グローバル化時代 大学の国際競争力

東京大学の国際化と国際競争力強化への取り組み

社会

世界の大学ランキングのほとんどで日本国内トップの東京大学。東大のさらなる国際競争力向上のための戦略とは。

東京大学の国際化、危機感を持って推進

東京大学にとって「国際化」は古くて新しい課題である。本学の研究活動は常に世界のトップクラスを走り続けてきた。世界の研究者の評価に基づく英『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』誌のWorld Reputation Rankingsではいつも10位以内に入っており、卒業生は8つのノーベル賞と数学のフィールズ賞を受賞している。また、教育の国際化も1970年代から進められてきた。例えば、大学院工学系研究科社会基盤学専攻(旧・土木工学専攻)は1982年から留学生を対象とした英語による教育を行っている。

しかし、大学の国際化は新たなステージに入っている。各国政府は国の競争力の源泉として大学に大きな期待を寄せ、グローバルに活躍できる高度な人材の育成に対する社会の要請も高まっている。学生・研究者の流動性が増し、世界の大学間の人材獲得競争も熾烈になっている。東大も危機感を持って国際化を推進している。

英『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』誌 World Reputation Rankings(2013年)

1位 ハーバード大学(米国)
2位 マサチューセッツ工科大学(MIT、米国)
3位 ケンブリッジ大学(英国)
4位 オックスフォード大学(英国)
5位 カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー、米国)
6位 スタンフォード大学(米国)
7位 プリンストン大学(米国)
8位 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA、米国)
9位 東京大学
10位 エール大学(米国)

出所:『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』World Reputation Rankings

研究の国際化-学際的・最先端研究体制の構築狙う

カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU) 村山斉 機構長・特任教授
宇宙の謎の解明に数学者、物理学者、天文学者が協力して取り組む、世界でも例のない研究所のトップ。Kavli IPMUに集まる外国人研究者の日本での生活の支援などに尽力している。

東大は、部局を超えてダイナミックに学際的・最先端の研究体制を構築するために、2011年に国際高等研究所を設立した。最初の研究ユニットは、2007年に発足したカブリ数物連携宇宙研究機構である(2012年に米カブリ財団の寄付を受けて、カブリの名を冠するようになった)。機構長の村山斉(ひとし)特任教授(東大とカリフォルニア大学バークレー校との兼任)の下で、宇宙の起源や未来に関する根源的な研究に取り組んでおり、専任研究者79名の57%が外国人である。

同研究所の2番目のユニットは、サスティナビリティ学連携研究機構である。母体は、気候変動や生物多様性などの課題に取り組み、持続型社会の構築を目指して2005年に設立された東大初の分野横断型組織である。国連大学とも連携し、国際学術誌Sustainability Scienceを定期刊行している。

海外の研究機関との連携も活発で、本年1月にはマックスプランク・東京大学統合炎症学センター(ドイツの科学研究振興機関であるマックスプランク協会が世界のパートナーと設置する12拠点のひとつ)が発足した。また、2013年のノーベル物理学賞は「ヒッグス粒子」の研究に授与されたが、その存在を確かめるアトラス実験(欧州合同原子核研究機関[CERN]で行われている日米欧合同の大型プロジェクト)に、本学の小林富雄教授・浅井祥仁教授が率いるチームが貢献した。

各研究組織・研究者が主導している海外の大学・研究所との共同研究を全部合わせると、数百の大学・研究機関と連携しており、海外の拠点も40カ所以上ある。全学的な取り組みとしては、2013年に米・プリンストン大学との戦略的提携を締結した。他にも米・エール大学、韓国・ソウル大学、中国・北京大学、清華大学、ブラジル・サンパウロ大学などと全学的な研究・教育交流を行っている。

国際化とは、研究者の多様性・流動性を高めることに他ならない。2013年5月現在、東大全学で研究に携わるスタッフのうち外国人の比率は8.9%である。2012年度に海外へ派遣された研究者の数は延べ10435名となっており、2003年度の6797名から5割以上増えている。一方、海外からの研究者の受け入れは、2012年度は延べ3524名で、こちらも2003年度の2203名に比べ6割近く増加している。

教育の国際化-グローバル人材養成と留学生の受け入れ

国際的な学習経験の促進によるグローバル人材の育成

東大が育成しようとする人材像は「世界的視野をもった市民的エリート」(東大憲章)である。その中で特に力を入れているのが、「よりグローバルに、よりタフに」という教育理念の実現で、単に国際社会で通用する人材でなく、多様な国籍や文化の人たちの中で切磋琢磨(せっさたくま)してリーダーとして活躍できる人材の育成を目指している。

