特集 日本の女性は今
「仕事と結婚」、理想と現実のギャップにとらわれた女性たち

川口 章【Profile】

[2015.08.05] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

「女性の活躍推進」が政策としてうたわれる一方で、女性の仕事、結婚、育児をめぐる状況は厳しさを増している。様々なデータから女性たちの現実を検証する。

低迷する日本の男女平等ランキング

世界経済フォーラム(World Economic Forum 2014)の「世界ジェンダー・ギャップ・レポート(The Global Gender Gap Report )」によると、経済分野における日本の男女平等度は、世界142か国のうち102位(全体では104 位)である。管理職の女性/男性比率は0.12で112位、女性の労働力率は男性の75%で83位、専門職・技術職の女性/男性比率は0.87で78位、女性の勤労所得は男性の60%で74位、女性の賃金は男性の68%で53位と、主要先進国のなかでは最低水準に位置している。しかも、比較可能な2006年のランキングから全く改善が見られない。

2015 年は、男女雇用機会均等法が成立して30年になる節目の年である。この間、日本における女性の経済的地位が上昇したことは否定しないが、海外先進諸国では日本以上のスピードで男女格差の改善が進んでいる。

性別役割分担と企業による制度的女性差別

日本のジェンダー経済格差が大きい原因は、大きく分けて二つある。一つは、「夫は仕事、妻は家庭」という性別役割分担がはっきりしていることである。たとえば日本では、3歳未満の子がいる女性の就業率は30%にすぎない。経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の平均52%と比べてかなり低い(OECD Employment Outlook 2014)。家事・育児の負担が女性に偏っていることが、女性のキャリア形成を難しくしているのである。

もう一つは、企業による女性差別である。日本の大企業の多くは、終身雇用制度に基づく企業内人材育成制度を採用している。その制度の下で企業は、新卒の労働者を採用し、時間をかけて育成する。人材育成の過程では、数年ごとに異動がある。全国展開している企業では転居を伴う異動が一般的である。このような企業内人材育成制度は、家庭の事情で退職する確率が高く、転勤しにくい女性にとって不利である。そのため女性は採用で差別され、たとえ採用されたとしても、配置、教育訓練、昇進などにおいて男性より不利な立場に置かれる。

典型的な女性差別は、大企業の約半数が採用しているコース別人事管理制度に見られる。この制度の下では、労働者は基幹的な業務を担う総合職と定型的・補助的業務を担う一般職に分けて採用される。総合職は転勤を伴うのが普通であり、将来は管理職への道が開かれている。一般職は転勤がなく、管理職へは昇進できない。2012年に転勤のある総合職を採用した企業のうち72%が「採用者の80%以上が男性である」と答えている。

また、一般職を採用した企業のうち52%が「採用者の80%以上が女性である」と答えている(厚生労働省「雇用均等基本調査」 2012年)。つまり、コース別人事管理制度は、事実上、性別による労働者の振り分けに使用されているのである。このような法の抜け道がまかり通っているのは、先進国では日本だけだ。

女性就業率の上昇=非正規労働者の増加

女性の就業率は、徐々にではあるが上昇している。バブル景気末期の1990年と現在を比較しよう。15歳から65歳の女性就業率は、1990年の56%から2014年の64%へと、8ポイント上昇した。一方、この間、男性の就業率はほぼ一定だった。

ただし、女性就業率の上昇は、必ずしも「女性の活躍」を意味するものではない。この間、女性正規労働者の数は減少しているからである。女性正規労働者数は1990年の1050万人から2015年には1015万人へと35万人(3.3%)減少している。それに対し、女性非正規労働者の数は、646万人から1343万人へと697万人(108%)増加している(総務省「労働力調査」 2015年)。女性就業率の上昇は、すべて非正規労働者の増加によってもたらされたのである。女性非正規労働者の増大は、男女の賃金格差縮小を妨げている最大の要因である。

