特集 nippon x fashion 2012 (地方編)
【福井県鯖江市】あなたのメガネも鯖江ブランド?
世界のメガネにかなった技とデザイン
[2012.03.06] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

今やファッションアイテムとして欠かせないメガネ。世界三大メガネ生産地のひとつが、福井県鯖江市ということをご存知だろうか。鯖江市の6人に1人はメガネ関連の仕事をしているという、まさにメガネの街。世界に通じる高い技術力とデザイン性―その強さの秘密に迫ってみた。

チタンフレーム発祥の地

福井県鯖江市は100余年の歴史を持つ国内唯一のメガネフレームの産地だ。1980年代に世界で初めて、軽くて丈夫な金属チタンを用いたメガネフレームの製造技術を確立。金属アレルギーを起こしにくいチタン製のメガネは一世を風靡、その後世界のスタンダードとして広まった。鯖江市の生産量は圧倒的で、国内製造シェアの約96%を誇る。

現在、鯖江には47軒の製造メーカーがあり、500社ほどのメガネ関連事業所がある。その中には世界最大のメガネ見本市イタリアのMIDO(ミド)展やフランスのSILMO(シルモ)展などの国際見本市に出展して海外市場の販路を開拓する積極的な企業も多い。海外のデザイン賞を多数受賞するデザイナーも年々育ち、デザイン性と品質にこだわる海外セレブの愛用者も増えてきた。2008年のアメリカ大統領選の際に注目を浴びた共和党サラ・ペイリン氏も鯖江のメガネを愛用しているという話題も記憶に新しい。

「作るだけ」から「作って売る」産地への転換

鯖江でメガネ作りが始まったのは1905年。農閑期の副業として広まり、戦後の高度経済成長や、チタン金属フレームの登場で需要が拡大、大きく成長した。鯖江市役所内の鯖江ブランド推進グループのメガネ担当、渡辺賢(さとし)さんは、「鯖江の人々は昔から緻密なメガネ製造に対応できる忍耐力と根気強さがあったことも発展に一役買ったのではと思います」と話す。

鯖江は長年、供給先ブランド名で売り出される製品の受注生産(OEM)で生産量を伸ばしてきたが、近年は、低価格の中国に受注がシフト、国内でも低価格ショップが増えるなど、厳しい環境に直面。1992年をピークに出荷額・従業者数は約3割、事業所数は約4割減少した。

「2000年以降から鯖江全体でOEM依存体質からの脱却を図るため、“作るだけの産地”から“作って売る産地”への転換を目指してきました。自社ブランドの立ち上げや直販店の展開など、今までの技術力を武器に、新しいメガネ製造時代へと突入しています」と渡辺さん。

世界に通用する価値観を表現―デザイナー、笠島博信さん

新しい時代の鯖江のメガネを支えるのがデザイン力。ボストンクラブは南青山と銀座に直営店を展開するメガネ業界でひと際注目を浴びるメガネメーカーだ。チーフデザイナーを務める笠島博信さんは1996年に初の自社ブランド「JAPONISM」の立ち上げから参加。世界に誇る日本の美と、世界水準の技術を取り入れたブランドとして、“メイドインジャパン”のメガネブームをけん引する。中国製メガネの台頭に対抗するため、日本の技術でしか作れないアグレッシブなデザインにこだわってきたが、最近、考え方が変わってきたという。

「海外の展示会に参加し、今の時代に求められているものを目の当たりにした時に、これまで培ってきた技術力だけを語っていては世界では勝負にならないと感じました。技術力以外で、そのブランドが表現できる世界観やその奥にある価値観をアピールしなければならない時代にきていると実感したんです」

海外にも通用する新たな価値観。それを探った末に出た答えが“長く飽きずに使えるもの”という以前のデザインとは真逆の発想だった。2年がかりの構想の末、2011年秋に発表された「JAPONISM PROJECTION」は、無駄を極限まで削ぎ落としたシンプルなデザインに仕上がった。加えて機能面では、脱着ができ交換が可能な丁番(ちょうつがい)「ラダーHINGE」を日本のあらゆる技術を結集して新たに開発するなど、見た目のデザイン性を越えてアピールできる機能美を追求した。

「ヨーロッパでの展示会でも評判が上々で、日本のメガネの可能性をアピールできたと思います。見た目のデザイン性や伝統の技を越え、日本独自の世界観を見つけて、それをメガネに反映しビジュアルで表現していきたい。そんな日本の美意識は必ず世界に通用するはずですから」

