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期待の星★再生可能エネ 太陽光と地熱の使い方

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3.11後の日本で期待を集めている再生可能エネルギー。ただし太陽光発電は震災前から積極的に導入される一方、地熱発電はポテンシャルの高さの割に開発が進んでいないなど、進捗には差もある。それぞれの課題を探った。

住宅用が8割。海外とは異なる日本の太陽光発電事情

固定価格買取制度の開始で相次ぐ太陽光発電の新規参入

資源量、技術はトップクラスの地熱発電。自然公園や温泉との共存が鍵

日本で地熱発電が普及しない理由とは?

住宅用が8割。海外とは異なる日本の太陽光発電事情

日本の太陽光発電導入量は2010年で362万kW。2004年までは世界一の導入量を誇っていたが、ドイツ、スペインの導入量が急速に増えたことで、現在は世界第3位のポジションにある(図1)。

図1. 太陽光発電導入量の国際比較。*経済産業省資源エネルギー庁の資料を基に編集部で作成。

日本の太陽光発電で特徴的なのは、住宅用が約80%を占めている点だ。これは非住宅用や発電事業用が大半を占める欧米とほぼ反対の比率となっている(図2)。

図2. 太陽光発電の設置形態に関する国際比較(2010年)。*経済産業省資源エネルギー庁の資料を基に編集部で作成。

日本では90年代から家庭用の太陽光発電設備に補助金が出され、電力会社による自主的な余剰電力の買い取りも行われてきた。こうした支援策と環境意識の高まりに、エレクトロニクス好きな国民性がマッチしたことで、家庭での導入が拡大した。2011年3月の大震災以降、これに災害時の電力確保という新たな動機が加わった。

矢野経済研究所の調査によると、大手住宅メーカー8社の供給する新築戸建ての、太陽光発電システム搭載率は2010年度に52%に達している(※1)。日本の一戸建ては小規模な工務店が手がける割合が多いため、太陽光パネルを備えた家が街中にずらりと並んでいるわけではないが、太陽光発電に対する日本の消費者の積極的な姿勢がうかがえる。

太陽光発電システムを搭載した住宅(右)。家庭用ソーラーパネルの写真(左)(いずれも大和ハウス工業提供)。

固定価格買取制度の開始で相次ぐ太陽光発電の新規参入

2012年7月からは、太陽光発電も含めた固定価格買取制度がスタートした。一定期間、固定価格での買い取りが保証されることで、導入コストの高い太陽光発電の事業化が可能になる。これを受けて、既存の電力会社だけでなく、異業種から太陽光発電事業へ参入する動きが見られる。

例えば、有名な実業家、孫正義率いるSBエナジー。孫氏は日本の富豪ランキング3位(※2)の座にある資産家で、ソフトバンク社長として日本で最初にiPhoneの販売権を獲得し、自らの携帯電話会社を急成長させた辣腕(らつわん)経営者だ。昨年10月に設立されたSBエナジーは、今年7月に最初のメガソーラーの運転を開始した。また、建設会社の大林組や大和ハウス工業は、自社の倉庫や物流センターの屋根を利用してメガソーラー事業に参入している。

今や日本人の生活に不可欠なインフラとなったコンビエンスストアチェーンも、太陽光発電の導入に積極的だ。ローソンは2年間で2000店舗に太陽光発電システムを導入し、固定価格買取制度を利用した売電事業に参入する。セブンイレブンは、省エネ対策の一環として2012年5月現在で1400以上の店舗に太陽光発電設備を設置済みだ。

今後、日本で太陽光発電の利用が増大することは間違いない。しかし、現在、国内電力供給量の1%にも満たない太陽光発電が、どこまでその比率を伸ばせるかは未知数だ。経済産業省の太陽光発電の導入シナリオ(試算)では、2005年に140万kWだった太陽光発電の導入量を、2020年には約20倍の2800万kWまで引き上げることを想定している。

