進め!再生可能エネルギー

田んぼ発電 微生物のエネルギーを利用せよ

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自然界に眠ったエネルギー、環境中に放出されるエネルギーを採取(ハーベスト)し、利用するエネルギーハーベスト(環境発電)。日本人の主食・米が生産される田んぼでも、取り組みが始まっている。

イネと微生物が作り出す電力

土の中にたくさんいる微生物を使い、田んぼで発電させる研究が、東京薬科大学の渡邉一哉教授ら研究グループにより行われている。イネは光合成によって有機物を作り、その一部を根から土の中に出す。有機物が豊富になった田んぼの土の中には、その有機物をエサにして生きている微生物がたくさんいて、中には有機物を分解するときに、電子を外に出すものがいる。そこで、この微生物が出す電子を使って発電しようというのが田んぼ発電のからくりだ。

実験で、田んぼの土の中にマイナス極の電極を、水の中にプラス極の電極を設置すると微生物が放出する電子がマイナス極に集まり、電流が流れた。田んぼ1m2あたり数十mW(ミリワット)の電力を取り出すことができた。極めてわずかな電力だが、時計を動かしたり、LED電球を点灯させたりすることはできる。「イネの活動が発電量に影響します」と渡邉教授。昼間や日差しの強い夏に天気のいい日が続いたときは、イネの光合成も活発になり、発電量も多くなるという。

千葉県野田市にある市民農園の水田で実験が行われている。9月に稲刈り。発電してもコメの収穫量は変わらなかった。

渡邉教授らは、発電能力の高い微生物に注目し、微生物を使った燃料電池の開発を目指している。一般的な燃料電池は、水素と酸素を反応させて電力を取り出す発電システムだが、渡邉教授らは、有機物を与えた微生物が作り出す電力を取り出そうとしている。実際に、実験室で微生物を増殖させ、燃料電池として使うとすると、人が常に微生物に有機物を与える必要がある。「そこで、田んぼをひとつの電池として捉えたのです」と渡邉教授は語る。田んぼでは、イネが光合成をして有機物を作ってくれる。さらに微生物同士も物質や電子のやりとりをしている。田んぼの生物が助け合って生きる共生関係を活用して、発電させるというわけだ。まだ、実用化には至らないが、発電効率を高める技術の開発や新たな発電微生物の探索を進めたいという。

半分のエネルギーでも豊かな生活可能

廃水処理用微生物燃料電池の実験装置

さらに、渡邉教授が期待しているのは、下水処理での微生物燃料電池の活用だ。下水に含まれる有機物を使って発電すれば、有機物を除去して水をきれいにしながら発電できるなど、メリットが多い。

東京薬科大学の渡邉一哉教授。「これからの社会は、生物システムをうまく利用することが重要」と語る。

今までは、石油などの資源を地下から掘り出してエネルギーなどとして使ってきたが、これからは自然界を循環する資源を使っていかなければならない。そのためには、自然から資源を集め、エネルギーなどとして活用し、再生・循環させていく技術が必要だという。「自然エネルギーを使うからといって質素に暮らす必要はありません。省エネ技術が進めば、今までの半分のエネルギーでも、豊かな生活を送れるでしょう。そうなれば、石油などの地下資源に頼らずに暮らせる社会を作っていけると思います」(渡邉教授)。

取材・文=佐藤 成美
画像提供=東京薬科大学 渡邉一哉教授

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