特集 沖縄を考える
沖縄問題と東アジアの安全保障

岡本 行夫【Profile】

[2015.07.16] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

こじれにこじれた普天間基地移設問題。現状に加えて長期的な沖縄の将来図を、東アジアの安全保障環境も俯瞰的に見据えながら展望する。

「普天間移設」の膠着

米海兵隊の普天間飛行場移設の展望が開けない。どうなるのか。
私は、これまで普天間の辺野古移設を推進してきた。普天間飛行場の3分の1の面積の滑走路を海上に作って、騒音と事故の危険性を人口密集地帯から海上に出すという案だ。住民の安全を考えれば、現状よりはるかにいいに決まっている。しかし、2011年に衆議院の、2012年に参議院の、それぞれの予算委員会に参考人として出席した際には、もはや辺野古移設は強行すべきでないと意見公述をした。なぜか。

沖縄では、従来は辺野古移設について容認派が3分の1、反対派が3分の1、中間派が残り3分の1であったが、2009年に鳩山由紀夫首相が「最低でも県外」と宣言したことにより、ほとんど沖縄全体が辺野古反対に回ってしまったからだ。

無責任な民主党の政策であった。普天間の代替地を県外に見つけるのは至難の業だ。理由は簡単で、普天間飛行場に配備されているヘリやオスプレイは海兵隊の「足」であり、海兵隊本体から切り離して遠隔地へ持っていくわけにはいかない。移すなら海兵隊全体だ。瑞慶覧の司令部もキャンプ・ハンセンとキャンプ・シュワブの演習場と諸施設も。

民主党政権は鳩山発言の尻拭いのために、40カ所以上の候補地を沖縄の外に探したが結局見つからず、2010年5月に鳩山首相は県民にわびて、やはり沖縄で受け入れてほしいと頭を下げた。

懸念される「島ぐるみ闘争」の再来

しかし、もう無理だった。県民の気持ちは元へ戻らない。例えていえば、こういうことだ。県民がレストランで渋々ながらも食事をしようとしていたところへ民主党がドカドカと入り込んできて、「ここのレストランはまずい。外にたくさんいいレストランがあるからそこへ行きましょう」と客を外へ連れ出した。しかし、そんなレストランがあるはずもなく、結局、元のレストランに戻ってきたが、もう食べ物は古くなり、誰も食べる気は失った…。

沖縄の反基地闘争に本土から多数の活動家が参加していることは私も目撃してきた。彼らが目指すのは、普天間全面返還だけではない。沖縄の反基地闘争と混乱を激化させて、全ての米軍基地、特に東半球最大の米空軍基地「嘉手納基地」の撤去にまで至ることだ。

このまま政府と沖縄の対立が長引いて膠着状態になり、万が一にもオスプレイが重大事故でも起こせばどうなるか。沖縄は、大変な事態になる。1956年の「島ぐるみ闘争」(※1)の再来である。

沖縄の「抑止力」の長期展望

果たして、代替案はあるのか。私は国会での意見公述の際に、内容は明らかにしなかったが「プランB」(代替案)に移行すべきだと述べた。詳述は控えるが、その真意は、少々時間はかかるが沖縄と西太平洋地域における海兵隊の配置構造と自衛隊の役割を変えることによって、辺野古移設を不要にすることを目的としたものであった。

もちろん長い期間と、アメリカとの慎重な協議が必要で、普天間返還も遅れることになる。しかし、辺野古移設決定から19年も時間を過ごしてきたことを思えば、十分価値のあるプランだと思えた。 

しかし、政府は方針を変えず、沖縄県知事が2013年12月に辺野古埋め立てを許可し、工事は既に始まった。事ここに至って別の案を主張することは、プロセスを混乱させるだけになる。残念だが私は「プランB」を封印し、現在の選択肢の中では辺野古への移設が最善のものとして、再び政府案を支持している。

辺野古への移設作業は緊急避難的措置として進めるとして、さらに長期の展望について記したい。日本の抑止力を低下させることなく、沖縄から海兵隊を大きく削減するにはどうしたらいいのか。

考えてみよう。今の日本の抑止力は、沖縄に常時駐留する海兵隊が直ちに北朝鮮や中国からの侵攻に反撃できるから保たれているというものではない。「抑止力」は、日米安保体制が全体としてもたらすものだ。

抑止力の象徴:空母「ジョージワシントン」

典型的なのは、第7艦隊だ。原子力空母ジョージワシントン以下の大艦隊は、艦載機も含めれば、ハードウェアだけでも数兆円近くの巨費がかかっている。その第7艦隊を首都東京に近接する横須賀に配備していることが、「日本を防衛するぞ」というアメリカの強い意志表示となって周辺諸国に伝わっている。こうしたアメリカの日米安保体制へのコミットメントそのものが、抑止力の本質なのである。

抑止力とは、つまるところ、周辺諸国が「日米安保体制は確実に発動される」と思うかどうかの心証、つまりパーセプションにかかっている。他の国々が「発動される」と思わなければ、その時点で安保条約は一片の紙切れとなる。つまり、周辺諸国がいささかの疑義も差し挟まないような、日頃からの緊密な日米同盟関係こそが日本の抑止力の根幹なのである。

ところが、混乱のうちに軍事的合理性がない撤退が沖縄から行われた場合には、抑止力には大きな穴があいてしまう。周辺諸国が力の空白を感じるからだ。これまで中国は、ベトナムから米国が撤退した後にパラセル諸島を、ロシアが撤退した後にジョンソン環礁を、フィリピンから米国が撤退した後にミスチーフ環礁を、それぞれ武力でベトナムとフィリピンから奪ってきた。