資源量、技術はトップクラスの地熱発電。自然公園や温泉との共存が鍵

図3. 日本の火山分布。日本にはたくさんの火山がある。*国土地理院の資料を基に編集部で作成。

地熱発電は、地下深くで熱せられた高温高圧の水を汲み上げ、その蒸気でタービンを回して電気を起こす。利用するのは地球のマグマのもたらす熱なのでCO2をほとんど排出しない。さらに、風力や太陽光と異なり、季節や天候の影響を受けず、一日中発電できるメリットもある。

日本は世界で有数の火山国で、その象徴として有名な富士山も、300年以上噴火していないが、立派な活火山である(図3)。

地熱資源量はインドネシア、米国に次ぐ世界第3位。地熱発電用のタービン市場では、日本の3社が約70%のシェアを占める。技術力はトップクラスだ(※3)。しかし、国内の地熱発電所の設備容量は世界第8位(図4)に甘んじている。豊富な資源量がありながら、地熱の発電利用は広がっていないのが現状だ。

図4. 世界の地熱発電設備(2010年)。日本の地熱発電設備は世界第8位。*経済産業省資源エネルギー庁の資料を基に編集部で作成。

日本で地熱発電が普及しない理由とは?

その要因としては、調査から建設までの期間が長く、開発リスクやコストが高いという地熱発電に特有な課題に加え、日本ならではの特殊な事情がある。

東北電力 柳津西山地熱発電所(東北電力提供)。ここでも近隣に温泉がある。

まず、地熱資源の約80%が国立・国定公園内にあるという点だ(※4)。この地域では、環境保護のために開発が厳しく制限されており、発電所の建設が難しかった。ただし、自然エネルギーの重要性が高まった最近の事情を受け、国立公園内での発電所建設も条件付きで認められるようになった。2012年8月には環境大臣が地熱発電の飛躍導入に向けた戦略を発表している(※5)

もう一つは、温泉業との共存だ。日本で地熱発電に適した場所の周辺には、温泉地があることが多い。発電用に地下の熱水を汲み上げることを懸念し、温泉の枯渇や品質劣化を恐れる温泉事業者の理解を得なければ、開発は難しい。

日本では温泉が極めて重要な観光資源となっている。日本温泉総合研究所によれば、日本には2010年現在で3185箇所の温泉地があり、年間宿泊者数は延べ1億2000万人以上にも上る。温泉の有無は観光地の価値を大きく左右し、万が一温泉が止まれば、地域の観光業全体が大きなダメージを受けてしまう。温泉事業者が地熱発電所の建設に神経質になるのも無理はない。

地熱発電は、温泉よりも深い層にある熱水を利用し、発電後の水を再び地中に戻すので、問題はないとされているが、それだけで温泉業者の不安を解消するのは難しい。開発を実現した既存の地熱発電所では、万が一に備えたバックアップを用意したり、新しい温泉源の開発に協力したりするなどして、発電と温泉の共存を図ったところもある。両者がうまく共存していくためには、どちらも地熱を有効活用しているという共通点を活かした協調や、オープンな情報公開、継続的なモニタリングを行うことが必要だろう。

今年7月からスタートした再生エネルギーの固定価格買取制度では、地熱発電も対象となった。国立公園内での規制緩和と固定価格買取という追い風を得て、日本の地熱発電が大きく成長できるかどうか、今後の動向が注目される。

取材・文=木村 菱治

(※1) ^ 矢野経済研究所 国内太陽光発電システム市場に関する調査結果 2011

(※2) ^ Forbes Japan's 40 Richest

(※3) ^ 「地熱資源開発に係る温泉・地下水 への影響検討会」第2回検討会 ヒアリング回答 2011年8月4日 日本地熱開発企業協議会

(※4) ^ 「地熱資源開発に係る温泉・地下水 への影響検討会」第2回検討会 ヒアリング回答 2011年8月4日 日本地熱開発企業協議会

(※5) ^ 環境省 「グリーン成長の実現」と「再生可能エネルギーの飛躍的導入」に向けたイニシアティブ 2012年8月31日

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