日米関係に不可欠な有言実行と“抑制的な対応”
藤崎一郎・前駐米大使とのインタビュー
[2013.03.22] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

安倍首相がオバマ大統領との初会談で日本のTPP参加に向けた準備を整えるなど、現政権による対米関係は順調なスタートを切った。だが懸案山積の日米関係は今後どう展開するのか。藤崎一郎・前駐米大使に聞いた。

藤崎 一郎

藤崎 一郎FUJISAKI Ichirō1947年生まれ。1969年外務省入省。北米局長、外務審議官(経済担当)、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使などを歴任し、2008年6月から2012年11月まで駐米大使。2013年1月から上智大学特別招聘(しょうへい)教授。

日米首脳会談、成功の背景

——安倍首相とオバマ大統領との日米首脳会談(2月23日、ワシントン)をどう評価しますか。

非常に大きな成功だったと思っています。大事な点は3つあって、ひとつはTPP(環太平洋パートナーシップ)についてしっかり確認したこと。2番目はグローバル問題、地域問題、2国間問題について、きちんと話し合いができたこと。3番目は外務大臣を帯同して、日米外相会談を行ったこと。

TPPは内容的に特に新しいものではなかったが、しっかり確認した。日本国内にTPPへの非常な懸念があるため、安倍首相がハイレベルで確認したいという意向を持ち、それに対してオバマ大統領が応じたということ。

なぜかといえば、オバマ政権は内憂外患で、大幅な予算カット断行や第2期政権発足による人事交代、対外関係でもEUの不安定さ、中近東、中国問題などがある。

こういう中で米政権も、安定的なパートナーを求めたいという意向が非常に強い。毎年リーダーが変わるようなことは望ましくないと思っていたに違いない。だから、米国を重要視するパートナーが「ジャパン イズ バック」と言って帰ってきたときに、「ウェルカム バック」と言いたかったということではないか。

会談内容についても、グローバル問題からスタートしたことが大きい。これまで日本は、アジア太平洋の話ばかりをすると見られていた。(今回の会談では)アフガニスタン、中近東、パキスタン問題などからスタートして、日本はグローバルパートナーであることを印象付けた。リージョナルな問題についても、大人の対応、抑制的な対応を示し、アジア太平洋で一緒にやっていこうと表明したことは大きい。

日米関係でも、安倍首相から切り出して、日本の防衛力強化、日米ガイドラインの見直し、沖縄基地問題についてしっかりとやっていくことを表明した。「どうするのか」と聞かれるのではなく、自分から言い出したことが大きかった。

——TPPに対する米国のスタンスをどう分析しますか。米自動車産業は日本の参加に消極的です。

オバマ政権は、(2014年末までの)5年間で輸出を倍増させる政策を掲げています。今後の経済浮揚には、米国の工業復活、製造業復活がオバマ政権の重要なテーマです。TPPそれ自体が目的というよりは、米国の大きな目的に合致するツールとしてTPPがあると認識していると思います。

自由貿易協定において例外がないはずはない。例外があるから交渉する。米国の一般的な認識からすると、日本はかなり農業保護主義的に動くだろうと思われていたが、それにもかかわらず、日米首脳会談(の共同声明)で、農産品のセンシティビティを明記したのは、安倍首相が欲しているものを出すという意識が、米側にあったからではないかと思いました。

オバマ政権のアジア太平洋重視は“国是”

——オバマ大統領は「アジア重視」を表明しているが、その一方で米国は中長期的には、アジア太平洋地域において後方から影響力を行使するスタンスに移行していくのではという懸念もあります。

オバマ政権の外交戦略は極めて合理的で、わかりやすく、予測可能性が高い。アジア太平洋は経済の成長拠点であると同時に不安定要因も抱えている。だからこそアジア太平洋重視は、オバマ政権の“国是”、“政権是”として当然ということになる。

しかし、アジア太平洋に(米外交の)すべてのエネルギーが傾注されると考えることは不適当。米国の外交努力の相当部分は、不安定なシリア情勢、イランの核開発問題など中東問題に引き続き割かざるを得ない。ただ、米国の大きな経済権益から見れば、今後の方向性はアジア重視であり、このふたつは決して矛盾するものではないと思います。

——米国内に安倍政権への期待の一方で、安倍政権の歴史認識の修正問題には厳しい見方を示しています。

今回よかったことは、安倍首相がいろんなかたちでアメリカの国民に呼び掛けたことです。ワシントン・ポスト紙とのインタビュー、CSIS(戦略国際問題研究所)での演説、有識者との懇談など首脳間対話だけではなく幅広い対話をして、自分たちが基本的には保守、中道的な路線であるとアピールした。急に国粋主義的になるわけではありませんということを印象付けたことは大きかったと思います。

米国内には日本はどうなるのかと書きたてるメディアがある。しかし、「日本は抑制された姿勢で対応している」と安倍首相が述べたことで、アメリカに一定の安心感を与えた。領土問題をめぐる中国の最近の言動に対して、日本がかなり抑制した対応をしていることは、一種の安心感を与えていると思います。

——米国も中国に対して非常に慎重になっている?

