特集 タカラヅカ100周年
タカラジェンヌ、台湾を魅了
熱い客席、舞台と一体化
[2013.05.15] 他の言語で読む : 简体字 | 繁體字 |

宝塚歌劇が、2014 年に100 周年を迎える。国内で年間250 万人の観客を動員する華麗な舞台は、これまで海外にも紹介され、4 月に初めて台湾で行われた公演にも多くの観客が熱狂。海を越えた人気の広がりを感じさせた。

25回目の海外公演で台湾初上陸

台湾公演が行われた 国家戯劇院

宝塚歌劇の初めての海外公演は1938年11月。「訪独伊芸術使節団」として、ドイツ、ポーランド、イタリア、クロアチアで公演し、翌年3月に帰国した。以来、北米、中国、東南アジア、中南米、韓国など、17カ国で24回の海外公演を行ってきた。25回目の海外公演となった台湾公演は、国際親善や文化交流にとどまらず、自主興行として歌劇団が協賛会社の募集やチケット販売を手掛けた。今後、アジアでファンを開拓していくための布石との位置付けだ。

宝塚台湾公演 のパンフレット表紙

公演は台北市の国家戯劇院で4月6日から14日にかけて12回行われた。同劇場は瓦屋根のどっしりとした伝統的な外観と西洋式の内部空間を持つ。席数は約1500席。チケット(1200~4500元、約4000~1万5000円)は完売し、8割は台湾人の観客が占めたという。舞台両脇に字幕を用意するなど、観客への配慮も忘れない。

演目は日本舞踊をベースにした日本物ショー「宝塚ジャポニズム~序破急~」、台湾の人気武侠小説を題材にしたミュージカル「怪盗楚留香(そりゅうこう)外伝―花盗人(はなぬすびと)―」、12星座をテーマにしたレビュー「エトワール・ド・タカラヅカ」の3本立て。2012年11月から2013年2月にかけて本拠地の宝塚大劇場と東京宝塚劇場で上演された星組公演の2本目のミュージカルを台湾ゆかりの作品に差し替え、レビューに台湾向けアレンジを加えた内容だ。専科の松本悠里(まつもとゆり)、星組トップスターの柚希礼音(ゆずきれおん)、娘役トップの夢咲(ゆめさき)ねねら40人がこん身の舞台を繰り広げた。

台湾の観客を引き込む絶妙の構成

「宝塚ジャポニズム」

第1幕の「宝塚ジャポニズム」(作・演出=植田紳爾)は、「さくら」「荒城の月」などに乗せて、幸福への祈りや人の世の栄枯盛衰などを描いたもの。桜が舞い散る中でのあでやかな群舞など、観客は宝塚独特の和の世界に熱心に見入っていた。比較的おとなしめの反応は、異文化に対する敬意の表れのようにも感じられた。

「怪盗楚留香外伝 花盗人」

「怪盗楚留香外伝」(作・演出=小柳奈穂子)は、「予告状を出して宝物を盗み、後に花の香りを残して去る」という義賊(ぎぞく)、楚留香が主人公。「台湾のアルセーヌ・ルパン」と言われる人気キャラクターで、作品シリーズはドラマや映画にもなっているという。今回は、楚留香が織物商人に成りすまして天下一の剣客、薛衣人(せついじん)の息子の結婚式に紛れ込み、家宝の花かんざしを盗もうと企てるが、思わぬ事件に巻き込まれ、謎解きに乗り出すというストーリー。

登場人物の人間関係が入り組んでいて、初見ではやや分かりにくいが、地元ではよく知られた題材だけに、コミカルな場面では随所で笑いが起こっていた。楚留香を演じる柚希がさっそうとして格好よく、トップスターの魅力をアピール。夢咲が台湾の名曲「雨夜花」を歌う場面もあり、観客の反応は上々だった。

最後のレビュー「エトワール・ド・タカラヅカ」(作・演出=藤井大介)は、12星座にまつわる伝説をさまざまな場面で見せていくが、柚希が宝塚名物の大階段に1人立つ幕開きから大歓声。本拠地の宝塚大劇場の26段に迫る20段の大階段を使って、まずは宝塚ならではの黒燕尾(くろえんび)姿の男役のダイナミックな群舞、続いて愛らしいピンクの衣装に身を包んだ夢咲ら娘役の登場で、「これぞタカラヅカ!」を印象付けた。

観客も宝塚的な見せ場作りを心得ているようで、銀橋(ぎんきょう。宝塚大劇場と東京宝塚劇場にあるオーケストラピットと客席の間のエプロンステージ)を渡るイメージで柚希らが舞台前面に出てくると、ひと際大きな歓声と拍手を送っていた。

