特集 日本の女性は今
饒舌なAV女優とニッポンの「おじさん社会」

鈴木 涼美【Profile】

[2015.09.02] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

「普通の女の子」の領域を守りたいと欲しつつ、巧みに自分の性的「商品価値」を演出するAV女優たち。男性の眼差しの二面性を意識し、二つの領域を行き来するAV女優を通じて見える日本の「おじさん社会」に迫る。

「AV女優」という興味深い存在

かつて女子高生として、そして女子大生、OLとして渋谷の街に慣れ親しんできた私は、「性の商品化」の現場が自分から「地続き」のところに存在するという感覚を持っていた。つまり、学生としての日常や家族、大学や企業に続く道からも逸脱せずに「性の商品化」の現場に加担できる仕組みが整っていた。

特に女子高生の商品価値は高く、サラリーマンたちのおごりで飲み食いしカラオケを楽しむ女子高生もいれば、マジックミラー越しにいる見ず知らずの男性にほほ笑みかけ、下着を脱ぐ姿を見せてその下着を売りさばくことでお小遣い稼ぎをする女子もいた。自らの商品的価値を意識して利用しながらも、完全に「逸脱者」のレッテルを貼られないための線引きはする。

AV女優をフィールドワークの題材に選び、『「AV女優」の社会学』(2013年)としてまとめたのは、彼女たちの「性の商品化」も私から地続きの場所にあると感じる一方で、曖昧さが通用しないほど露骨な姿に見えるその存在にひかれたからだ。

「誇りと自由意志」を持ったプロになるまで

AV女優はとても饒舌な存在である。本業であるアダルトビデオの中で、あるいは雑誌を開けば、彼女たちはあらゆる問いかけに対し、流暢に自らのストーリーを語りだす。彼女たちの仕事は、カメラの前で性行為をして、そのコンテンツを試聴する者達の性的興奮を煽ることである。しかし、彼女たちの具体的な業務はそれにとどまらず、雑誌やイベントに露出して宣伝活動をするのは当然であるが、メーカーに営業に行ったり、各種の打ち合わせや監督面接などをこなして初めて、AV女優の仕事は完成する。

『「AV女優」の社会学』では、彼女たちが業務の一環として行う面接や、彼女たちの「ベテラン化」の経験が、AV女優をより強くAV女優にしていく様を描いた。数々の面接や打ち合わせの中で、頻繁に自分の性格や好み、AV女優になった理由を問われ答える中で、彼女たちはAV女優としての「語り」を獲得し、「キャラクター」を確立し、誇りと自由意志を持ったAV女優として歩き出す。

世間一般に見える「好きでAV女優をやっています」という意志をもったAV女優の成立過程は、決して誰かしらの意図的な作為にのみよるのではなく、あるいは彼女たちがそういった存在に最初から生まれているわけでもなく、業界の仕組みや業務内容が時に偶発的に作用してできあがっているのである。

男たちの「処女信仰」の中で別の価値基準を生み出す

ただし、ひとつ視点を上にずらして見てみると、当然彼女たちをその姿にまで押し上げる業界のシステムは社会の眼差しを大きく反映していることも確かである。例えば、後々人気が上昇する稀な例をのぞいて、AV女優の価値はデビュー作が最も高く、ゆるやかに下降していくことになる。それはギャランティに色濃く反映されるのだが、そこには当然、若さ・新しさ・経験のなさに価値を置く視聴者たちの処女信仰がある。

どんなに「AV女優としての技術」(例えばカメラのアングルを気にしてフェラチオをするとか、レズもので攻める側の役ができるだとか、言葉攻めが巧みであるとか、監督の意向をすぐさま読み取って演技に昇華するだとかそういうこと)が向上しても、それに比例してギャランティが高くなることはほとんどない。

むしろ、出演作が増えてデビューから時間がたつと多くの場合、ギャランティは低下し、コンテンツ内で求められる行為も過激さを増す。それは世間であり視聴者である男性がAV女優に求める価値が、技術の高さや経験ではなく、初めてAVに出演する緊張感であったり、若く初々しいことであったりするためにほかならない。

そして、何の技術も経験もない新人こそがAV女優ヒエラルキーの頂点に位置するように見えるその事情があってこそ、経験を重ねる彼女たちは世間・視聴者とは別の価値基準を彼女たちなりに用意しだす。メーカーとの専属契約を持ち、高額なギャランティを手にするいわゆる「単体AV女優」から、契約がなく比較的安価なギャランティで出演する「企画AV女優」になったり、同じ企画AV女優でも新鮮味がなくなり、ギャランティが低下して一般的な意味での価値が下がったりするその中で、彼女たちが「新人としてちやほやされる」ことよりも、監督やスタッフに重宝されたり、新人AV女優では務まらない役柄を自ら志願して引き受けるなどしだす「ベテラン化」はまさに、彼女たちが世間的な視点とは別に用意する新たな価値である。

この記事につけられたタグ:
  • [2015.09.02]

1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。2009年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社、2013年)、『身体を売ったらサヨウナラ』(幻冬舎、2014年)がある。

関連記事
この特集の他の記事

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告