「国民が実感できない経済成長に意味はない」エジプト・アラブ共和国・ヒシャム・カンディール首相
[2013.06.11] 他の言語で読む : العربية |

エジプト革命によりムバラク政権が崩壊。2012年6月にはムハンマド・モルシ氏が大統領となり、ヒシャム・カンディール氏を首相に任命した。経済成長が悪化し、IMFとの交渉も難航する中、カンディール氏はエジプト再生に向けてどう舵を取るのだろうか? 日本との関係は? TICAD Vで来日したカンディール氏に緊急インタビューを行った。

ヒシャム・カンディール

ヒシャム・カンディールHisham QANDILエジプト・アラブ共和国首相。1962年生まれ。1984年、エジプト・カイロ大学(学士)卒業。米国ユタ州立大学、ノースカロライナ州立大学で灌漑(かんがい)工学を学び、それぞれ修士、博士号を取得。帰国後、灌漑水資源省・水資源研究所(NWRC)に勤務。水利技師としてアフリカ開発銀行(AfDB)に勤務し、ナイル流域開発事業に取り組む。ムバラク政権崩壊後、2011年7月、シャラフ暫定内閣の水資源灌漑相に任命される。モルシ政権下、2012年7月より現職。

IMFからの融資実現に向け、財政改革を実施

——エジプトの経済成長率は6~7%でしたが、革命直後には1.7%、2012年は2.2%でした。これをどうお考えですか?

2011年エジプト各地で大規模な反政府デモが発生し、29年間続いたムバラク政権が崩壊した。

「経済成長は極めて重要で、以前記録した6~7%は高い成長率です。しかし、国民はそれを実感できていませんでした。成長の恩恵が一握りの富裕層にとどまり、貧困層にはまったく届いていなかったからです。私たちはどんなに成長しても貧困層に浸透しなければ意味がないと考えています。だからこそ、中小企業や、教育や医療などの社会事業に集中的に投資しています。これこそが将来に向けた最良の投資であり、エジプト国民が成長を実感できるようにしたいのです」

——エジプト政府は国際通貨基金(IMF)から総額48億ドルの支援を受ける交渉を続けていますが、その条件として突きつけられている補助金や公務員給与の削減といった財政改革は実現可能ですか?

「IMFからの融資は国家として決めた計画なので、何としても実現しなければなりません。そのためには国の歳入を増やし、補助金などの歳出を合理化するしかない。給与カットの話はまったくしていません。欧州や諸外国とは違い、エジプトの給料は低いので、これ以上削減できないからです。

ガソリンやディーゼルといった燃料への補助金は、すでに6月1日からスマートカードによる合理化を導入しています。

これまでエジプトでは1リットル当たり約1ドルで輸入した燃料を補助金によって20セントで販売していました。そのため、20セントで購入した燃料を密輸し、再度輸入して儲けようとする事件が横行しています。こうした密輸を避けるためにも配給のためのスマートカードを2段階で導入し、補助金が必要な人に確実に届くようにしたいと考えています。第2弾は7月から開始する予定で、財政的にかなり節約できるでしょう。流通の合理化もある程度図れます。

一例ですが、観光業は今年後半から燃料の補助金を受け取れなくなります。今より高い燃料代を払わなくてはなりません。観光業は支援が必要なセクターで、支援を即座に撤廃することはできないので、段階的に行う必要があります。ただ、観光業に補助金付き燃料をいつまでも提供し続けるのもおかしな話で、将来的には合理化しなければなりません。

IMFとはバランスのとれたプログラムを交渉しており、6月末までに交渉を妥結できればと考えています」

日本人観光客を呼び戻したい

——日本からの支援についてはどのように考えていますか?

「最初に、エジプト国民に対するこれまでの日本の支援を感謝したいと思います。日本はエジプト支援の歴史の中で、エジプトの内政にも、あるいは他国の内政にも決して介入してこなかった。それこそ日本政府が高く評価されるべき点であり、私たちはその点を十分認識しています。

もちろん、技術面、財政面での支援も必要としていますが、日本企業からの直接投資も持続可能な支援としてもっと増やしたいと考えています」

——日本にはどの分野に投資して欲しいですか?

