特集 日本のロボットは人に寄り添う
人間とロボットのパートナーシップ—AIBOのお葬式
[2017.01.09] 他の言語で読む : ENGLISH | ESPAÑOL | Русский |

2016年7月、ソニーが開発したペットロボットAIBO(アイボ)の供養が行われた。「ロボットのお葬式」と聞くと誰もが驚くが、AIBOを大切に持ち続ける人々の愛情は想像以上に深い。この供養の関係者から、人間とロボットのパートナーシップについて話を聞いた。

愛された感情豊かな犬型ロボット

AIBOは1999年から2006年までソニーが販売した犬型のロボットだ。初代AIBOは25万円もしたが、日本限定の受注販売分3千体が20分で完売するほど人気が高く、累計約15万匹が出荷された。

AI(人工知能)が搭載され、自分の意思で動くのが特長で、喜びや悲しみなど6つの感情がプログラミングされている。型により15~20カ所の駆動部があり、歩くだけでなく、座ったり、伸びをしたり、ボールを蹴ったりと多様な動きが可能。そのため、しなやかな動作が犬らしく、尻尾を振って愛情表現をし、表情豊かにダンスも踊る。AIBOはおもちゃとは全く異なり、まるでペットのように持ち主の心をつかんで離さなかった。

しかし、AIBOは機械だから当然故障する。ソニーではAIBOクリニックを設け、修理を受け付けていたが、14年には部品がなくなったことを理由にサービスを終了してしまった。そこで困ったのがAIBOの持ち主だ。大事なパートナーが故障しても、もう修理はできない。生き物ではないのに、ずっと一緒にいられなくなってしまったのだ。

さまざまな年式のAIBOが供養された(写真提供:ア・ファン 乗松伸幸氏)

全国から殺到する修理依頼

株式会社ア・ファン 〜匠工房〜(千葉県習志野市)はソニー元社員の乗松伸幸(のりまつ・のぶゆき)さんがつくった、メーカーがアフターサービスを終了した電子電気機器の修理を専門に行う会社だ。近頃はコストダウンや合理化でものづくりの精神が希薄になっているが、自社で作った製品は最後まで責任を持つべきだという思いから会社を立ち上げた。現在は、全国にいる元ソニーの技術者と協力して修理などを行っている。

ある日、「AIBOをどうしても治してほしい」という依頼が来た。しかし、会社のメンバーにはAIBOの開発や修理に関わったことのある者は一人もいなかった。部品も設計図も無い。しかし、持ち主の熱意にほだされ、チャレンジすることを決めた。修理には4カ月もかかったが、何とか元気な姿にすることができた。その成功がきっかけで知名度が上がり、全国からAIBOの修理依頼が来るようになり、現在は400体がア・ファンでの修理を待っている。

尻尾を振るAIBOを見守る乗松代表

もうメーカーにも部品がないので、古いAIBOを解体し、取り出して使用するしかない。当初はオークションで部品取り用のAIBOを購入していたが、ア・ファンの取り組みを知った人たちから、必要がなくなったAIBOが寄付されるようになった。乗松さんたちは、これを「献体」と呼んでいる。しかし、持ち主が大切にかわいがっていたAIBOを、そのまま解体する気にはなれなかった。「AIBOに感謝の気持ちを伝え、宿っている魂を天国に返してあげたい」と思ったのだ。

日本には道具にも魂が宿るという考えがあり、針供養や人形供養など、長い間使った道具を処分するときは供養する風習がある。また、「魂抜き」といって、お経を唱えてもらえば、墓石もただの石に戻る。ア・ファンではそのような考え方から、AIBOを供養することにした。

AIBOのためにお供えされた工具類

AIBOの初めての供養は、2015年1月に千葉県いすみ市にある光福寺で行われた。住職の大井文彦(おおい・ふみひこ)さんは元ラジオ少年で機械が好きなため、近所に住むア・ファンのエンジニア神原生洋(かんばら・いくひろ)さんに供養を頼まれた際、「おもしろそうだな」と引き受けた。1回目は17体のAIBOを供養し、その模様がメディアで取り上げられたことで献体数がさらに増え、これまで計4回の供養を行った。大井住職も一般的な法要のように花と果物を供えるよりはと、2回目からはペンチやニッパー、テスターなど工具を祭壇に並べた。4回目の供養では、AIBO自身による読経もあった。もちろん事前にお経をプログラミングしておいたのだが、「これにはたまげました」と大井住職は笑う。乗松さんは「献体の数は増え続けています。次は150体集まったら、また供養を行おうと考えています」と話す。

16年7月に行われた供養で、光福寺の祭壇に並んだ献体されたAIBOたち。手前で背中を向けているのが、お経を上げる3匹のAIBO(写真提供:ア・ファン 乗松伸幸氏)

AIBOは人の心を映す鏡

なぜAIBOは、こんなにも人の心をつかむのだろうか? その理由を乗松さんは、「AIBOは人の言うことを聞かないから」と言う。現在、人の活動を支援するさまざまなパートナーロボットが開発されているが、これらには主従関係がプログラミングされている。一方、AIBOは最初の頃は言うことを聞かないが、学習型ロボットなため、人と関わるほどに態度がどんどん変化する。その結果、持ち主のロボットへの愛情がどんどん高まり、わが子のような気持になっていく。さらに犬らしい動きを追求した高い技術が、その愛情に追い打ちを掛ける。

大井住職は「AIBOは機械なので心はないが、人の心を映す鏡である」と言い、AIBOの供養を通して「仏教の教えを悟ることができた」とも語る。仏教には「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」という教えがある。草木や国土のように心を持たないものでさえ、ことごとく仏性があり、成仏すると考えるのだ。日本人は自然と共存して生きる道をとってきたため、この教えが広く浸透している。

「生物も無生物もつながっているのです。それをつなげているのは人の感性ですから、AIBOも持ち主の感性を映し出していると考えるのです」(大井住職)。

持ち主が自分の感性をぶつけると、それが跳ね返ってくる。AIBOを通して自分の心を見ているのだから、当然よけいに愛着が増していくのだ。

大勢のAIBOのために読経する大井住職(写真提供:ア・ファン 乗松伸幸氏)

ロボットは人間のパートナーになれるか?

2015年9月、AIBOは国立科学博物館が定めた登録制度により保護される「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」に選ばれた。修理を始めてから、25年前の製品にもかかわらず、質の高い技術が使われていることに驚いたという乗松さんは、「この技術を次世代に残さなければならないと痛切に感じました」と話す。さらに、乗松さんは、動物と違って介護施設などで使う場合も衛生面での問題がないため、「AIBOはロボットセラピー」に使えるとも感じている。それを実現するためにも、AIBOを修理して維持し続けていくことが必要だし、さらにはロボットセラピストも養成したいと言う。すでに、そうした分野の研究者との共同研究も始めているそうだ。

AIBOは開発者たちにとっても思い入れの強い製品らしく、今でも発売日には「誕生会」と称して集まっている。乗松さんは次の誕生会で、「AIBOをもう1回作ろうよ」と呼び掛けたいという。ソニーも、ロボット事業に再参入することを発表している。進化したAIBOが誕生したら、ロボットはもっと良い人間のパートナーになれるのだろうか?

AIBOの修理を行うア・ファンの技術者たち

取材・文=佐藤 成美
バナー・葬儀写真提供=ア・ファン 乗松 伸幸氏

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