京都発マンガ最前線

京都の新名所、マンガミュージアム

文化

現代日本文化の代表格であるマンガを専門とする総合ミュージアムが古都・京都にある。博物館と図書館の機能を併せ持つ一大スペースは、研究拠点でありながら娯楽施設としても魅力的。京都の新しい「顔」を探訪する。

レトロな外観は、昭和初期建造の小学校校舎を改修したため。天気がよければ、館内から閲覧可能なマンガを持ち出して、芝生に寝転びながら読むこともできる。

いまやマンガは、ポピュラーカルチャーとして幅広い年齢層に親しみをもたれているばかりか、研究対象としても重要な領域となった。マンガの読者や愛好家は、日本国内から世界中へと広がっている。その流れにちょうど沿うタイミングで、2006年11月に生まれたのが京都国際マンガミュージアムだ。

同ミュージアムは、京都市と京都精華大学の共同事業。京都精華大学は、40年近くにわたり国内外のマンガ研究をリードし、マンガミュージアムのオープンと同年に世界初のマンガ学部を開設した大学(※1)だ。

大人も子供も「ハマる」空間

収蔵するマンガ/アニメーション関連資料は約30万点と世界最大級。資料は現代の国内マンガ本が中心だが、世界各国の有名作品や、明治時代の資料まで所蔵されている。このうちおよそ5万冊は、実際に手に取って読むことができる。

その書架がミュージアムの目玉のひとつ「マンガの壁」だ。文字通りマンガが天井までびっしりと壁一面を覆い尽くし、その長さは合わせて200メートルに達するという! 1970年代から2005年までの単行本が中心で、出版年や作家のあいうえお順に分類されている。

絶版となり、今では手に入れにくくなった「幻の作品」にもお目にかかれるかもしれない。5万冊の中からお目当ての作品を探し出すには、館内に設置された「タッチパネル」を使って検索する。

(写真上)絵本が中心の「こども図書館」の部屋は、小さな子供向け。靴を脱いで入るので、子供たちがのんびりした気分で本を楽しめる。(写真下)「ヤッサン一座」の紙芝居師のひとり、だんまるさん。

館内のあちこちで、来館者たちが黙々とマンガを読むことに集中している。大人も子供もマンガの世界に引き込まれ、同時に自分の想像力が創り出す世界にのめり込む。そんな独特の熱気が静かな館内を満たしている。

子供連れの家族も多い。「絵が好きな娘(9歳)をワークショップに参加させるために連れてきました」というお母さんもいれば、「お父さんが来たいっていうから付いてきた」という滋賀県在住の女の子(10歳)も。大人も子供も楽しめて、親子のコミュニケーションが広がりそうだが、このお父さんは娘そっちのけでお目当てのマンガを探しに行ってしまったようだ。

「紙芝居がはじまるよー」。拍子木をたたきながらの呼び声に、館内の子供たちが紙芝居ルームへ駆けつける。昭和30年代以降テレビの台頭によって衰退した街頭紙芝居を毎日上演しているのは、全国でもここだけだ。「水木しげるもマンガを描く前は、紙芝居の作家だったんだよ」。小学生の息子にしたり顔で説明していたお父さんだが、「実は本格的なプロの紙芝居を見るのは自分も初めて」と頭をかく。

マンガが生み出す人々の交流

マンガ工房編集部の小島瑛由さんは京都精華大学の卒業生。

マンガの「実演コーナー」もある。「マンガ工房」では、プロのマンガ家がどうやってマンガを完成させていくのかを実際に見ることができる。マンガの描き方をプロに相談できる「マンガ工房編集部」も併設されている。

「マンガ家の仕事はだいたい自分のアパートにこもって一人でする作業が多いので、人前で描いたり、マンガ家志望の人たちと交流できたりするのは刺激になりますね」と語るのは小島瑛由(えいゆ)さん。マンガの相談を受けながら「どうやったらより面白いマンガを描けるか」という問いに答えていくのは、プロのマンガ家として活躍を始めた自分にとっても有意義だという。

