ソチ五輪、相互理解の重要なステージ

政治・外交

ソチでの冬季オリンピック・パラリンピックを直前に、アファナシエフ駐日ロシア大使がnippon.comとの単独インタビュー。五輪成功への自信と日露関係改善への強い期待を表明した。

エヴゲーニー・ウラジーミロヴィッチ・アファナシエフ Evgeny V. AFANASIEV

1947年5月25日生まれ。ロシア連邦ロストフナドヌー市出身。高校卒業まで東シベリアのチタ市に在住する。1970年 モスクワ国立国際関係大学卒。同年、旧ソ連(現ロシア)外務省入省、中国、米国勤務後、外務大臣官房参事官、外務省第一アジア局長を経て、1997から2001年まで在韓国特命全権大使。01年から04年まで外務省第一アジア局長。その後、04年から10年まで在タイ特命全権大使。10年から12年まで外務省人事局長、参与を経た後、2012年2月から駐日特命全権大使。中国語、英語、フランス語が堪能。家族は妻、息子1人、娘3人。国家褒賞、友好勲章を受章。

——ソチの冬期オリンピック・パラリンピックはロシアにとって一大事業ですね。

「ソチでの第22回冬季オリンピックと第11回パラリンピック冬季大会の開催は、新生ロシアになって初めて行われるオリンピックであり、国内的かつ国際的な意義を有しています」

「特に、オリンピック開催準備で、ソチ市およびコーカサス地方全体の輸送・エネルギー・観光インフラの発展に拍車がかかりました。数万人規模の新たな雇用が創出され、何よりも『オリンピックの遺産』を国民の生活向上と国内のスポーツ振興のために、今後長期間にわたって利用できる機会を得ました。オリンピック会場の建設は、最高レベルの環境基準に基づいて行われ、“緑の建築”の最先端の技術が取り入れられています。その結果、ソチの国定公園の面積が、2000㎡拡張されたわけです」

「オリンピックとパラリンピックは、世界平和と民族友好、青年の幅広い交流の理念を確認し、スポーツの妙技を競い合う、またとない機会になることは間違いありません。ロシアと日本は、オリンピックの豊かな伝統を受け継ぐ国であり、今回の大会が、両国の人々の信頼と相互理解を深めていく、重要なステージになることを確信しています」

「同時に、ニッポンドットコムの読者の皆様、日本の皆様に改めて、2020年の夏のオリンピック・パラリンピックの東京開催決定、誠におめでとうございます。ロシアも、東京招致を支持しました。このような大規模なスポーツの祭典の開催ではスポーツ技術のトレーニング方法、安全の確保、環境保護といった問題にいたるまで、様々な経験を交換する場となります」

日露貿易、2013年は過去最高

——日露関係ですが、最近の経済協力さらには将来的な展望はいかがですか。

「近年の露日貿易は、実にダイナミックに発展しています。2013年末収支では、両国間の貿易高は、過去最高だった2012年の335億米ドル(日本のデータ)を上回る見通しです。投資も増加しており、ロシア経済への日本の累積投資額は、100億米ドルを超え、直接投資は約10億米ドルとなっています。現在、ロシア市場では約450社の日本企業が活動していますが、その数は過去10年間で倍増しました」

「露日経済関係の活性化をもたらす重要なきっかけとなったのは、2013年4月に安倍首相の10年ぶりの訪露で行われたプーチン大統領との首脳会談です。総括として締結された合意には、ロシア地方政府代表も参加しており、運輸・エネルギー・銀行・貿易・投資保険分野、各種プロジェクトの共同実施に関して合意され、露日両国間のビジネス拡大のための強固な礎となっています」

「ロシア企業は、医療、都市環境、インフラ、農業、省エネ、再生可能エネルギー利用分野における30以上の共同巨大プロジェクトの実施にむけて、日本のパートナーとの対話を進めています。また、シベリア鉄道の近代化と利用効率の向上、ヨーロッパ向け北極海航路の活用に関して日本の参加も議論されています。ロシアでのLNG(液化天然ガス)輸出基地開発、炭化水素資源の開発に関する大規模なプロジェクトも進んでいます」

「プーチン大統領は年次教書演説の中で、極東の経済成長が、21世紀の国家的優先課題であると指摘しました。この地域の発展における協力拡大は、露日関係の最重要政策のひとつであります」

「露日経済協力に関する対話は、ますます加速していくでしょう。プーチン大統領も述べたように、日本は我々の隣人であり、自然なパートナーです。対等なパートナーとしての両国間の互恵的貿易経済協力の一層の発展は、両国関係強化の重要なファクターです」

活発化する政治対話、日露首脳会談 過去1年で4回開催

——日露の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の初会合が2013年11月に行われるなど、日露対話が進んでいます。どのように見ていますか。