男性賃金の低下が促した働く主婦の増加

女性の就業率が上昇した背景には男性賃金の低下がある。1990年代初頭のバブル崩壊後、男性正規労働者の賃金上昇が止まったのみならず、男性非正規労働者が増加した。1990年から2014年の間に、男性非正規労働者の数は235万人(171%)増加している。男性賃金の低下は、二つの理由で女性就業率を上昇させた。

一つは、所得が低くて結婚できない男性が増加したため、男女とも晩婚化・非婚化が進んだことである。これによって、未婚のまま就業を継続する女性が増えた。もう一つは、夫の所得だけでは従来の生活水準を維持できなくなり、働く主婦が増加したことである。働く主婦の多くは、出産退職を経て、子育て後にパートとして再就職した者であるため、非正規労働者が増大した。

では、女性は就業を望んでいるのだろうか。国立社会保障・人口問題研究所が、2010年に、独身男女に対して行った調査によると、最も多くの女性が理想とするのは、結婚や出産で一旦退職し、子育て後に再び仕事を持つ「再就職コース」であり、35%(小数点以下四捨五入)がそれを理想のライフコースに選んでいる。次いで多いのが、結婚あるいは出産後も仕事を続ける「両立コース」で31%の独身女性が理想のライフコースに挙げている。3番目は、結婚あるいは出産後に仕事を退職し、その後は仕事をしない「専業主婦」コースで、20%の独身女性が理想としている。結婚しないで就業を継続する「非婚就業継続コース」(5%)や結婚するが子どもを持たない「DINKSコース」(3%)を理想とする女性は少ない(国立社会保障・人口問題研究所 「第14回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査」2010年)。

理想と現実のギャップ

同調査は、「理想のライフコース」以外に「予想されるライフコース」も尋ねている。興味深いのは、「理想」と「予想」のギャップである。「再就職コース」と「DINKSコース」以外は、「理想」と「予想」のギャップがかなり大きい。「専業主婦コース」を「理想」とする独身女性は20%であるのに対し、「予想」は9%にすぎない。また、「両立コース」も「理想」が31%に対し「予想」が25%と低い。

逆に「理想のライフコース」より「予想されるライフコース」の方が多いのが、「非婚就業コース」で、わずか5%の女性が「理想」として挙げているにすぎないのに対し、18%の女性が将来の自分の姿として「予想」している。つまり、結婚したくてもできないと考える女性が多いのである。

結婚すらも難しい時代へ

最後に、結婚・仕事観の変化を見よう。1987年の調査と2010年の調査を比較すると、最も顕著な変化は女性よりも男性の意識に見られる。1987年には、パートナーに対し「専業主婦コース」を望む独身男性が38%もいたが、2010年には11%に低下している。逆に「両立コース」を望む独身男性は、11%から33%へと増えている。かつては、結婚すればパートナーには家庭に入ってほしいという男性が多かったが、今ではそのような独身男性はまれだ。

一方、女性が理想とするライフコースを見ると、1987年には「専業主婦コース」が34%で最も多かったが、2010年には20%に低下している。それに対し、「両立コース」は、19%から31%へと増加している。予想されるライフコースでは、「専業主婦コース」が24%から9%へ低下し、両立コースが15%から25%へ上昇している。しかし、最も上昇率が高かったのは「非婚就業コース」であり、7%から18%へ上昇している。専業主婦になるのは難しいが、かといって仕事と家事・育児の両立も容易ではない。そして何より、結婚すること自体がますます難しくなっているというのが、今の日本の現状である。

(2015年7月21日 記/タイトル写真=時事通信フォト)

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  • [2015.08.05]

同志社大学政策学部教授。専門は労働経済学、ジェンダー学。1958年、香川県生まれ。1982年、京都大学経済学部卒業。1990年、オーストラリア国立大学大学院博士課程修了(Ph. D. 経済学)。その後、メルボルン大学経済商学部講師、追手門学院大学経済学部教授などを経て、2004年より現職。著書に『日本のジェンダーを考える』(有斐閣、2013年)、『ジェンダー経済格差』(勁草書房、2008年)など。

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