東大の学部学生は、1・2年次に教養学部で教育を受けた後、3年次から専門分野を学ぶ学部(法学部・工学部など)に進学する。進学先が決まるまで計画を立てにくい、授業履修のスケジュールと合わないことがある、などの要因もあって、留学する1・2年次の学生は他大学に比べて少ない。そこで、短期間の学生交流の機会(国際研究型大学連合[IARU]などの国際大学連合が実施するサマープログラム、海外の有力大学が実施する短期留学プログラム、本学教員がアレンジするサマープログラムなど)を充実させ学生の留学を促進している。

また、1学期から1年間の交換留学については従来から各学部・研究科で実施されてきたが、2010年に特に全学の学部学生が参加できる全学交換留学制度を整備し、より多くの学生に交換留学の機会を提供している。

海外への留学・国際交流についての学生向けガイドブック

留学説明会や「Go Global」ホームページでは、学生の多様な海外体験を促すためにボランティアやインターンシップなどの機会も紹介している。また、外部の組織や卒業生の協力で、多様な体験活動のプログラムも提供している。例えば、2013年3月には国際協力機構(JICA)の協力で、32人の学生がネパール、スリランカ、タンザニアでの短期ボランティア活動に参加した。長期的には、全ての学生に在学中に国際的な学習体験を積ませることを計画している。具体的には、学生全体の10-15%が単位取得を伴う海外留学、20-35%がサマースクールやインターンシップなどの短期の海外体験、それ以外は国内での留学生との交流や英語の授業などを通じて国際的な学習体験を積むことを目標としている。

学生の英語力強化については、1・2年生の教育を担当する教養学部で、2008年度より理系学生を対象とした「Active Learning of English for Science Students」(ALESS)を開講している。ネーティブスピーカーの教員による少人数クラスで、英語による論文執筆・プレゼンテーションなどを行う。2013年度から文系学生にも「Active Learning of English for Students of the Arts」(ALESA)を開講するとともに、習熟度別のクラスを開始した。

2014年度からは、一定レベルの英語力を有すると認められる学生を対象として、日本語と英語に加えて、中国語をはじめとする3言語を使いこなせる人材の育成を目指す特別教育プログラム「トライリンガル・プログラム」(TLP)を実施する。また、2016年度からは、語学力や意欲などによって選抜した3・4年生を対象に、分野横断型の特別教育プログラムを提供し、グローバル社会で指導者として活躍できる人材の育成を目指す。この「グローバルリーダー育成プログラム」では、海外留学なども組み合わせ、グローバルに通用する高度な教養、実社会の問題解決能力を身に着けさせる。

英語による授業などで留学生受け入れを積極化

東大では毎年100カ国以上から留学生を受け入れている。2013年5月現在の留学生数は2912名で、学生全体に占める比率は10.4%であった。この大部分は大学院生で、大学院における留学生の比率は18.9%である。留学生の8割以上はアジア出身である。次に多いのが欧州で8.1%、中南米と北米はいずれも2.5%でほぼ同数、中近東1.8%という分布になっている。国・地域別には中国が最も多く、韓国、台湾、タイ、ベトナム、インドネシア、米国がそれに続く。

海外からの留学生受け入れについてのパンフレット

2009年度から始まった文部科学省の「大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業」(グローバル30)を契機に、英語による授業のみで学位を取得できる大学院のコースを倍増し、現在は10研究科で37コースが開講されている。学部レベルでも、2012年10月に「Programs in English at Komaba」(PEAK)が設けられた。このプログラムでは、欧米の大学と同様に論文と面接による選考を行い、初年度には世界11カ国から27人の学生を受け入れた。

2004年に創設された公共政策大学院は、米・コロンビア大学、仏・パリ政治学院、シンガポール国立大学などと連携して、東大と他1校の計2校の学位を取得するダブル・ディグリー・プログラムを提供している。さらに2011年には、中国・北京大学、ソウル大学と共同で「CAMPUS Asiaプログラム」をスタートした。東大を含む3校全てで科目を履修した上で、1校または2校の学位を取得するプログラムである。

4ターム制の導入と総合的教育改革

研究者・学生の交流を促進するために、世界の7割以上の大学が採用する秋季入学に切り替えてはどうか。そのような問題意識の下に、2011年の春から秋入学の検討を始めた。他の大学と連携して同時に秋入学に移行する可能性も模索した。しかし、企業や国家公務員の採用時期、弁護士・医師などの国家試験の時期は4月入学、3月卒業にリンクしているため、直ちに秋入学に切り替えるのは時期尚早と判断した。現在、4月入学を維持しつつ4ターム制の2015年4月の導入を目指している。今は1年を2学期に分けているのを4つに区切った上、夏休みを海外の大学に合わせて6~8月にずらす。これによって、夏休みに海外の大学のサマースクールに参加できるばかりでなく、夏休みに隣接したタームと組み合わせるなどの工夫により半年間の留学もしやすくなる。海外から東大へ来たいと考える留学生・研究者にもメリットがある。

