集中
(4)戦略的産業や「メガプロジェクト」への支援、および基礎的な技術開発の推進など、より積極的な産業・技術政策の実施

これらの「和諧社会」を目指す一連の政策は、(1)の社会保障制度改革を除けば、「過剰資本蓄積」の根本的な解決をもたらすものではなく、市場に対する国家の介入を通じて問題の先送りを行うものである、といえよう。ただ、国家の介入を強めることは、一方では「過剰資本蓄積」の矛盾をさらに強めるという側面を持っている。そのため、矛盾が解決されず国家介入の度合いが徐々に強まるという一種の「罠(わな)」に陥っているものと考えられる。

前述した温州市での民間企業の信用不安のような、資産バブルの局所的崩壊とも理解できる現象は、中国における「資本過剰蓄積」状態が続く限り今後も引き続き生じる可能性がある。また、上記のような「問題の先送り」は、労働人口減少によって潜在成長率の低下が生じることにより成り立たなくなる。そのような事態を迎える前に、習近平政権は、農村における社会保障制度の整備と「都市・農村一体化」の推進、効率的なインフラ供給のネックとなる地方政府のインセンティブ構造の変革、民間企業の台頭を促進する競争的金融システムの構築、資産税制(物業税)の導入による「資産格差」拡大への歯止め、といった一連の課題に真正面から取り組まなければならない。

ただし、これらはある面では市場に対する政府のより一層の介入強化を要請するものである一方、別の面ではむしろ過剰な市場介入からの政府の「退場」を必要とするものである。このような、政府としていわばアクセルとブレーキを同時に踏むような政策課題が突きつけられているところに、今後の政権運営の困難さがあるといってよいだろう。

(※1)^ 李培林、陳光金、李煒「全国社会和諧穏定形勢調査報告―2006年全国社会和諧穏定問題抽样調査分析」、2006年

(※2)^ 梶谷懐『現代中国の財政金融システム:グローバル化と中央-地方関係の経済学』(名古屋大学出版会/2011年)

(※3)^ Shenggen Fan and Connie Chan-Kang, “Regional road development, rural and urban poverty: Evidence from China,” Transport Policy, vol. 15, pp. 305-14, 2008.

(※4)^ Belton M. Fleisher, Hu Yifan, Li Haizheng, and Kim Seong-hoon, “Economic transition, higher education and worker productivity in China,” Journal of Development Economics, vol. 94, pp. 86-94, 2011.

(※5)^ Barry Naughton, “China’s economic policy today: The new state activism,” Eurasian Geography and Economics, vol. 52, No. 3, pp. 313-29, 2011.

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  • [2012.10.16]

神戸大学大学院経済学研究科准教授。専門は現代中国経済論。1970年大阪府生まれ。神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了。著書に『現代中国の財政金融システム:グローバル化と中央-地方関係の経済学』(名古屋大学出版会/2011年)、『「壁と卵」の現代中国論―リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(人文書院/2011年)など。

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