特集 安保法制をめぐる現象からみる日本の今
抵抗政党としての民主党—「対案」と「廃案」の間で

待鳥 聡史【Profile】

[2015.11.30] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

政権与党であった民主党の安保法制反対運動への「無責任」な相乗り―その政治的背景を分析し、野党第一党として今後残された唯一の選択肢を提示する。

去る9月に成立した安保法制(平和安全法制)の立法過程においては、野党第一党であり、2009年からの約3年半は与党であった民主党が、極めて強い反対姿勢を示した。なぜ民主党は、かつての社会党と同じように、国会外の運動と結びつきながら物理的抵抗を含む反対を選択したのだろうか。この問いについて、現代日本政治の基本構造から考えることが、本稿の狙いである。

議院内閣制―単独政権か連立政権かで大きな違い

戦後日本が採用している議院内閣制には、世界的に見ればかなりの多様性が存在する。最も大きな違いの1つは、与党が単一あるいはごく少数の政党から構成される単独政権か、複数(しばしば3つ以上)の政党から構成される連立政権か、によって生じる。

単独政権の場合、内閣と与党が法案提出前に内容の調整を済ませたものを議会に提出するのが通例である。単一政党である与党の賛成があれば法案は成立する上に、調整が済んでから法案が提出されるため、議会での修正はほとんど行われない。政策決定の主導権は内閣にあることが多い。このようなタイプの典型がイギリスである。

これに対して連立政権の場合、政策決定の主導権は連立与党内での協議に委ねられる。内閣(首相)の意向は重視されるが、与党を構成する各政党はいずれも単独で過半数の議席を持たない以上、連立与党内での合意ができない場合には政策決定できないのである。

法案提出前の連立与党内調整が十分に行われないような場合には、法案は議会で修正を受けながら成立を目指すことになるが、ここまでくると野党にも関与の余地が生じる。大陸ヨーロッパ諸国には、こうした立法過程になっている例が少なくない。

日本の“連立政権”の実質は単独政権

日本は今日に至るまで、政策決定の基本的なパターンは単独政権タイプである。1993年以降は連立政権がむしろ常態化しているとはいえ、ほとんどの場合には自民党あるいは民主党が衆議院の与党総議席数の8割以上を確保しつつ、少数の小政党と連立を組んでいるに過ぎない。

参議院での協力を確保する必要から連立相手の小政党の意向は汲むにしても、政策決定は主に内閣と大政党の事前調整に委ねられる面が依然として大きい。与党が参議院で過半数を確保できない「ねじれ国会」の場合を除き、野党が法案修正に関与する例は珍しく、内閣が提出した法案の大多数は無修正で成立している。

単独政権における野党の戦術的窮地

単独政権タイプの政策決定が行われる議院内閣制において、野党の役割はどのようなものになるだろうか。この点を考える上で決定的なのは、議会(国会)における法案修正がまず行われない、ということである。

戦後日本の場合、国会の会期が短い、与党によるいわゆる強行採決がマスメディアに批判される、といった特徴を活かして、審議拒否などの遅延戦術の末に、野党が与党からの譲歩を勝ち取ることが皆無だったわけではない。しかし、それは多くの場合に与党・内閣から見れば提出段階から想定した範囲内での譲歩に過ぎず、真に重要な法案を廃案にすることは極めて例外的である。

修正や廃案が極めて困難であることは、野党を戦術的な窮地に陥らせる。教科書的にいえば、単独政権タイプの政策決定における野党の役割は、議会で内閣提出法案の問題点を論戦によって指摘し、それがマスメディアに報じられることなどを通じて、次回選挙で野党に政権を委ねるよう有権者にアピールするところにある。だが、議会審議に対する注目度は低い場合が多く、実際のアピール効果は疑わしい。

“対案”提示は政策路線の宣伝以外に効力なし

野党にはしばしば、対案を提示すべきだという批判が向けられる。だが、政策決定が単独政権タイプである以上、対案の提示は野党、とりわけ民主党のような大きな野党にとっては、自らの政策路線の宣伝以外の効果はなく、多くの個別法案において無益である。

対案が法案の全面的な修正案を指すのであれば、取り入れられる可能性はない。与野党対決を生み出している法案の場合、事前の与党内部や内閣法制局との調整に多大な労力と時間が費やされているため、それとの整合性を維持できる範囲でしか修正はできない。

対案がごく限定的な部分修正を指すのであれば、有権者へのアピールとしては弱すぎて効果がない。それどころか、修正した以上は法案に賛成せねばならないために、中途半端な妥協をしたとしてマスメディアや支持者からの批判を受ける恐れさえある。

ここに、民主党が安保法制に対して国会外での反対運動と連動しながら、暴力沙汰も辞さないほどの抵抗を行った意味が浮かび上がってくる。

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  • [2015.11.30]

京都大学大学院法学研究科教授。1971年福岡県生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程退学。博士(法学)。大阪大学法学部助教授などを経て現職。専門は比較政治論、アメリカ政治論。主な著書に、『首相政治の制度分析 現代日本政治の権力基盤形成』(千倉書房、2012年)、『政党システムと政党組織』(東京大学出版会、2015年)、『代議制民主主義』(中公新書、2015年)など。

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