特集 「美味しい」は「楽しい」
ペルーの日系移民料理は日本との“絆”の味
[2013.10.18] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

日本からペルーへの移民事業が始まって110年余り。日本文化とアンデス文化が融和することで、“日系文化”と呼ばれるものが様々な分野で生まれた。食文化もそのひとつ。日本移民の生き証人である沖縄の家族が営むペルー料理店「インティ・ライミ」に出かけてみた。

日本人農民のペルー海岸地域への定住を日本・ペルーの両政府が合意したのは1897年のこと。1899年の第1回集団移民では、790人の日本人がペルーの太平洋岸に到着した。ペルーと日本の文化が本格的に出会ったのだ。その後、年月を経て数千人もの移民者が定着し、日本の習慣を守りつつもペルー文化も取り入れた。特に食文化においては、「ペルー日系文化」や「日系料理」と呼ばれるものを生み出してきた。

現在、ペルーで育ち生活してきた多くの人たちが、日本に戻って来ている。沖縄生まれの宮平ローサ・ハツエさんもその一人。神奈川県川崎市にペルー・日系料理の店「インティ・ライミ(*1)」を構え、味覚を通して、日本人にペルー文化を伝えようとしている。

「日本ではチリ、アルゼンチン、スペインというような国は知っていても、ペルーのことはあまり知られていませんでした。私たちは文化を伝える一番の方法は、食文化だと考えたのです」と宮平さんは語る。

何世代にもわたりペルーと結びつく家族

宮平さんの祖父母は、114年前の第1回ペルー移民の一員だった。当初、何年間も農園で働き、後に家族経営のパン屋を開業した。祖母がペルーで病気になった1964年、それをきっかけに宮平ハツエさんは17歳の時に母と弟とともにペルーに移住することになった。折しも日本が初の東京オリンピックを迎えた年だった。

多くの家族に囲まれた宮平ハツエさんの結婚式(写真左)。結婚披露宴で沖縄の伝統的楽器である三線を演奏する親族(写真右)。

当時の沖縄はそれほど発展していなかったので、新天地に着いて宮平さんが一番驚いたのは、多くの建物がコンクリート造りだったことだ。スペイン語などほとんど分からなかったが、ともかく家族の経営するパン屋で働き始めた。「数字とか基本的なことから覚え始めました」と宮平さん。まもなく同じ沖縄から移民した男性と結婚し、卸売り業を始めた。その後27年経って帰国した時、急速に発展した日本で全く同じ印象を持った。

宮平さん家族が日本への帰国を決意したのは、ペルーの不安定な経済状況と1980年代から90年代初めにかけてペルーを襲った左翼過激派センデーロ・ルミノーソ(輝ける道)のテロの激しさが理由だ。1990年ごろ同じ理由で帰国する日系人は少なくなかった。帰国当初は、他の日本人やペルー移民と同じように工場で働いた。その後、日本へ戻るペルー移民が増加したこともあり、「インティ・ライミ」を開業した。

日本に帰国する日の宮平家(写真左)。家族3代。孫を抱く宮平ハツエさんと娘の宮平みゆきさん(写真右)。

日本とペルー両国文化の絆を伝える味の融和

宮平さんはペルー生まれの娘・みゆきさんとともにレストランを切り盛りしながら、日本でのペルー文化の普及にも積極的に参加している。母娘がこだわるのは日本料理とペルー料理の融合だ。

「魚とか肉とか日本産の基本的な食材を使いますが、トウガラシや大トウガラシのようなペルーならではの調味料を加えます。うちの調理人たちはペルーから来ていますし、日本人の味覚に合わせたペルー料理を作ることはしません。それが私たちの誇りでもあります」

日本人がペルーの味に馴染むには時間がかかったという。「もちろん、私たちの味付けはペルー風ですが、日系文化の中で暮らしてきたので、醤油のような日本の調味料も使います」(宮平さん)。また、ペルーで人気のあるロモ・サルタード(アジアの影響を受けた牛肉を使った郷土料理)も、菜食主義や肉を食べられないお客さんがいる時には揚げ豆腐で代用するという。

