「戦略的パートナーシップの構築に向けて」駐日サウジアラビア王国・アブドゥルアジーズ・トルキスターニ大使
[2013.05.02] 他の言語で読む : 简体字 | 繁體字 | العربية |

安倍首相の7年ぶりの中東歴訪を前に、駐日サウジアラビア大使に単独インタビューした。流ちょうな日本語で、大使は「戦略的パートナーシップ」の必要性を強調された。日本での体験談も面白い。

アブドゥルアジーズ・トルキスターニ

アブドゥルアジーズ・トルキスターニH. E. Dr. Abdulaziz A. Turkistani駐日サウジアラビア王国大使。1958年サウジアラビア王国ターイフ生まれ。キング・アブドゥルアズィーズ大学卒業後、日本政府奨学金で来日。1984年早稲田大学修士号取得。1999年カイロ大学博士号取得(エジプト)。イマーム・ムハンマド・ビン・サウード大学東京分校学長、キング・サウード大学経営管理部部長等歴任。アラブと日本のメディア関係や文化についての著書を多数執筆。

安倍晋三首相は5月連休にサウジアラビア、トルコなど中東諸国を歴訪。それに先立ち、nippon.com編集部は、駐日サウジアラビア大使のアブドゥルアジーズ・トルキスターニ氏に単独インタビューした。

この中で、同大使は2年を経過した「アラブの春」の現状について、個人的見解としながら「アラブの春はまだ起こっていないと思う」と述べた。日本とサウジアラビアとの関係についても、これまでの「資源外交」だけでなく戦略パートナーシップに基づき、文化やスポーツなど幅広く重層的な交流の強化を図りたいとの意向を強調した。

ダウン・ストリーム(下流)の交流を強化

——日本の首相の中東訪問は約7年ぶりですが、日本とサウジアラビアにおける今後の課題は何でしょうか。

「日本とサウジアラビアの友好関係樹立は、1955年です。安倍晋三首相(第1次安倍内閣当時)は2007年に初めてサウジアラビアを訪問され、戦略的・重層的パートナーシップ構築に向けた対話促進などで合意しました。今回の訪問を改めて歓迎します。

両国関係は、これまで石油や石油化学技術といったアップ・ストリーム(上流)部分での協力が主でした。しかし、戦略的パートナーシップの構築で、今後はダウン・ストリーム(下流)の協力、つまり日本のモノづくりや工業技術をもっとサウジアラビアに取り入れていきたいと考えています。

日本は、石油消費量の27%~30%をサウジから輸入している大事なパートナーです。日本のODA(政府開発援助)による技術援助だけでなく、G20(※1)のメンバーとして財政・金融面でも強い絆があります。今後も、二国間でWin-Win関係を築いていきたいと願っています」

サウジにおける“ Made in Japan”を目指す

「私は“Made in Japan”という言葉がとても好きですが、今後は、“Made in Japan in Saudi Arabia”を目指していきたい。その一環として、日サ両国の主導による『クラスター・プログラム』(※2)を推進します。プログラムは、自動車、Spare Parts(部品)、水ビジネス、インフラ、エネルギーの5つの分野に焦点をあてています。“石油”だけではなく、“モノ”、 “人”、その元になる人材育成の面などの協力関係を密にしていきたいですね。

もう一つ、力を入れているのが教育分野です。例えば、“Vocational Training”(職業訓練)で、ジェッタには、自動車のトレーニング施設、リヤドには2つトレーニング施設があります。若い人たちの人材育成の場で、日本のトレーニング・システム(TQM=総合的品質管理、TQC=全社的品質管理、TPM=総合生産保全)を重点的に教えています。同時に日本の“倫理”も “マナー” “やり方” “考え方”を含めて、学んでいかなければならないと考えています。

また、アブドゥラ国王奨学生制度(KASPTT=King Adbullah Scholarship Program for Technical Trainers)では、18万人のサウジの学生が、40カ国に留学しています。日本には、480~500人が留学しています。日本で学んだマナー、技術を本国に持ち帰れば、それが“Strategic Partner”(戦略的パートナー)になります。

『文化』『スポーツ』『メディア』でも関係を深めたい。メディアでは、これまで、“イスラム”=“テロ”のように誤解されている部分が多くあって、欧米からそうした情報が日本に流れています。これからは日本とサウジアラビアを直接つなげるメディアを作っていかないといけません」

「まだ春は来ていない」大事なのは着実な改革

——「アラブの春」から2年が経過しました。大使は中東、北アフリカ諸国の動向、さらに今後の展望についてどのように見ておられますか。

「“Arab Spring(アラブの春)”と言いますが、正直に言いますと、私は『アラブの春』を見ていない。つまり『アラブの春』はまだ起こっていないと思っています。個人的な意見ではありますが、チュニジア、リビア、エジプト、イエメン、どの国もまだ“Spring”になっていない。

大事なのは“Reform(改革)”です。サウジの“Reform”は1993年から始まり、10年間で13~14の改革を行いました。法律改正、道路建設、人材育成などに取り組み、その積み重ねの結果、サウジは安全であり、発展を続けてこれたわけです。

