今日もランチはお弁当

【番外編】子どものランチ・学校給食

社会 暮らし

学校給食。日本人なら決して忘れることができない食生活の大事なシーンだ。nippon.comの米国人編集者が、地元の食材を取り入れた、子どもたちに楽しい給食作りなどで評価の高い東京都日野市立平山小学校を訪ねた。

私の小学校時代、アメリカの給食のメニューはフレンチフライポテトやハンバーガーなどが多かった。とてもおいしかったが、今振り返ってみると、あの頃給食で食べていた“野菜”はポテトとトマトケチャップが多かった。

10年以上前に長野県の中学校に英語教師として来日して、一番驚いたのが給食のメニューの豊富さだった。3年間生徒たちと給食を食べながら、日本の食文化に触れることができた。その後日本で結婚し、長女は今、小学校に通っている。私が子どもの頃は、給食の内容を家族に話すことは少なかったが、娘は楽しそうによく給食のメニューを報告してくれる。娘の話を聞き、学校で配られる毎月の献立表を見るうちに、日本の学校給食への関心が高まってきた。

低価格で栄養バランスの良いメニューの秘密


調理中の給食室をのぞいて歓声をあげる子どもたち。

今回、取材に協力してくれたのは、東京西部の日野市立平山小学校。新宿駅から郊外に向かう京王線に乗って約40分、東京都内とは思えないほど自然が多く残り、住宅街と農地が点在している地域にある。ガラス張りの給食室は学校自慢の「見える、見せる給食室」だ。中では、栄養士の川口芳枝さんと男性調理員4人が、この日のメニュー「五目ご飯」「メカジキのあずま煮」「すましじる」「小松菜のごまあえ」の4品の準備を進めているところだった。衛生管理上、栄養士と調理員以外は入室禁止だが、休み時間になると子どもたちが集まってきて、ガラス窓に張り付いて、調理の様子を興味深そうに見ているのが面白い。

献立の基準として都教育委員会が決めているのは、650キロカロリーという摂取熱量。また、日野市では1食分を282円として提供している。川口栄養士によると、限られた予算の中で、栄養バランスを考え、子どもたちが毎日飽きずに食べられ、季節感や地域の食材をできるだけ多く取り入れられるようなメニューを1カ月ごとに決めているという。

地元優先の食材調達も平山小の給食の特徴。鮮度の良い食材の確保と地域社会への貢献、協力のため、使用する食材の25%は日野市の農産物だ。特に近くの農家で作る黄、赤、紫の3色の珍しいジャガイモを使ったトリコロールチップスは人気。生産者が、学校を訪れて子どもたちと交流する時間を持つことも「食育」には役立っているようだ。

川口栄養士が献立作りについて説明する。

「好き嫌いをなくすような献立を心がけています。にんじんやピーマンが嫌いな子どもは多いですが、細かく刻んでご飯に混ぜた『レインボーピラフ』を作ったら残さず食べてくれました。子どもが好む鮮やかな色が、効果的かもしれません」


完成前に「すましじる」の味見をする川口芳枝栄養士。

一番の人気メニューはカレーライス。毎月の献立表に登場するが、飽きがこないように季節によって食材を変えるなどの工夫をしている。また、同じレシピでも担当する調理員によって味が微妙に変わり、子どもたちの間で「今日は誰が作ったのか」と話題になることもあるという。不人気なのは日本の伝統的なおかずだという。

「『切干大根』は昔からの定番ですが、最近はお母さんたちが家で作らなくなっているメニューなので、なじみのない子どもたちは苦手にしているようです。日本の料理を覚えておいてほしいので定期的に作ります」と川口栄養士。

話を聞いてみて、学校給食は子どもたちに栄養バランスのとれた健康的な食事を提供するだけでなく、日本の食文化を将来の世代に伝えるという側面もあると感じた。

男性調理員たちの仕事


揚げ鍋の上で温度を測る。

ガラス窓の向こうでは、男性調理員がもくもくと、巨大な鍋でサイコロ状のマグロの唐揚げを作っていた。食中毒防止のために、マグロの温度を管理する必要があり、専用の温度計で測る作業も同時に行う。熱さに耐えるだけではなく、慎重な作業も求められる大変な仕事だ。

500人分以上の「五目ご飯」を作るときには、相当な重さになる具とご飯を手際よく混ぜ合わせていく。また、「すましじる」という和風スープを、鍋から各教室に運ぶための食缶に移す作業も軽々とこなす。男性が得意とする力仕事だが、4人のチームワークの良さにも感心させられた。

給食当番から学ぶこと


子どもたちと配膳用ワゴンを運ぶ担任の高木健示教諭。

子どもたち自身で配膳を行うのも、日本の学校給食の特徴の一つ。1週間ずつ交代の給食当番たちが、お揃いの白衣を身に付けて料理を乗せたワゴンをそれぞれの教室まで運ぶ。最初に見に行ったのが1年1組の教室。白衣が脱げそうな小さな子どもたちが、こぼさないように丁寧に盛り付けるのがかわいらしい。隣では担任の高木健示教諭がミッキーマウス柄のエプロンをつけて配膳の様子を注意深く見守る。入学直後は大人の手助けが必要だった子どもたちも、3カ月程度で全員に平等に盛り付けられるようになるという。

食べ残しゼロのクラス


食べ残しをしないクラスを指導する市之瀬英臣教諭。


5年1組の子どもたちが空にした食缶。

次に、5月以来食べ残しゼロ記録を更新中の5年1組を見学した。食事中も担任の市之瀬英臣教諭から「食事中は机に肘をつかない」「箸の持ち方に気を付ける」「姿勢は正しく」といった注意が飛ぶが、子どもたちは楽しそうに次々に皿を空にしていく。

市之瀬教諭に「どうしてこのクラスの子どもは食べ残しをしないのか」と質問したら、「自分が率先して食べるから」だと冗談まじりに答えてくれた。欠席者がいるときに「おかわり争奪じゃんけん大会」を開催して市之瀬教諭も参加したら、「先生におかわりを取られるな」と子どもたちが競争心を燃やして挑戦し、ますますクラス全体の食べる量が増加。残さず食べて達成感が得られるのか「たくさん食べる方がかっこいい」と子どもの意識が変わってきたという。

「食べ残しをする子どもは、食が細くて食べられないのではなく、好き嫌いがあって残す場合がほとんどです。『いただきます』という食事のあいさつが、別の生き物の『命をいただく』ことなのだと伝えて、食べられる幸せを理解させるようにしています」と市之瀬教諭。

試食してみて

マイケル・シャワティ(nippon.com)

5年1組の豪快な食べっぷりを見ているうちに、私も猛烈に空腹を感じてきた。取材を終えて校長室に移動すると、我々取材スタッフの分の給食も用意されていた。子ども向けの味付けかと想像していたら、大人が食べても満足できる味だった。野菜はシャキシャキだし、スープのだしもよく利いていて大満足だ。心残りがあるとしたら、取材が1日で終わり、翌日の献立にあった「夏野菜のカレー」が食べられなかったことだ。

取材=マイケル・シャワティ(nippon.com)
撮影=加藤 タケ美













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