特集 暮らしの和コロジー
「自然共生」が新しい日本ブランドになる
小林光・前環境事務次官に聞く
[2011.11.21] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

日本が世界に誇れるもの。それは伝統に根付いた「自然との共生」を土台にした環境への取り組みだと語る、小林光前環境事務次官に“和コロジー”の原点を聞いた。


小林 光
KOBAYASHI Hikaru

慶應大学環境情報学部教授。1949年東京生まれ。1973年に環境庁(現・環境省)入庁。気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)の誘致や、同条約京都議定書の国際交渉を担当。2009年7月に環境事務次官に就任。2011年1月に退官。主な著書 『エコハウス私論 ―建てて住む。サスティナブルに暮らす家』(ソトコト新書)
撮影=川本 聖哉

東日本大震災とそれに続く原発事故で、日本の“安全”ブランドはもろくも崩れ去った。海外からの渡航者は激減。日本産の食品は敬遠され、工業製品も放射能検査の対象になっている。世界の信頼を取り戻すことは喫緊の課題だ。環境省の前事務次官で、現在は慶應大学で教鞭をとる小林光教授は「日本が打ち出すべきは自然共生ブランド」だと指摘する。

「環境白書」を世界で最も長く発行している国、日本

自然共生は日本人にとって「原点回帰」だと、小林氏は言う。いまや世界語となった「もったいない」はモノが本来持ち合わせている能力を生かしきるという発想に基づく。このメンタリティは森羅万象に神や精霊を感じる「アニミズム」と不可分だ。山にも海にも神を感じるからこそ、自然を畏れ敬う心が育まれ、自然からいただいたモノを最後まで生かしきろうとする感性が磨かれてきた。

さらに、日本は環境白書を世界で一番長く発行している国であり、自然との共生に通ずる国際ルール、つまり地球温暖化防止に関する京都議定書(1997年)、遺伝資源の利用と配分に関する名古屋議定書(2010年)が定められた国でもある。しかしながら、これまでに自然と共に生きる日本の伝統的な感性までも海外に伝えてきたかと言えば、それは十分ではない。

「今こそ、自然と共に生きる製品や特産品、方法論を世界に提供すべき。近視眼的な議論ではなく、よりステージの高い話をしなければ、日本は国際社会から必要とされなくなるでしょう」

自然との調和を図る、伝統的な日本の感性

ドイツは環境性能を追求することで環境先進国というブランドを手に入れたが、日本が同じ道を目指す必要はない。むしろ日本的な感性を生かして自然との調和を図るという選択肢こそふさわしい。東北の被災地の復興はそのシンボルとなり得る。

「21世紀にふさわしい街づくりとして斜面の緑化を提案したい。土を盛って斜面を作り、緑地を線や面でつなげるのです。建物の容積率は減りますが、その分は地下を活用すればいい。地下は音や光が遮られ、温度変化を受けにくいといったメリットがあります」

さらに、小林氏はこう続ける。

「何世代にもわたって住み続けられる家を作れば、緑地も街の景観も維持されます。将来も住み続ける分、耐震性能などは強化しなければなりませんが、コストを複数世代で分散すれば一世代あたりの負担は軽い。建てては壊し、壊しては建てる一世代限りの家から、三世代が100年間住み続ける家へ、発想の転換が必要です」

昨今は古民家再生や古材の有効活用にも注目が集まっている。それは素材を無駄にしない「もったいない」精神の表れであり、長い時間をかけて磨かれた木材の神々しいまでの美しさに対するオマージュであろう。

■小林氏のエコハウス

小林氏は「公人」として日本の環境行政をリードしてきた一方、「私人」としてエコハウスのオーナーという顔も併せ持つ。東京・世田谷区の自宅には、太陽光発電や水の再利用など30を超える環境対策が盛り込まれている。その結果、建て替え9年目の2008年には、CO2排出量を50%削減することに成功している。庭には20~30種類もの蝶が訪れるという。都会に暮らしながらも自然との共生が可能なことを人々に示した。

自然を取り入れる家サムネールをクリックして画像を拡大

風力発電 雨水タンク 壁面緑化 ソーラー集熱 太陽光発電 薪ストーブ 床暖房 ダクト 屋上緑化

取材・文=林 愛子(サイエンスライター)
エコハウス写真・図版提供=小林 光

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  • [2011.11.21]
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