「JAPONISM PROJECTION」最大の特徴は、新たに開発した丁番「ラダーHINGE」。約2万回以上の開閉が可能と丈夫な上、一部のパーツを交換すればより長く使うことができる。

 

“磨き”のプロ、82歳フレーム職人

一方で、鯖江のメガネ産業を作ってきた熟練の技も大切に受け継がれている。

鯖江のメガネ産業の祖・増永五左衛門(ござえもん)の孫にあたるマコト眼鏡の創業者・増永誠会長は82歳。会社経営は長男の昇司(しょうじ)社長に任せたが、今でも現役のセル枠職人として腕を振るっている。この道60年以上の熟練職人だ。

メガネのセル枠作りだけでも工程数は100以上にも及ぶ。今は機械に任せる工程も増えたものの、最後はやはり職人の手作業で仕上げる。

増永誠さんは長年愛用する工具(ヤスリ)を使って、丹念に磨き上げる。

「中でも一番難しいのが“磨き”と呼ばれる作業。切削後の断面や表面を滑らかにしたり、傷や汚れを消したり、艶を出したりする作業で、“磨きに10年”といわれるほど、長年の熟練を要する作業です」と増永さんは語る。増永さんの場合は8種類もの工具を使い分け、丹念に手作業で行っていく。

「ふんわりとした丸みを出すのは機械では無理やね。顔の真ん中にかけるものやからバランスが大事なんやけど、それを数値化することはできないね。それは長年の経験とカンによるもんやから。デザインは同じでも、かけた時に違いが出てくる。鯖江のメガネは職人が労を惜しまず仕上げるからこそ、ええもんを作り続けてこれたんでしょうね」

「長年磨きをやってきたから、基盤として押さえる親指はこんなに太くなったわ」と笑う増永誠さん

父の背中を見て育った増永昇司社長も、鯖江らしいものづくりの精神を生かした自社ブランド「歩(AYUMI)」を2000年春に立ち上げた。

「日本のものづくりの良さを考えると、“細部まで気を使ったオーバースペック”に尽きます。オーバースペックとは、必要以上に手間と時間をかけた究極の作り込みのことなんですよ」と昇司さん。『歩』は自然素材で形状変化に強いセルロイドを採用し、細部まで熟練の職人がヤスリ掛けを行うことで、掛けた時に肌に吸い付くようなフィット感と上質な光沢を実現させた。「手間を惜しまず、採算性も考えず、徹底的に基本に忠実なものを作りたかった。これぞデジタルでは表現できないアナログの美であり、メガネの聖地・鯖江だからこそ作れたものだと思っています」

増永昇司社長。「歩」で究極のかけ心地を実現。

 

産地統一ブランドやアパレルとの連携も

鯖江市では2003年からは鯖江産メガネのクオリティをアピールするため、地元メーカー20社以上が参加する産地統一ブランド「THE291」(読み方はザ・フクイ)を展開。また、2008年に東京・青山に、2010年に鯖江市にある「めがねミュージアム」内に、産地ブランドをアピールするためのアンテナショップ「GLASS GALLERY 291」がオープン。青山では約20社、めがねミュージアムでは約40社の地元メーカーの最新モデルを展示販売している。国内や海外からも、わざわざここを目指して鯖江を訪れる観光客が増加中だ。

この他鯖江市では、近年アパレルブランドとの連携で製品開発を行い、人気ファッションショー「東京ガールズコレクション」にも参加。人気モデル梨花さんプロデュースの鯖江製メガネをオンラインショップで販売したりと、鯖江の魅力を広く伝えるための新しい試みにも精力的だ。

取材=野上 知子
撮影=宮前 祥子

 

人口   約6万7千人(2012年1月現在)
平均気温 14.6℃
姉妹都市 新潟県村上市
関連情報 鯖江市役所ウェブサイト

鯖江メガネ史
1905年 増永五左衛門がメガネ製造技術を産地に持ち込む
明治時代 「帳場」と呼ばれる各職人グループごとにメガネ作りを行う分業独立が進む
1914年 第一次世界大戦の軍需景気で受注増加
1937年頃 セルロイド枠の生産本格化(工場数70、工員800人、生産数量年間13万ダース規模)
1980年代 世界初チタン製フレームの製造技術確立
1983年 マコト眼鏡設立
1984年 ボストンクラブ設立
2000年頃~ 出荷数減少のため、OEM主流からの脱却図る
2003年 産地統一ブランド「THE 291」誕生
2008年 東京・青山にアンテナショップ「GLASS GALLERY 291」開設
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