2013年6月7日、エジプト・ルクソール県知事・エザアット・サアド・エルサイエッド氏と一関・平泉地域エジプト・ルクソール友好協会名誉館長・山田俊和氏(中尊寺貫首)は世界遺産を活用した相互の交流を促進するため、友好連携協定書に調印した。エジプト・日本お互いの観光強化に向けた取り組みはスタートしている。

「手っ取り早くて効果的な取り組みのひとつに、エジプトに日本人観光客をもう一度呼び戻すことがあります。エジプトの日本人観光客は2010年には約12万人でしたが、2012年は3万人前後にまで落ち込みました。これをもう一度増やしたい。2010年の水準に戻すとまでは言いませんが、大幅に改善させる必要があります。

治安面、つまり観光客の安全という意味では改善しており、ロシア、イタリア、ドイツからの観光客は戻ってきています。カタール、トルコ、中国からは観光業への投資があります。リスクはありますが、彼らはこのリスクをチャンスと考えているのです。

ぜひエジプトに来ていただき、ご自分の目で確かめてください。毎年2,000万人前後の日本人が海外旅行に出かけていると聞いています。迅速で効果的な投資や支援が得られれば、その一部でもエジプトに戻ってくるのではと考えています」

スエズ運河周辺に広がる可能性

——経済活動や投資の面で、中国も積極的です。日本と比較してどうですか?

「これは比較するような問題ではありません。日本にとってチャンスになるかどうかに尽きると思います。投資については、もちろんWin-Winの関係を念頭に置いています。投資家は将来性がなければ投資しません。

開発が進むスエズ運河周辺。

例えば、スエズ運河回廊(コリドー)です。カイロ空港からわずか100キロという立地条件で、設備の整った港湾もあり、貨物を保管できるカーゴ・ビレッジもある。ここで製品を作り、わずか100キロの距離を運べば、航空機で輸送することができます。船便も問題ありません。実際、コリドーの南部と東部、ポートサイードの3カ所には主要な産業地域があります。インフラを整備すれば、産業や物流に関する可能性はさらに広がるでしょう。現在、様々な国が投資や支援を展開させようとしています。

日本には、アフリカとアジアを結ぶ橋の建設を支援していただきました。この橋は“Salam Bridge”、すなわち平和の橋と呼ばれました。

現在、私たちはスエズ運河をまたぐ2つの海底トンネルを建設していますが、そのひとつには中国が査定と調査に参加しており、資金を拠出する予定です。また、中国は、60平方キロもの広さを持つ工業団地の建設を支援することになっています。

さらに、タタ・グループを中心としたインドやインドネシアも関心を示していると聞いています。もちろん、アラブやエジプトの投資家もいます。

これは未来といっても、すぐ目の前に迫っている話です。スエズ運河は、日本が世界各地に物品を輸送する最も安価なルートです。日本が韓国だけに輸出しているのなら何の問題もありませんが、それ以外の諸外国への輸出を考えるなら、エジプトがそのゲートになります。つまり、エジプトへの投資は単に国内の9,000万人市場への投資にとどまらず、20億人市場へのアクセスにつながるのです。

それに、エジプトではまだ安価な労働力を確保できます。今なら失業問題も投資家にとっては追い風です。もちろん課題はありますが、状況が安定化するのを待つのではなく、早い段階からこの市場に参入すればそれだけ多くの利益を得られるでしょう」

エネルギー危機回避には日本の技術力が必要

——エジプトはエネルギー危機に見舞われていますが、政府としてこの問題にどのように対処していますか?

nippon.comのアラビア語版冊子を手にするカンディール首相。

「エネルギー問題の解決には2つの側面があります。ひとつは発電所の建設。2つ目は、これらの発電所を動かすのに必要な燃料を確保することです。発電所の建設には3、4年かかりますし、ガス、石油、石炭の探査にも数年かかります。こうした問題を解決するのが投資です。石油であろうと再生可能エネルギーであろうとエネルギー問題の解決には投資が必要なのです。

発電所の建設に向け、すべての企業、すべての国に門戸を開いています。日本はこの分野で豊富な経験を有しており、貢献していただけると期待しています。原子力発電についても真剣に検討しています」

——日本で名前を知られるようになったエジプト出身の大相撲力士がいます。彼について聞かれたことはありますか?

「大相撲力士の大砂嵐に会いました。彼が、相撲という極めて日本的な世界で力を発揮し始めていることはすばらしい。これほど短期間に、しかもこれほどの実績を残せたことは称賛に値します。私たちは彼を心から誇りに思っています。彼はエジプトと日本をつなぐ、優れた大使だと考えています」

取材協力=駐日エジプト・アラブ共和国大使館
聞き手=一般財団法人ニッポンドットコム代表理事・原野 城治(共同通信社、読売新聞社との共同インタビュー)

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