東大の創設期には教員を海外から招聘(しょうへい)しており、1921年まで40年以上の間、入学時期は9月であったが、その後現在の4月入学に移行した。その頃には大学院でも日本人の教員が日本語の教科書を使って教えるようになった。一方、日本以外のアジア地域では、大学院で自国語の教科書で教育できる国は少なく、国外の大学院に進学する学生が多い。アジアの多くの大学ではそれらの大学院生が戻ってきて国際化をけん引している。東大で、東大の大学院教育を受けた教員が多いのは、東大の研究水準が高いという意味で強みでもあるが、多様性に乏しい、海外で学位を取得した者や外国人の比率が低い、などの点で弱みにもなっている。日本の高等教育の成功が今では国際化の妨げになっているという見方もできるだろう。

国際水準の教育の実現には、入学・卒業や休暇の時期といった学事暦の変更だけでは不十分で、教育の内容や手法も世界の有力大学と競争できるものに改善しなくてはならない。このために、学びの質の向上・量の確保、主体的な学びの促進などを主眼とする総合的な教育改革に全学を挙げて取り組んでいる。これはカリキュラム、成績評価、入試など教育のあらゆる面を見直すと同時に、ファカルティ・ディベロップメント(教員が授業内容・方法を改善し、向上させるための組織的な取り組み)を実施して、東大の教育を向上させるものである。

戦略的な国際広報-優れた研究情報の発信とMOOCの開始

国際競争力を高めるには海外への広報が重要であり、戦略的な取り組みを進めている。特に、東大の優れた研究成果を海外の研究者に広く知らせるための取り組みに力を入れている。

2011年には「UTokyo Research」というウェブサイトを立ち上げ、全学の最先端の研究を和英両文で紹介している。また、2013年11月にチリとブラジルで「東大フォーラム」を開催し、100名以上の研究者・大学院生が両国に赴いた。これは、学術研究の成果を世界に広く発信し、主要大学との研究者交流、学生交流を促進するために、2000年以来継続的に世界各地で開催している行事である。

2012年以降、MOOC(大規模公開オンライン授業。Massive Open Online Coursesの略)が急成長したが、東大も昨秋「Coursera」を通じて宇宙物理学(村山斉特任教授)と政治学(藤原帰一教授)のコースを配信した。二つの英語のコースを合わせて世界の約150の国・地域から8万人以上が受講登録し、5383名が修了証を受領した。

ところで、東京大学の英文の正式名称はthe University of Tokyoであるが、本学の教員でもTokyo Universityを用いることがあったり、英文の略称としてTodaiやUTの両方が使われていたりなど、構成員のブランドに対する意識が弱いという課題があった。そこで、2011年からブランド戦略に関する検討を始め、2013年に、英文略称に知名度の高いTokyoを用いてUTokyoに統一することとした。

ランキングにとらわれずに競争力を強化へ

『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』による世界大学ランキング(World University Rankings)では、研究力の指標について、主として国際的な学術雑誌に投稿された論文の引用件数、教育力の指標について、主として教員と学生の比率を用いている。これらの指標の他に国際的に比較できる指標がないという事情があるにせよ、ランキングに利用される指標は研究・教育活動のほんの一部であり、全体の姿が表されないという問題がある。社会科学や人文学では、数年に1度、本を書くことにより研究成果を公表するのが一般的だが、これはランキングには反映されない。また、英語以外の言語による学術雑誌への投稿は、その論文がいかに優れたものであっても反映されない。さらに、国際化の指標である留学生や外国人教員の比率も、英語国の大学ではもともと高いなど、英語圏の大学が有利な構造になっている。実際、2013-14年度のランキングで、トップ50大学のうちで非英語圏の大学は7大学しかなく、東大(23位)は非英語圏で第2位にランクされている。

一方、世界中の大学に所属する研究者数千人のピア・レビューに基づいて作成されるWorld Reputation Rankingsでは、東大は毎年8~9位にランクされている。東大の研究に対する海外の研究者からの評価が高いことが分かる。

大学の国際競争力の指標としてランキングが取り上げられることが多いが、このように大学の実態を表しているとは言い難い。むしろ、ランキングにこだわることなく、大学の戦略や中期計画に沿った取り組みを着実に進め、国際化を推進することが、取りも直さず国際競争力の向上につながると確信している。

写真=(c) The University of Tokyo

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