日米は極めて緊密に意思疎通を図って対応しています。米国は(尖閣諸島問題が)日米安保条約の適用対象であることを鮮明にしており、武力というか、実力行使で現状を変えることは不適当であるともはっきり言っています。米国のスタンスは極めて明確と思っています。

失望感は存在したが、日米関係は揺るがず

——藤崎さんが駐米大使であった時に、日本の民主党政権下で日米間の信頼関係が揺らぎました。米国民の日本に対する意識は変わったのでしょうか。それとも一時的な危機、過渡的な状況だったのでしょうか。

中立的な立場で申しますと、民主党政権が成立した当初、米側には期待感があったが、結局、それが失望感に変わってしまった。

——期待感が強すぎた?

日本で政権交代が起きて、米国は民主党と新しい関係を作ろうとしたが、沖縄の普天間基地移設問題、東アジア共同体のことなどもあり、失望感に変わっていったのは事実です。ただ。普天間基地の移設問題はその後1年以内に(日本側が)元の路線に戻ったと思います。失望感が、ずっと続いたというわけではありません。

もうひとつの失望感は、日本の政権が大きなリーダーシップの下で何年も続く政権ではなく、同じ政党の中でも首相が毎年交代することに対する失望感です。初めの(民主党発足後の)失望感とは違う失望感があることは事実だと思います。

一方、アメリカ国民全体でみれば、今でも82パーセントの日本人はアメリカを好きだと言い、84パーセントのアメリカ人が日本を好きと言っている。長く続けてきた国民レベルの文化交流の成果であり、いろんな日本のイメージは崩れていない。政治家同士の信頼関係という以外に、国民全体の信頼関係があると思っています。

日本人のアメリカに対する親近感(2011年)

親しみを感じる/どちらかというと親しみを感じる 82.0%
親しみを感じない/どちらかというと親しみを感じない  15.5%
わからない 2.6%

出典  内閣府・外交に関する世論調査

米国における対日信頼度(2011年)

日本を信頼できる 84%
日本を信頼できない 13%
意見なし 3%

出典  外務省・米国における対日世論調査

日本の強さは将来性ある経済、世界への貢献

——大使時代から藤崎さんは「日本の課題と強さ」という自作の資料を使って、多くの方々に日米関係を説明してきました。何を強調したかったのですか。

ひとつは、日本経済にはまだまだ将来性があるということです。国際的な特許申請件数で、日本はアメリカに次いで2位です。研究開発費も2008年までは日本はアメリカに次いで2位でした。今は3位で2位は中国です。しかし、全体として見ると、日本にはまだ非常に(多くの)成長産業があるということです。

2点目は、世界に対する日本の大きな貢献です。国連分担金は2位、イラク、パレスチナ、パキスタン、アフガニスタンに対する経済的な貢献でも、軍事的な貢献を除けばアメリカに次いで2位である、というようなことです。

3点目は、日米の国民間の信頼です。この3点を強調してきました。

——最近のデフレ脱却、円高修正という「アベノミクス」を米側はどう評価していますか。

オバマ大統領は、日本国民が支持していることを評価すると言った。通貨操作を目的にすれば、近隣窮乏化政策になりますが、今は日本経済を刺激する観点からやっており、私は日本にとって必要であると思います。G20でも、そういうことに対する批判は起きなかった。

——米国の有識者の中には、難しい普天間問題を横に置いて、日米両国はもっとグローバルな問題について物事を進めるべきだという意見もあるようです。

その議論は間違いだと思っています。普天間は「小さい問題」であるということで議論すると、例えば、尖閣問題も小さな島の問題だから(日米安保条約は)横に置かせてもらうよとなって、日米安保は成り立たない。安保はパッケージですから。

日米人脈の新たな“橋頭堡”を作るとき

——日本国際交流センター理事長だった山本正さんや、ダニエル・イノウエ上院議員が亡くなり、日米関係の人脈が先細り傾向にあります。米国の日系人社会の新たな指導者も見えません。日本側でも日米関係のリーダー育成が不十分なように見えます。

それは非常に大きな問題ですね。山本正さん、ダニエルさんの果たしてきた役割は大変に大きかった。山本さんは1970年ぐらいから2000年の活動。ダニエル・イノウエさんは2000年から2010年ぐらいまでの活動で、極めて大きい貢献があった。その穴をどうやって埋めていくのかは非常に大きな問題だと思っています。しかし日米関係という川は大きく流れていくのであって、今度は新しい橋頭堡(ほ)をどんどん築いていかなきゃいけない時期になっていると思います。

——今回の日米首脳会談は成功でしたが、日米関係における懸念事項は何でしょうか。

安倍首相が「やる」と言ったことをきちんとやっていくことが大事で、それがないとまた失望感が湧く。ともかく、やっていくということではないかと思います。

(2013年2月25日上智大学にて)

聞き手=一般財団法人ニッポンドットコム代表理事・原野 城治(政治ジャーナリスト)
人物写真=花井 智子

  • [2013.03.22]
関連記事
その他のインタビュー

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告