「米軍が沖縄から追い出された」と中国が受け止めれば、彼らが尖閣諸島を武力で奪う可能性は格段に高まるだろう。いったん尖閣に上陸された後に、侵略軍を放逐するのはとても難しい。戦後初の戦死者を覚悟しての中国との戦闘になる。日本はそれをやれるだろうか?結局、「粘り強く交渉していく」という日本の得意のパターンの政策となり、竹島と同様に、中国が尖閣を実効支配する状況が定着してしまう可能性だってある。

沖縄に対する差別 

本土は、沖縄の苦悩と被差別感を十分理解していない。面積にして米軍基地の74%が沖縄に集中すると聞けば、誰でも「それは不公平だ」とは言うが、それ以上の行動を起こすことはない。そもそも「74%」という数字が生まれたのは、沖縄が日本に返還された後、本土の基地だけが削減されたためだ。72年当時、関東には米軍の基地が密集していた。立川、調布、練馬、光が丘、代々木、横浜本牧、根岸、そういった施設がすべて撤去され、全体としてみれば本土では米軍基地は65%削減されたのである。しかし、その間に削減された沖縄の基地は20%にすぎない。

「74%」の数字を減らすことは容易ではない。単に沖縄の基地を減らしただけでは、分子だけでなく分母も減るからあまり変わらない。「74%」を減らすためには「沖縄の基地を減らして、本土の基地を増やす」ことが必要になる。こうして、“行って来い”で初めて74%という数字が減りはじめる。

しかし、本土には、岩国を除けば、言葉だけでなく実際に沖縄の負担を助けようとするところはない。全国の知事レベルで沖縄の基地を引き受けてもよいと表明したのは、当時の大阪の橋下徹知事だけであった。

本土と沖縄の感情のもつれは根深い。太平洋戦争で本土防衛の捨て石とされ、しかも住民をそのための「盾」とされた沖縄には、本土への深い不信感がある。

東アジアの戦略展望

今後の中国の拡張戦略を考えれば、沖縄問題の早期解決の必要性はあきらかだ。中国は2段階からなる海洋戦略を推進している。第1段階は、2010年ごろまでに沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオを結ぶ「第1列島線」の内側、すなわち南シナ海と東シナ海を軍事的にコントロールすること。第2段階は、2020年ごろまでに、伊豆七島、小笠原諸島、サイパン、グアム、ミクロネシアを結んでパプアニューギニアに至る「第2列島線」の内側で、米艦隊を撃破できる「接近拒否能力」を持つことである。つまり、西太平洋海域の大半を確保しようとの戦略である。中国海軍は、このために沖縄列島を通過し太平洋に出て、大規模な演習を何度も繰り返している。

今の日本はこれに対応できない。冷戦当時、日本は宗谷、津軽、対馬の3つの海峡をブロックすることでソ連の原子力潜水艦艦隊をオホーツクに封じ込める戦略をとった。そのために保有してきた潜水艦は16隻。ところが今や3海峡に加えて、沖縄列島には4つの通行自由な国際海峡が存在する。沖縄列島で中国海軍をチェックする態勢を作るのであれば、当然、従来の2倍、つまり30隻以上の規模の潜水艦隊が必要になるはずだ。

残念ながら、実態はその水準にはるかに及ばない。鉛筆をなめて潜水艦の退役年齢を引き延ばすことによって潜水艦の総数を22隻としたが、予算が増えたわけではない。過去10年間に中国の軍事予算が5倍になる中で、日本の防衛費は横ばいである。

日本を守るのは「9条」より日米安保

もともと、この北東アジアには、世界の兵力規模の第1位から第6位までの国々のうち、実に4カ国が集中する。中国、ロシア、北朝鮮、そして韓国。これだけの軍事集積度の高い地域は世界に類を見ない。計算違いや偶発的な理由で、衝突がいつ起こっても不思議ではない。

この緊迫した地域にあって、日本がこれまでどこからも侵略される心配をしないで済んできたのは、日米安保条約が存在するからである。日本は憲法9条で守られてきたのではない。

そうした状況を考えれば、沖縄問題を解決し、しかも東アジアの安全を確保する方向性はあきらかだ。日本が、時間はかかるが、自分自身の抑止能力を高めることだ。例えば陸上自衛隊が海兵隊になることだ。そうすれば沖縄に海兵隊が駐留する必要性も減る。日本が、米国との間でそうした役割分担を作り上げることができるのかどうかに、沖縄が置かれた大きな戦略的立場もかかっている。

バナー写真:米軍普天間飛行場に着陸する米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ=2015年6月10日(時事)

(※1)^ これまでの軍用地政策を含む米軍支配のあり方を基本的に正しいと認めた米下院の「プライス勧告」に反発して起きた、大規模な沖縄住民の抵抗運動。米国側は軍用地料の一括払いの方針を撤回し、適正価格で土地を借用するとする政策変更を余儀なくされた。

この記事につけられたタグ:
  • [2015.07.16]

外交評論家、シンクタンク「岡本アソシエイツ」代表。1945年、神奈川県生まれ。一橋大学経済学部卒業。68年、外務省に入り、北米第一課長などを歴任後、91年に退職。96年に橋本内閣で内閣総理大臣補佐官(沖縄担当)、2001年に小泉内閣で内閣官房参与、03年に同内閣で内閣総理大臣補佐官(イラク問題担当)など、政府の要職を多く務めた。12年から米マサチューセッツ工科大学国際研究センターシニアフェロー。

関連記事
この特集の他の記事

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告