特集 進め!再生可能エネルギー
福島沖で始まった浮体式洋上風力発電
[2012.10.09] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

2011年3月の東日本大震災と福島第一原発事故で、甚大な被害を受けた福島県は、再生可能エネルギーの開発に注力し始めている。世界初となる大規模浮体式洋上風力発電の実証実験も開始され、大きな期待が集まっている。

世界も期待する「洋上」風力発電

福島県は「再生可能エネルギー推進ビジョン」を策定し、2040年までに県内のエネルギー需要の100%以上に相当する量のエネルギーを再生可能エネルギーで生み出そうとしている。その実現に向けた主要な試みの一つが、浮体式洋上風力発電の実証実験だ。

洋上風力発電とは、洋上で吹く風を利用した風力発電。一般に、洋上の風は強く、乱れが小さいことから風力発電に適していると考えられており、騒音や景観など陸上のような環境問題も起こりにくい。こうした利点から、陸上での風力発電が盛んな欧米諸国でも洋上風力開発への期待が高く、各国で大規模な洋上ウインドファーム(風力発電所)建設が進んでいる。特に洋上風力に積極的な英国では、2030年までに7000基以上の風車を設置し、3300万kW(キロワット)の洋上風力発電を開発するという政府目標を掲げている。英国の全消費電力の3分の1を賄う計画だ。

日本でも、政府が洋上風力発電を再生可能エネルギーの一翼を担うものとして後押しを決めた。いくつかのウインドファーム建設プロジェクトが立ち上がっているが、中でも福島沖ウインドファームはその先駆け。政府は2011年度第3次補正予算で福島復興のために125億円を計上しており、丸紅、東京大学、三菱商事、三菱重工業、アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド、三井造船、新日本製鐵、日立製作所、古河電気工業、清水建設、みずほ情報総研の11社からなるコンソーシアムが、経済産業省から委託を受けて「浮体式洋上ウインドファーム実証研究事業」を進めている。

福島県沖での浮体式洋上ウインドファーム実証研究の計画(画像提供:福島洋上風力コンソーシアム)。第1期でサブステーションと4コラム型セミサブ風車搭載の浮体式洋上風力発電設備を建設。アドバンストスパーと3コラム型セミサブの2設備は第2期実証研究で建設する計画だ。

総事業費は188億円。第1期では、2013年度までに2000kWの洋上風力発電設備1基を建設し、浮体や風車を用いた検証、腐食・疲労に強い高性能鋼材の開発、観測手法の確立といったさまざまな要素技術の開発とともに、気象・海象などの基礎データを取得。第2期実証研究では2015年度までに世界最大級の7000kW風車搭載の発電設備2基を建設し、事業化を見据えた検証を行う。

水深が深い日本海域には「浮体式」で

今回の計画の最大の特徴は、風車を海に浮かべた「浮体式」の採用だ。現在、洋上風力発電を進めている欧米諸国の海域は比較的浅いため、海底に基礎を築いて発電設備を固定する「着床式」が主力。これに対して日本沿岸は、水深50m以上の海に囲まれている。着床式の場合、水深が50m以上になると一気に建設コストが高くなってしまうため、日本の海域には適していない。

そこで、水深が100~200mでもコストが変わらない「浮体式」が採用された。浮体式はノルウェーやポルトガルで数年前から実証研究が始まったばかりの新しい技術で、福島沖の実証研究は世界でも初となる大規模浮体式ウインドファームが完成することになる。

このプロジェクトの仕掛け人である東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻の石原孟教授によれば、日本には洋上風力発電を行う数々のメリットがあるという。

「国土が狭い上、平地も少ない。日本の陸上で大規模な風力発電を行うのは大変困難です。その点、洋上ならば陸上よりも強い風が安定して吹いているし、日本海域は陸上よりはるかに広い。日本の国土面積は世界で62番目であるのに対して、領海と排他的経済水域の面積は世界6位になるほど広いのです」

ポテンシャルは現在の8倍、復興への期待も

福島・茨城・千葉沿岸における年平均風速のマップ(画像提供:東京大学 石原孟教授)。福島県いわき市沖の天然ガス田にとりつけた風速計で2年にわたって実測したところ、陸上の年平均風速が毎秒4.3メートル程度であるのに対し、洋上では毎秒7.4メートル、月最高毎秒9メートル以上の風を観測。

過去の気象データから算出したコンピューターシミュレーションによると、日本の洋上風力発電の賦存量(理論的に算出した利用可能なエネルギー量)は16億kWものポテンシャルがあることが判明。この数値は日本の全国10電力会社が所有する総電力設備容量(合計で2億397万kW)の約8倍にものぼる。

浮体式洋上風力発電は日本各地で設置できる方法だが、福島沖は、風の強さ、水深、建設に適した広さなどの強みがあり、石原教授は有力な候補地として10年ほど前から着目していた。加えて、原子力や火力の送電系統を利用できるため、送電コストを大幅に削減できるというメリットも福島沖にはある。

また、大規模ウインドファーム建設は、福島の産業復興としても期待が集まる。小名浜港(福島県いわき市)の広大なスペースに洋上風車工場や研究開発施設を集中させ、この地の産業として育てることも目標の一つだ。

「福島県は飛行機や自動車などの機械産業、電池やモーターなどの工場が多く、部品調達にも適しています。それに、直径160m、高さ200m、ブレード(羽根)だけでも1枚80mに達する巨大な洋上風車を離れた場所で製造して輸送することなど不可能で、製造・組み立ては福島沖の近くでしかできません。その拠点となるのが小名浜港で、工事やメンテナンスなどにおいて継続的な雇用を生むことにもつながります」(石原教授)

東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 石原孟教授(写真提供:石原孟教授)

ただし、豊かな漁場である福島県沖合の漁業との共存が、大きな課題だ。風車を浮かべる浮体を集魚に利用する“海洋牧場”という構想では、電力を作りつつ安定的に魚も捕ることが可能だとされているが、周辺海域の調査や漁獲試験などが進められているところだ。

洋上風力発電は「石油のように探して獲りに行く狩猟型のエネルギーに対して、同じ土地で何度でも収穫できる農作物のような農耕型のエネルギー」(石原教授)。環境・経済・エネルギーの問題を同時に解決し、福島の復興にもつながるエネルギーとして、大きな期待が寄せられている。

取材・文=牛島 美笛
タイトル背景写真=浮体式風車の完成予想図(画像提供:東京大学 石原孟教授)

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