「エトワール・ド・タカラヅカ」大階段の群舞

 

名物“大階段”やテレサ・テンの歌に大歓声

初日公演前に囲み取材に応じる柚希礼音(左)と夢咲ねね

ショーの終盤で、柚希が台湾出身の故テレサ・テンの「月は我が心」を中国語で歌ったほか、2008年に大ヒットした映画「海角七号」(かいかくななごう)の主題歌「無楽不作」「国境の南」など台湾ゆかりの曲が取り入れられ、観客と一体化した舞台の熱気は最高潮に。カーテンコールでは拍手が鳴りやまず、総立ちとなった。

初日公演の直前に行われた囲み取材では、柚希と夢咲がやや緊張した表情をみせていた。しかし初日の客席の盛り上がりを受けて、2日目は、舞台から客席に手を振ったり、ウィンクを飛ばしたりと、カンパニー全体に余裕が出てきた様子だった。公演期間半ばに行われた記者会見では、こんな声も上がった。

「台湾のみなさまに楽しんでもらえるのか、とても不安があったのですが、思った以上に楽しんでいる様子が伝わってきて、私たちもどんどん乗っていった。日本にも来てもらって、さらに大きな大階段や銀橋がある本場の舞台を見ていただきたい」

台湾各紙もたっぷり紹介

書店に並ぶ「怪盗楚留香外伝 花盗人」の原作本など

初日の模様について地元紙は、台湾公演のために楚留香が書き下ろされたことや、中国語の歌が取り入れられたことなどを紹介。「トップスターの柚希礼音の魅力が会場を席巻」(自由時報)、「日本での公演に比べ規模は縮小されたが、柚希に中国語でアナウンスさせるなど、宝塚の心意気は十分」(中国時報)、「身長172センチの柚希が楚留香を格好良く演じ、会場を虜にした」(蘋果日報)などと報じた。

劇場ロビーで記念撮影する観客ら

観客は親子連れからお年寄りまで幅広く、男性の姿も少なくない。台湾では天海祐希や黒木瞳ら、宝塚出身者のドラマなどがよく見られており、そこから宝塚に興味を持つ人もいるという。「武侠小説をどう料理するか興味があって見に来た」という武侠小説ファンの台北市の会社員、徐宏志さん(41)は、「怪盗楚留香外伝」について、「脚本は完璧。歌もいい」と満足そう。「宝塚は初めて見たが新鮮。レビューよりも、和物のショーが日本の特徴があって良かった」と話した。

日本での留学中に見て以来、20年以上のファンという台北在住の蔡如蘋さんは、「宝塚は夢があって、見ると元気になる。多い時は年4回、日本に見に行きます。私たちが『遠征』するのは大変なことなので、台湾公演があると聞いて涙が出ました」と話した。

台湾の筋金入りの宝塚ファン

初日にそろいのTシャツで観劇に来ていたのは台湾のコスプレ劇団「無限人形劇場」のメンバー。「初日と千秋楽は必ず見る」という筋金入りの宝塚ファンだ。代表の張凱雍さん(39)は、以前演じた役柄が「エリザベート」のトートに似ていたので、役作りのために宝塚ファンの団員から花組公演のDVDを借りて見て、すぐにファンになったという。

宝塚ファンのコスプレ劇団「無限人形劇場」のメンバー(張凱雍さん提供)

2005年に設立された無限人形劇場は、台湾で人気の高い「霹靂」(へきれき)という人形劇のキャラクターなどを題材にしたコスプレ芝居を行っている。「霹靂は武侠世界を描くので、主人公の9割は男性。コスプレをやる人は女性が多いから、どうすれば女性が演じる男性が格好良く見えるか、というところが宝塚の男役と同じ」と張さん。劇団の宝塚ファンは定期的に宝塚大劇場や東京宝塚劇場へ観劇に足を運んでおり、「台湾のファンのための限定グッズを作ってほしい。公式ファンクラブを作るならいつでも力を貸します」と語った。

2005年に公演があった韓国でもその後、宝塚ファンが増えている。ソウル在住の旅行ガイド、キム・ミンギョンさん(29)が韓国公演後に立ち上げたファンクラグは今年7周年を迎えた。インターネットでの情報交換や交流などを重ね、会員は300人以上。「特定のスターや組ではなく、OGを含めた宝塚歌劇全体を応援している」そうだ。アジアの宝塚ファンのために、宝塚歌劇の公式ホームページに韓国語や中国語を加えたり、書籍やDVDを通信販売で買えるようにしたりしてほしいという。

台湾公演の成果を踏まえて、アジアでの「宝塚ビジネス」に弾みがつきそうだ。

取材・文・撮影=中村 正子(時事通信社文化特信部)

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  • [2013.05.15]
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