また、サウジアラビアにはメッカとメジナという聖地があります。聖地のある国、アッラーをお守りしている国ということが、4000年前から聖典クルアーンにも記されています。もちろん、隣国ですから『アラブの春』の国々の情勢を注視しています。ステップ・バイ・ステップのリフォームをしてきたサウジとしては、徐々に改革していってほしいと他の国々にも願っています」

答えは「サッカー」と「マンガ」

——アラブ諸国では、日本のポップカルチャーへの人気が高く、キャプテン翼など、サッカーなどのスポーツも、新しい交流のパイプとなりつつあります。サウジアラビアの若い人々の日本への関心はいかがですか。また、日本語教育の現状はどうですか。

「私が早稲田大学に留学した時、サウジアラビア・クラブというのを作りました。メンバーは私と日本人3人だけ。サウジの紹介をして回りましたが、その時、日本人学生に“What do you know about Saudi Arabia”と聞くと、ほとんどの回答が『砂漠』『らくだ』『石油』でした。でも、昨年、30年ぶりに早稲田大学を訪れた時、同じ質問をしてみたんです。驚いたことに『サッカー』と答えたんですね。

一方、サウジに戻った時に、“What do you know about Japan”と若者に聞いてみると、今度は「マンガ」と答えた。そこに大きなサインがある。これまでは、物理的な関係はあっても、人間的な触れ合いはなかった。これまでは『SONY』『SUZUKI』といったメーカー、つまり“Made in Japan”で知られていたのが、今は文化、そして『人間』同士のつながりが生まれている。モノはいつかなくなるが、人間と人間の関係は続いていきます。若い人が中心になって、ますます日・サの関係を深めてもらいたいと思います」

日本は「内向き」ではない立派な国

——日本は長いデフレと不況の影響で「内向き」になったと言われています。

「日本は率直に言って、とても立派な国だと思います。30年前に来日した時、山手線で若者が、乗ってきたおじいさんとおばあさんに、すぐに席を譲った。そういう日本の文化や気持ちは素晴らしいですね。

近年、日本はグローバリゼーションなどの影響で、素晴らしい文化が失われてきているのではと言われますが、私はそうは思いません。まだまだ、他人を思いやるという文化は生きていますし、今後も大切にしてほしいと願っています。

私は日本の方たちに『どうぞ、あなたが持っている素晴らしい習慣を大事にしてください、文化を守ってください』と言いたいですね」

立ち食いそば屋で「1メートルください!」

——日本で忘れられない失敗談などがあれば、差し支えない範囲で教えてください。

「日本での面白い話は、実にたくさんあります。バスが曲がる時に運転手さんが『ご注意ください』と言います。それが、私には『50円ください』と聞こえたんですね。そして、『あと何回曲がるんですか、なんで曲がる度に50円払わないといけないんですか』と聞きながら、50円を運転手さんに渡しました。

同じようなエピソードですが、電車の白線がありますよね。駅員さんが「白線の内側まで下がってお待ちください」と言います。『お待ちください』という部分を、『マッチください』に聞こえたんですね。それで、駅員さんにマッチを渡したところ、すごく不思議な顔をされましたね(笑)。『何ですか?』という感じに。

最後に、ここで初めて話すことですが、駅前の立ち食いソバでのことです。ソバ自体初めて見たのですが、ソバを食べている人のしぐさが不思議だなと思ったんですね。みんなソバが熱いから箸(はし)で少し上に上げてから食べますよね。それを私は、みんなが麺の長さを図っているのと勘違いしてしまい、店の人に『すみません、1メートルください』と言ってしまったんですね(笑)」

親密な天皇家とサウジ国王家

——海外の方は「日本の皇室」について強い関心を示されます。国王家と天皇家の関係は親密ですが、日本の皇室についてどのように感じられますか。

「サウジアラビアと日本の関係が始まってから、天皇家と国王家には深いつながりがあります。2011年、2012年と立て続けに、サウジアラビア皇太子が亡くなりました(※3)。日本の皇太子は、わざわざ葬儀に参列してくださいました。われわれはそれにとても感謝しました。今後も、この関係を続けていきたいですね」

——9.11テロ以降、「イスラムは怖い」といったことが日本の社会にも根付いています。大使はどうお感じになれていますか?

「イスラム教とムスリムのことを理解してもらいたい。メディアの責任もあると思います。そのため、日本とサウジアラビア両国のメディアが直接交わって、正しい情報を伝えていかないといけない。シンポジウム、セミナーなどでもいいでしょう。一緒に何かやっていかないといけないですね」

取材協力=駐日サウジアラビア王国大使館
聞き手=一般財団法人ニッポンドットコム代表理事・原野 城治(政治ジャーナリスト)

撮影=大久保 惠造

(※1)^ 1999年に設立された20カ国財務大臣・中央銀行総裁会議。加盟国のみで世界経済の9割を占めている。

(※2)^ サウジアラビアの諸資源を活用し、特定の産業クラスターを育成することにより、経済の成長と多様化を目指す政府主導の産業振興政策。

(※3)^ 2011年に、スルタン・ビン・アブドルアジズ(Sultan bin Abdul Aziz)皇太子(享年87歳前後)、2012年には、ナエフ・ビン・アブドルアジズ(Nayef bin Abdul Aziz)皇太子(享年79歳)皇太子が逝去された。

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