21世紀のスプートニク・ショック

途上国を次々と支配服属関係に│シリーズ・21世紀のスプートニク・ショック(6)

科学 政治・外交

中国は途上国での衛星打ち上げの肩代わりをきっかけに、技術面だけでなく、金融・経済面でも支配服属関係をつくっている。相手国の公共工事への優先参加権、地下資源採掘権の確保……。中国は「一粒で何度でもおいしい関係」が築ける宇宙ビジネスを展開している。

打ち上げの肩代わりから始まる深い関係

衛星打ち上げの肩代わりをしてやることから始まる中国と途上国の関係は、ことの成り行きからして、実力においてはるかに上の中国が有利なように展開します。

フィリピン(1997年)、ベネズエラ(2008年)、パキスタン(11年)、ナイジェリア(同年)、ボリビア(13年)、ラオス(15年)、アルジェリア(17年)が、各々の国で初めてとなる静止軌道衛星を、中国に作ってもらい、打ち上げました。加えて自国の地上局も、中国に建設を委ねています。

静止軌道衛星 赤道上空約36,000km の軌道上にあり、地球の自転と同じ周回周期を持つ人工衛星。地球上からは赤道上空に静止して見えるため、その名がついた。通信、放送には特に有益であり、約600機の静止軌道衛星中500機以上は通信・放送衛星である。他に、地球観測、測位航法、最近では宇宙状況監視(SSA)にも用いる。静止軌道は各国が打ち上げた静止衛星で混み合っており、現在、新たな打上げのための軌道位置の獲得競争は熾烈をきわめる。

上に挙げたのは、静止軌道衛星の例でした。それ以外となると、数がぐっと増えます。例えば2013年に中国が「高分」というリモートセンシング衛星を打ち上げた際、同じロケットに相乗りの超小型衛星として、エクアドル、トルコ、アルゼンチンの衛星を同時に低軌道に打ち上げています。

2013年に打ち上げられた「高分1号」(サイエンスポータルチャイナ)
2013年に打ち上げられた「高分1号」(サイエンスポータルチャイナ)

リモートセンシング 宇宙空間にある地球観測衛星から、対象物が反射・放射している電磁波を利用して、対象物に直接触れずに大きさ、形、性質を観測する技術。資源探査、植生分布、気象、海面温度の観測などに活用されている。

エクアドルにとっては初の衛星でした。エクアドルの衛星は、もともとロシアのロケットで打ち上げる計画でしたが、打ち上げの遅れから、中国の長征ロケットを使うことになったものです。中国は多くのロケットを持つため、外国のロケットが予定通りに使えない時の肩代わりも、比較的容易にできます。正確な数は特定できませんが、静止軌道衛星と、それ以外とを合わせ、他国に代わって打ち上げた衛星は、総数約60機といわれています。

公共工事や資源開発権まで確保

衛星ビジネスを途上国との間でさかんに続ける中国には、衛星単体の販売で稼ぎ、運用の委託フィーで稼ぎ、かつ、一度つくるとこの関係は長続きしますので、長期にわたって稼ぐうち、相手国との間に、繰り返しますが支配服属関係をつくることが可能です。

相手が富裕国でない場合、当初の衛星打ち上げ費用を、中国は貸し付けてやる場合が少なくありません。技術面で半永続的関係に入る途上国は、長期債務を中国に対して負い、金融面でも抜き差しならない間柄を中国との間につくらざるをえません。

技術やローンをレバレッジに(テコとして有利に)使うことで、相手先国の公共工事に、優先参加権を得ることができます。同じやり方で、地下資源採掘権を確保したり、石油などの買取り権をゲットしたりすることもできますから、中国にとっては「一粒で何度でもおいしい」関係が、カスタマー(顧客)国との間にできていきます。宇宙開発をきっかけとして、広がりと奥行きのある関係ができていくのです。

北京航空航天大学内に創設された、アジア・太平洋宇宙科学技術教育地域センターの冊子より。同センターのメンバー国の国旗、留学生が一堂に集まる様子が収められていた。(著者青木氏提供)
北京航空航天大学内に創設された、アジア・太平洋宇宙科学技術教育地域センターの冊子より。同センターのメンバー国の国旗、留学生が一堂に集まる様子が収められていた。(著者青木氏提供)

南米大陸、アフリカでも関係構築

そんな例のひとつでしょう、アルゼンチンとの間で、中国は踏み込んだ関係をつくりつつあります。アルゼンチンのとある場所に、中国の宇宙状況監視(SSA)地上局をつくるという計画が、いま動いています。同国議会は、2015年2月、このプランについてゴーサインを出しました。元来、米国との宇宙協力に実績をもつ同国にとっては、一種の転向です。それゆえ議会は一時紛糾しましたが、結局は承諾したのです。

もともとAPSCO(アジア太平洋宇宙協力機構)のメンバーであるペルーには、つとに15年、APSCOの光学望遠鏡による宇宙状況監視(SSA)システムに加え、宇宙光学目標地上観測システム(APOSOS)の一部をなす地上観測設備が設置されていました。

このようにして、中国のSSAネットワークは、ペルーからアルゼンチンへ、南米大陸でも広がりつつあります。同様の動きは、アフリカでも進んでいることでしょう。 

バナー写真:チリとの国境に近い、アルゼンチンのネウケン州ラス・ラハスに建設された中国の宇宙探査研究センター。2019年1月22日撮影。(アフロ)

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