「オリジナルのレシピとしては、有名なセビーチェ(白身魚やタコのレモン絞め)にかまぼこの優しい味を利用したもの、日系ティラディートという刺身ではないが生の魚を使ったマリネに近いもの、ペルーでわさびが手に入らない時にその代用としてペルーの大トウガラシ、レモンを醤油と混ぜたタレで食べたもの、などがあります」

「クスケーニャやクリスタルというペルーのビールや、インカ・コーラ(ハーブ入り炭酸飲料)、チチャ・モラーダ(紫トウモロコシの飲み物)のようなペルー独特のドリンクも用意している。日本の若者はペルー料理の味に慣れ、今では日本でブームになっている」と宮平ローサさんは語る。

日系ペルー文化の味

ここで、味も見た目もペルー料理と日本料理を組み合わせた“融和レシピ”のいくつかを紹介しよう。

かまぼこのセビーチェ: 柑橘(かんきつ)系のタレで味付けされたかまぼこにペルー産の2種類のトウモロコシが添えられている。かまぼこの優しい味が非常に酸っぱいタレとよく合う。

ティラディート: 刺身を思わせる魚の薄切りに、タレは醤油とペルーの大トウガラシとレモンを混ぜたもの。さわやかな味わい。

ライミ・ポテト: ゆでたじゃがいもに4種類の異なるソース(トウガラシ、オリーブ、ウアカタイ・ハーブ、大トウガラシ)をかけたもの。色彩と味の融合。

カウカウ: じゃがいもとモツを黄色トウガラシと一緒に煮込んだもの。通常、ごはんと一緒に食べる。他の肉や魚介類と煮込んでもいい。

魚のシジャオ煮つけ: ペルーではジジャオとして知られる醤油で魚を煮付けたもの。シジャオは、醤油の中国語であるシーヤオあるいは日本語のショーユの音から付けられたネーミングと言われる。アジアの影響がうかがえる。

(*1) ^ インティ・ライミ(Inti Raimi)とはケチュア語で「太陽の祭り」の意味。何世紀にもわたりアンデス地域に定着したインカ文明の4大重要儀式のひとつ。冬至に、父なる神インティに捧げる宗教的な祭り。

インティ・ライミ
住所: 神奈川県川崎市幸区大宮町15 三巧ビル1階
Tel: 044-511-4225
ウェブサイト: http://intiraimi.info/

この記事につけられたタグ:
  • [2013.10.18]
関連記事
この特集の他の記事
  • 福島のフレンチシェフ:野菜を主役にもてなす客は1日1組当日仕入れた野菜を使って1日1組だけに料理を提供する「Hagiフランス料理店」。主役は福島の食材だ。生産者と協力して旬の素材を生かす。2013年には、日本人シェフとして初めてパリ・エリゼ宮の厨房に立ち、オランド大統領に料理の腕を振るった。福島の食材を使ったオンリーワンフレンチを目指している。
  • 山の食文化 日本流ジビエ日本には古くから「山肉」を食す文化がある。近年はフランス料理の食材として活用する日本人シェフも増えてきた。地域振興から、人と自然の共生まで、幅広いテーマを含む山の食文化に注目してみよう。
  • 世界一のレストラン「ノーマ」シェフ、レネ・レゼピの大冒険@日本世界が注目する北欧の革新的レストラン「noma(ノーマ)」。5週間にわたり東京で日本の食材を使った斬新な料理を提供した。デンマークと日本の食の融合の舞台裏に迫った。
  • それでもやっぱりウナギが食べたい養殖用シラスウナギの価格高騰で、日本のウナギ業界の苦戦が続く。全国各地のウナギを食べ歩いた、グルメマンガ『う』の作者・ラズウェル細木さんが、危機にひんするウナギ食文化に対する熱い思いを語る。
  • 【動画】ラーメン—真心の一杯ができるまで麺、スープ、トッピングを手際よく調理し、盛り付けまで細心の注意を払うのが日本のラーメンの特徴だ。一杯、一杯に心を込めて作りあげるラーメンを、新横浜ラーメン博物館の様子とともに動画で紹介する。

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告