特集 アベノミクスの中間評価—成長戦略という「試練」
日本が本気で「観光立国」を目指すなら

永井 知美【Profile】

[2014.10.29] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

2020年に東京五輪開催も決まり、成長戦略の柱の1つとして観光関連産業への期待が高まっている。だが政府が目標とする訪日外国人旅行者の飛躍的増加を実現するには、空港・港湾の拡充など、早急に取り組むべき課題が山積みだ。

2030年に外国人旅行者数3千万人が目標

安倍晋三政権の成長戦略の中でも、観光立国実現を目指す一連の取り組みは、比較的筋が良く、効果が期待できる分野と思われる。これは、①観光が世界的な成長産業であり訪日観光も伸びが期待できること、②日本が観光に真剣に取り組み始めたのはここ10年程であり、伸び代が大きいこと、③ビザの要件緩和や免税範囲の拡大、空港や港湾の整備、訪日プロモーションなど、他の分野に比べて国の関与による成果が期待できることなどによる。

安倍政権は、「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」(2013年6月)で「2030年には訪日外国人旅行者数3000万人を超えることを目指す」という成果指標を掲げ、「日本再興戦略 改定2014」(2014年6月)では、2020年に2000万人という目標も新たに加えた。

2014年6月には、「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」(以下、アクション・プログラム2014)が観光立国推進閣僚会議で決定され、①「2020年オリンピック・パラリンピック」を見据えた観光振興、②インバウンドの飛躍的拡大に向けた取り組み、③ビザ要件の緩和など訪日旅行の容易化、④世界に通用する魅力ある観光地域づくり、⑤外国人旅行者の受け入れ環境整備、⑥MICE(Meeting、Incentive、 Convention、 Eventの頭字語/国際会議、展示会など)の誘致・開催促進と外国人ビジネス客の取り込み、の施策が打ち出されている。

「足元」の訪日観光は順調な伸び

ところで、なぜ今観光なのだろうか。訪日外国人旅行者数3000万人は可能な数字なのだろうか。観光立国実現には何をすべきなのだろうか。

長らく傍流産業だった観光が、国政レベルで重視されるようになったのは、2003年の「観光立国宣言」以降である。

観光立国へ向け国を挙げて取り組み始めた背景には、①経済効果が大きいこと、②比較的資金も時間もかけずに外貨を獲得できること、③世界の旅行需要が新興国を中心とする所得の増加、自由時間増加、交通機関の発達と低料金化などにより拡大していること(図1)、④地域経済活性化効果があること、などがある。

足元の訪日観光は順調である。2013年、訪日外国人旅行者数は1036万人と、初の1000万人超えを達成した(図2)。近隣諸国の経済成長、円安、訪日プロモーション、航空座席増加、ASEAN諸国を中心に進められたビザ要件緩和などによるものだが、2014年1~8月期の訪日外国人旅行者数も、前年同期比20%増と順調である。

「観光立国日本」と現状のギャップ

だが、世界的にみると、日本は観光立国とは言い難い。

2013年の外国人訪問者数の国・地域別ランキングをみると、日本は世界27位、アジアでも8位である(図3)。アジアでも、国土が広く観光資源が豊富な中国が5569万人の観光客を集めているのは納得できるとしても、香港、マカオ、シンガポールのような小国・地域、観光資源が豊富とは思えない韓国より集客できていないのは問題である。

2000万人といえば2013年時点で世界ランキング15位のメキシコ、3000万人に至っては8位の英国のレベルである。達成可能な目標なのだろうか。

筆者は2000万人、3000万人は相当に野心的な目標と考えている。国連世界観光機関(UNWTO)は、世界の観光客数は2030年にかけて年率平均3.3%で増加すると見込んでいるが、訪日旅行者数が世界平均レベルで増加したとすると、2020年でも1300万人超にしかならない。目標達成には高い成長が必要である。

しかし、幸いなことに日本の近隣には中国、ASEAN諸国など、旅行需要の高い伸びが期待できる国々が控えている。また、日本は世界有数の治安の良い国であり、温泉、寺社、四季折々の風景、アニメやゲーム文化など観光資源も豊富である。観光大国入りするには何が必要なのか、「アクション・プログラム2014」をベースに検討してみよう。

ビザ要件の戦略的緩和と出入国手続きの迅速化

「アクション・プログラム2014」の中でも注目されるのは、「ビザ要件の緩和など訪日旅行の容易化」と「外国人旅行者の受入環境整備」である。筆者は、観光立国実現にはアクセス改善・拡充、宿泊施設の増強、外国人旅行者にやさしい街づくり、買い物の利便性向上が必要と考えるが、上述の2項目はこうした課題解決に道筋をつけようとしている。

「ビザ要件の緩和など訪日旅行の容易化」で有効と思われるのが、ビザ要件の戦略的緩和と出入国手続の迅速化・円滑化である。海外旅行や出張の際、ビザ取得でうんざりされた読者も多いだろうが、ビザ免除や数次ビザ発行などのビザ要件緩和は、旅行者数増加に相当の効果がある。

ただ、むやみやたらに緩和すると不法滞在や犯罪を誘発する恐れがあるので、日本はここ数年、ASEAN諸国を中心に様子を見ながら徐々に緩和するというスタンスをとり、2013年7月から2014年7月にかけてタイ(ビザ免除)、マレーシア(ビザ免除再開)、ベトナム(数次ビザ)、インド(数次ビザ)など11カ国のビザ要件を緩和してきた。タイ、マレーシア等要件が緩和された国からの旅行者は、いずれも大幅に増えている。今後はインドネシア、フィリピン、ベトナムに対して可能な限り早くビザ免除に向けて努力するとしている。

出入国手続の迅速化・円滑化も、旅行者の日本への印象を大きく左右する。「アクション・プログラム2014」では、税関、出入国管理、検疫にかかわる予算・定員の充実を図り、2016年度までに空港での入国審査に要する最長待ち時間を20分以下に短縮することを目指すとしている。実現すればリピーター増加に一役買うことだろう。

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  • [2014.10.29]

東レ経営研究所シニアアナリスト。1986年東京大学文学部卒業。山一証券経済研究所外国企業調査部を経て、1999年から東レ経営研究所勤務。2005年1月から金融庁企業会計審議会委員。

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