ミュージアムショップはマンガグッズが充実。マンガおたくを自称する横田紗希さん(写真左)は、グッズ購入が目的で大阪から何度もここを訪れている。彼女の服装もどこかコスプレ的だが、ミュージアムでは定期的にコスプレイベントも開催。

ミュージアムは研究者と一般市民の交流の場にもなっている。マンガ研究に関わる京都精華大学マンガ学部のジャクリーヌ•ベルント教授の指摘だ。「マンガミュージアムでの研究会は一般の人も参加できるようになっています。マンガを研究するには、人と広く交流することも大事。閉ざされたアカデミックコミュニティ以外の人たちが参加できるという点には、大きな意義があります。また、私が教えている学生たちを授業の一環としてここの研究会に参加させレポートを書かせることもしています」。

ワークショップや研究会、常設展示に加え、様々な切り口をテーマとする企画展、トークショーなど、イベントが充実しているのも、ミュージアム全体に活気を与えている。

海外のマンガファンも興奮

日本のポップカルチャーを代表するマンガと伝統文化の街・京都、という組み合わせもミュージアムの存在価値を高める要素のひとつ。世界遺産である二条城や、京都御所に近いこともあって、外国からの観光客も多い。

「観光で京都に行こうとガイドブックを読んでいたら、マンガミュージアムを見つけて胸が躍ったね。日本との最初の接点だって、考えてみたらマンガだからね」と話すのはドイツから来たファルザムさん(写真左)。「『デスノート(※2)』とか『銀魂(※3)』が好き。ドイツでは『ドラゴンボール(※4)』のような有名マンガ以外は、高すぎて買えなかったから、よく図書館で借りて読んだんだ。でもマンガだけのこんなに巨大な図書館があるなんて想像していなかったね」と15年来の日本マンガファンを自称するだけあって感慨深げ。

隣は「僕は付いて来ただけ」という友人のスベンさんだが、「日本のマンガ文化の歴史や成り立ちを理解できて面白かった。時系列や分野別にした展示などが英語できちんと説明されているのは素晴らしい」とマンガに思い入れはなくても楽しめたようだ。

京都国際ミュージアムは2006年11月のオープン以来、2012年3月末までに累計でおよそ140万人を集めた。来館者はマンガがいまや研究の対象となったことに驚くと同時に、「やっぱりマンガは楽しい」と感じたに違いない。

「マンガ万博」コーナーには、様々な言語のマンガおよそ5300冊が揃う。外国人の来館者に目を向けているのも国際都市・京都ならでは。

ミュージアムの上田修三事務局長は「ミュージアムだから古いマンガ資料を観て満足していただく、というだけではなく、これからも引き続き『マンガ工房』や『紙芝居』のようにマンガコンテンツを媒体として、来場者とミュージアム間にコミュニケーションが自然と生まれるような“場”を創っていきたいと考えています」と語る。

昨今、マンガを日本から海外への「輸出コンテンツ」としてばかり重視する傾向もあるが、やはり人と人とのコミュニケーションを生み出す「文化」であることは忘れたくないものだ。

京都国際マンガミュージアム

京都市中京区烏丸通御池上ル (元龍池小学校)
カーナビ入力住所:京都市中京区金吹町 452
TEL:075-254-7414 http://kyotomm.jp/

■開館時間:午前10時~午後6時 (最終入館時刻: 午後5時30分)
■休館日:毎週水曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、メンテナンス期間
■入場料:大人800円/中高生300円/小学生100円/小学生未満・無料(※小学生以下の入場には保護者の同伴が必要)

 

取材・文=矢田 明美子
撮影=伊藤 信
協力=京都国際マンガミュージアム

(※1) ^ マンガ「学科」については、日本国内およそ20の大学が設置している。

(※2) ^ 『DEATH NOTE』原作・ 大場つぐみ、作画・小畑健(2003年~2006年、週刊少年ジャンプ/集英社)

(※3) ^ 『銀魂(ぎんたま)』空知 英秋(そらち ひであき)(2002年、週刊少年ジャンプ/集英社)

(※4) ^ 『ドラゴンボール』鳥山明(1984年~1995年、週刊少年ジャンプ/集英社)

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