特集 暮らしの和コロジー
いま日本人の食卓から見えるもの
欲望の無限大から無限小へ
[2011.11.15] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

長年の実践を通じて得た「無駄を生まない生活術」を著書や講演などで披露する食文化研究家・魚柄仁之助さん。現代日本の行き過ぎた消費社会に異議を唱える暮らしぶりから、「本当の豊かさ」とは何かが浮かび上がる。

食材をいかに無駄なく使い切るか


魚柄仁之助
UOTSUKA Jinnosuke

1956年生まれ。大学で農業を学び、その後バイク店を18ヵ月、古道具店を10年間経営。以後、食文化研究家として、食材のユニークな利用法や、無駄のない食生活を提言している。著書に『うおつか流台所リストラ術』『冷蔵庫で食品を腐らす日本人』『食ベ物の声を聴け!』など多数。

3月11日の東日本大震災以降、節約型の暮らしへの関心が高まると同時に、災害時に備えた保存食・非常食づくりに注目が集まっている。長年にわたってそうしたことを実践し続けているのが食文化研究家の魚柄仁之助(うおつか じんのすけ)さんだ。彼にとってみれば、最近の節約志向も保存食ブームも、「何をいまさら」なのである。

魚柄さんが『うおつか流台所リストラ術』『冷蔵庫で食品を腐らす日本人』などの著書で繰り返し訴えてきたのは、「食材をいかに無駄なく使い切り、余計な買い物をせずに生活するか」ということ。大学で農業を学び、その後、古道具店などを営むかたわら、無駄をなくすように工夫した食生活について書いた著作が人気を博した。大量消費文化の対極にあるような質素な暮らしぶりに、長髪に髭(ひげ)という風貌から「現代のヒッピー」「エコロジーの求道者」のイメージもある。しかし、その生活は極端にストイックという訳ではない。

「無理にやせ我慢してこういう生活をしているわけではないんですよ。長く使えるものは徹底的に使うし、食材にしても安い時にたくさん買い、保存の仕方を工夫して長持ちさせて、できるだけ無駄を出さないようにする。そういう暮らし方をむしろ楽しんで実践しているだけです」と、魚柄さんは笑う。

実際、山奥に籠った仙人のような暮らしをしているわけではなく、魚柄さんの住む家は都心の住宅街の一角にある。しかし、家の中に一歩入ると、白熱灯にちゃぶ台、ねじ巻き時計など、あたかも戦前の民家のような空間が広がる。かつての日本人は、物がないことを補うためにさまざまな工夫をして、知恵を出し合いながら生活していた。大震災以降、大量消費社会に虚しさを感じている人も少なくない中で、魚柄さんの実践する工夫生活は間違いなく、ライフスタイルの一つの手本となっている。

「人に『こういう暮らしをしなさい』と言う気はなくて、『僕はこうやっている』と言う。食べきれない食品を次から次へと買い込み、冷蔵庫の中で腐らせてしまうような生活が果たして豊かと言えるのか。安い・早いという理由だけでファストフードばかり食べる生活が健康と言えるのだろうか。僕の書いたものやしゃべったことが、それぞれの人の食生活を見つめ直すきっかけになってくれればいい」

食べることは生きること

17年前にベストセラーとなった『うおつか流台所リストラ術』には、「ひとりひとつき9000円」のサブタイトルが付けられ話題になった。「1ヵ月の食費が9000円で済む」ということが、バブル経済崩壊直後の日本人に驚きを与えた。

「ニンジン、カボチャ、レンコン、ゴボウ、ダイコンなどの根菜類は、余ったら薄くスライスして、ザルなどに置いて天日干しする。1週間ほど干して完全に水分を抜いたら、保存用の瓶に入れておく。こうすれば、半年くらいは平気で持ちます。一晩水に浸けて戻せば、味噌汁などの具材としてすぐに使えますよ」と、魚柄さんは言う。

必要以上の生ごみも出さず、体にも家計にも負担をかけない。まさに手間さえ惜しまなければ、豊かな食生活が楽しくできるという見本だ。

「日頃からこうしてストックしてあるので、1ヵ月くらいなら家に籠って仕事をしていても食べる物には困らない。震災以降、保存食・非常食に注目が集まっているようですが、日常の食事で採り入れていれば、非常時だからと慌てることもありません」

朝食には10品以上が並び、魚の刺身も頻繁に食べるし、お酒も飲む。その代わり、外食はほとんどしない。会社勤めをする妻の弁当も含めてすべて自炊だ。エアコンのない室内では、夏は扇風機か団扇(うちわ)で涼み、冬は囲炉裏(いろり)で暖をとる。「特に不便は感じない」という言葉は、決してやせ我慢ではない。

魚柄さんは、買った食材から日々の料理のメニューまで、20年以上にわたり、「食日記」に書きつづけている。そこから見えてくるのは、日本の物価の変遷であり、自身の食に対する傾向だという。

「日々の食べ物から社会の移り変わりが見えるし、自分の食べ物の好みの変化も分かる。つまり、社会と自分の変化の記録です。僕は14歳の時に事故で左目を失明したのですが、運が悪ければそのとき命を落としていたかしれません。それ以来、『どう生きるのか』について考えるようになったのですが、その基本は食にあります。食べることは生きること。と同時に、日々生きるということは一歩一歩死に近づいていくこと。時間を無駄にせず、よりよく生きるためにも、自分の食生活を見直すことが必要だと思います。そろそろ日本も大量消費という欲望の無限大から無限小へと向かう時期なのではないでしょうか」

文=さくらい 伸
撮影=川本 聖哉

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  • [2011.11.15]
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