特集 靖国神社と日本の戦没者慰霊
「靖国神社参拝問題」の原点に立ち返る
特集「靖国神社と日本の戦没者慰霊」:はじめに

川島 真【Profile】

[2013.08.15] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

毎年夏になると、首相や閣僚の靖国神社参拝が国内政治や東アジア国際関係の焦点のひとつになる。しかし、靖国神社がどのようなところで、「参拝問題」とは何か、国内外で十分に理解されているのだろうか。

夏になると必ず話題になる「靖国神社」をめぐる問題。首相や閣僚による参拝の是非が、国内政治のみならず、外交、国際関係の上でも注目されている。

だが、そもそも靖国神社をめぐって何が問題なのか。実は日本でも単純に、東京裁判(極東国際軍事裁判)におけるA級戦犯が祀られている神社に首相や閣僚が参拝すると、それがさきの戦争を肯定しているように思われたり、軍国主義の復活のように思われるから、と漠然と感じているにすぎないことが少なくない。

では、靖国神社とはそもそもどういうところで、なぜA級戦犯がそこに合祀(ごうし)されているのだろうか。そして、それはどのような背景をもっているのだろう。実のところ、これらのことを問われたとき、明確に答えられる人は国内でも決して多くない。

他方、海外で靖国神社のことが話題になるとき、すでにある種のイメージが先行していることが少なくない。要するに日本軍国主義の象徴である、という印象である。だが、靖国神社に戦犯の位牌(いはい)や遺骨があると信じられていることもあるし、またこの神社が戦後は一宗教法人であるということが理解されていないことも少なくない。日本の対外侵略を否定することはできないにしても、靖国神社の話を海外でするとき、多くの誤解に出会うことも、また確かである。

国際問題としての靖国神社

国際問題としての靖国問題もまた同様だ。日本と中国の間でも、1978年のいわゆるA級戦犯合祀の後、大平正芳、鈴木善幸、中曽根康弘の各首相が参拝しても、1985年の中曽根首相の参拝までは全く問題とされなかった、ということも海外ではあまり知られていない。日本国内でもそれが日本のメディア報道を契機とするということが知られていても、なぜそれが後に歴史認識問題の象徴のようにされていくのか、十分に理解されているわけではない。

実のところ、靖国神社や靖国神社参拝問題をめぐるさまざまな誤解や認識の不足に対して、事実を示して「実証的に」理解する道筋を立てようとする動きもあった。例えば、国立国会図書館の行った「靖国神社問題資料集」の作成である。この資料集は、靖国神社をめぐる動向、あるいは問題に関わる「事実」を提示した貴重なものである。しかしながら、このような資料集が直ちに多くの日本国民に、あるいは海外のこの問題に関心のある人々に共有されて、共通認識が育まれるわけではなかろう。ひとつの、あるいは異なる社会集団の中で史料を共有して、一定の共通認識を育むことは決して容易ではない。

この特集は、こうした問題を踏まえ、靖国神社とはそもそもどのようなところで、「靖国神社参拝問題」とは何かということを、「そもそも論」に立ち返って見直すことを想定した。すべての角度から問題を扱うことはできないが、本特集では二つの論考を掲載する。ひとつは、近代日本における戦没者の慰霊のあり方、そしてそこにおける靖国神社の位置づけを論じた檜山幸夫氏の論考。今ひとつは、A級戦犯合祀の意味を問い直す、日暮吉延氏の論考である。また編集部作成の、この問題に関する基礎的なメモ(外国語版向け)も、掲載する。

これらの論考が論点のすべてを網羅するわけではないが、この問題の「そもそも」を問い直すきっかけになれば幸いである。

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  • [2013.08.15]

nippon.com編集企画委員会委員長。東京大学総合文化研究科教授。専門はアジア政治外交史、中国外交史。1968年東京都生まれ。92年東京外国語大学中国語学科卒業。97年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学後、博士(文学)。北海道大学法学部助教授を経て現職。著書に『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会/2004年)、『近代国家への模索 1894-1925』(岩波新書 シリーズ中国近現代史2/2010年)など。

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