特集 おいしいごはん
おいしいコメが、美しい棚田を守る
高知県本山町農業公社「土佐天空の郷」
[2011.12.16] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | Русский |

2010年の「お米日本一コンテスト」で最優秀賞を獲得したのは、全国的に知られるブランド米ではなく、高知県の山間の棚田で作られた「土佐天空の郷 にこまる」だった。日本一おいしい米を作る生産者たちを訪ねてみた。

日本一おいしいコメの故郷、高知県本山町は四国の中央部、北は石鎚山地、南は剣山地に囲まれている。高知市内から高速道路を使って約1時間、吉野川の源流近くの水が豊かな山間の町だ。国道439号線から分かれた細い林道を進むと、5分ほどで突然視界が開ける。山すそから頂上付近まで、刈り取りを待つばかりに稲穂が黄金色に実った棚田が広がっていた。


本山町の棚田は、下は標高250mから上は850mまで。外界から隔絶された空間で、谷を埋め尽くした棚田は、まさに「天空の郷」だ。

「土佐天空の郷 にこまる」の衝撃

日本一おいしいコメを選ぶ「お米日本一コンテスト2010」の結果は、衝撃的だった。最優秀賞に選ばれた「土佐天空の郷 にこまる」は、西日本の生産者として初めて、しかもコシヒカリ以外の品種として初の受賞だったからだ。「土佐天空の郷」が2009年に発売されたばかりの新ブランドであったうえに、「にこまる」が食味よりも温暖な地での栽培を重視して開発された品種であることも、関係者に驚きを与えた。

棚田のすぐそばを流れる小川。棚田を潤して、吉野川へと流れ込む。

この新ブランド米を企画した本山町農業公社事務局次長の和田耕一さんは「受賞以来、問い合わせが多くて、注文に生産が追いつかなくなりました」とうれしい悲鳴を上げている。

「土佐天空の郷」というブランドは新しくても、本山町の長い米作の歴史が日本一の味を育てたと和田さんは説明する。

「町には縄文時代から穀物が栽培されていたという記録も残っています。戦国時代にこの地を治めた本山氏が領民の食糧確保のために、耕地を拡大して、今のような棚田ができました。良質の米が取れるのは、ここの粘土質の土が米作に合っているからです。高地は水の確保が難しく水田には向かないと言われますが、この地域は山の湧水も多いので大丈夫。逆に標高が高く寒暖の差が大きいことから米粒にハリが出ます」

故郷の棚田を守るために

しかし、近年は生産者の高齢化が進み、機械化を進めづらい棚田では離農する人も増えていた。2000年代の初めごろから、地元の棚田を守りたいと、30~40代の生産者が立ち上がり、地域の豊かな水と棚田の土を生かした、本山町だからできるコメのブランド化に取り組むことになった。新ブランドで使用するコメの品種は、西日本に広く普及している「ヒノヒカリ」と温暖化に対応した「にこまる」の2種類。和田さんは「食味を重視して開発した特別な品種ではなく、普通のコメを使うことで、本山町の環境と栽培法が注目されるようにしたかった」という。

栽培方法にもこだわった。「土佐天空の郷」に参加する農家はすべて高知県認定のエコファーマーの資格を取り、農薬や肥料の使用基準などに関する情報を共有した。ベテラン農家も過去の経験で得た栽培ノウハウを若手に惜しみなく伝えているという。

また、販売にあたっては粒の大きさ、色、などに厳しい基準を設けた。一般に流通するコメは1.8ミリの網目のふるいにかけるが、「土佐天空の郷」は1.9ミリのふるいを使用。大粒のものしか商品として認めない。生産者もデパートの店頭などでの試食会に参加、消費者の生の声を米づくりに生かす試みも行った。

和田さんとともにブランド化の企画を進めてきた生産者の大石直哉さんも「土佐天空の郷」への思いを語る。

「棚田が広がるこの景色は、われわれの故郷そのものです。絶対に守り抜きたかった。そのためには、農業で稼げるようにしないといけない。町に残った若手の生産者に声をかけて『土佐天空の郷』を立ち上げることにしました。『四国の米じゃ売れない』とも言われましたが、どうしても地元の米で勝負したかったんです。初めて、デパートの試食会で消費者から『おいしい』と声をかけられた時は、本当にうれしかったですね」

生産者の自信が、味の向上へ

2011年秋、新ブランドのお披露目から3回目の収穫となった。参加農家も当初の20軒から40軒にまで増えた。

「日本一と認められたことが自信になりました」と笑顔を見せるのは、昔ながらの鎌を使った手作業で稲を刈っていた細川冬子さん。

地元のバス会社に勤務する夫の和保(かずほ)さんが休みの日にコンバインを使い、刈り残した部分を冬子さんが手で刈っていく。愛犬のクロも一緒だ。

「棚田でもコンバインを入れて刈っていますが、畔のカーブがきついところはどうしても鎌で刈らないと。刃がギザギザで、力を入れなくても簡単に切れるんですよ」

刈り取った稲わらを整理していたのは澤田友子さん。「うちは肉牛もやっているので、刈った稲わらはエサにします。夜露に濡れないように、明るいうちにまとめてカバーをかけるんです。本山町は『土佐あかうし』もおいしいですよ。霜降り肉ではなく赤身のおいしさが自慢です。お米が日本一で有名になったから、牛もみなさんに知ってもらえたら、と思います」

 


朝もやにつつまれた棚田。午前中は霧が深く、稲穂に水滴がついているため、稲刈りは霧が晴れた午後を中心に行われる。

 

 

田岡清さんは、昨年のコンテストで受賞対象となった「にこまる」を出品した生産者だ。

「他の地域では、稲刈りをしてから乾燥させるところもあるけれど、本山町では葉の部分が黄色くなるまで刈らずに熟成させます。これが『土佐天空の郷』のおいしさの秘訣なんですが、今年は9月に大きな台風が来て熟成が遅れてしまったのが少し心配です。天候によって遅れたり、味が変化したりするのも『土佐天空の郷』らしさなのかもしれませんね」

地域の環境と、生産者の思いが「土佐天空の郷」のおいしさを作っている。

 

 

撮影=大橋 弘

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  • [2011.12.16]
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