「2013年を総括すれば、首脳会談をはじめ、あらゆるレベルにおけるロシアと日本の政治的対話が、かつてないほど活発化したことです。同時に両国関係の全体的な雰囲気が、確実に良好化したことを指摘したいと思います。同年4月以降だけでも、両国の首脳会談は4度にわたって行われました」

「同年11月に行われた露日2プラス2の初会合は、両国関係の新たな質を裏付けるものとなりました。同年4月の安倍首相のモスクワ公式訪問を総括して締結された両国間の戦略的パートナーシップ構築に関する合意の実現に向け重要な一歩が記されました」

「両国関係が大きく発展し信頼が高まる中で、現在、双方が対話を進めている最も複雑な問題の解決も、より容易になることは間違いないでしょう」

——北朝鮮を含む北東アジア情勢、さらには日中・日韓関係への影響はどうですか?

「北東アジア情勢について言えば、肯定的なファクターとともに、朝鮮半島情勢を含め課題もあると考えています。各国家間の領土問題は、政治的・外交的手段によって、二国間で解決されなければなりません。北東アジアのすべての国々が、自国の国益のみならず、アジア太平洋地域全体の安全保障の向上の重要性を忘れずに、智恵を発揮することが必要です。当然ながら、肯定的なファクターとしては、国民生活と繁栄に影響を及ぼしている北東アジア地域での経済協力の拡大があります。ロシアは当地域だけでなく、その他のすべての地域における平和と互恵協力、北東アジアのすべての国々の安全保障のために取り組んでいます」

外交キャリアの大半がアジアと関わる

——キャロライン・ケネディ氏が、駐日米大使に就任し、注目を集めています。大使の主な役割とは、どういうものでしょうか?

「ケネディ家については、ロシアでも、世界でも大変有名です。キャロライン・ケネディ新駐日大使のご活躍をお祈り申し上げたい」

「大使の役割は、駐在国における自国の代表者であると、明確に定義されています。大使は、国家元首、私の場合はプーチン大統領の代理人であり、接受国の元首、日本の場合は天皇に対するロシアの代表者です。大使信任状は、信任状捧呈式の席上、接受国の元首に手渡されます。私の信任状捧呈式が行われたのは、2012年4月26日でした。大使の序列は、信任状捧呈式の日付によって決められています」

「大統領の直筆署名が入った信任状には、『私とロシア連邦政府の名において、大使が、貴殿に対して叙述させていただくすべてを、ご信任賜りますようお願い申し上げます』という一文があります。大使の課題は、自国の国内・対外政策、対日関係について説明し、日本の国内政治および経済、第三国との関係を含む対外政策について評価することです」

「とはいえ、最も大きな配慮を払うのは、当然ながら両国関係であり、様々な分野における協力関係の発展を支援することです。これらの課題が、隣国であり、大国である日本の駐日大使を務める私に課せられています」

「私が重要だと感じているのは、アジアの国で大使という職務を行っているという点です。というのも、私のキャリアの大半が、アジアと結びついているからです。中国で5年間、アメリカで13年間(アジア問題を担当)、駐韓国大使として4年間、駐タイ大使として5年間過ごしました。今私にとって、最も大事なことは、外交官としての任務だと考えています。私とアジアとの関係は、偶然ではありません。私自身はシベリアで育ち、中等学校を卒業しました。シベリアは、日本、中国、朝鮮半島の隣に位置しているからです」

大いに役立っている漢字の知識

——日本についての印象はどうですか。また、日本で起きた興味深い出来事について、お話しください。

「私は、1986年に初めて日本に来ました。それ以来、定期的に日本を訪れています。私も、家族も日本の国、人々、自然が好きです。日本は、気候的にモスクワ、もちろんシベリアよりも過ごしやすい。そういう訳で、日本で楽しく仕事をしています。このことは、大使としていい仕事をするためにも、きわめて重要なことです。日本で多くの同僚や友人ができましたし、彼らとよく連絡を取り合うようにしています」

「面白いエピソードも少なくはありません。あるエピソードについて、お話ししたいと思います。私は中国語ができるので、多くの漢字を理解することができますが、漢字を日本式に読むことができません。ある日、東京の中華レストランで、妻といっしょに中華料理を注文しました。メニューの中国語名を書いてウェイターに見せると、彼は料理を持ってきて、何やら日本語で聞いてきました。私は、ひと言も日本語で答えることができなかったのです。ウェイターは、ひどく驚いた様子でした。漢字を正しく書ける外国人が、全く日本語を話せない、とは。でも、基本的には漢字の知識があることで、とても助かっています。例えば、鎌倉の海岸で、「深夜花火の禁止」という看板を理解できるからです。はい、もちろん、私は、深夜に花火はしませんが!」

(インタビューは書面形式。2013年12月25日、ロシア大使館でのインタビューはニッポンドットコム代表理事・原野城治が行った。)