特集 海外コミックの祭典
日本マンガの巨匠が欧州BD軍団と対決! 大友克洋の巻
[2013.05.21] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

東京で開催された「海外マンガフェスタ」。トークライブでは、世界的な巨匠・大友克洋氏が、フランスから招いた人気作家2人にさまざまな問いを投げかけ、バンド・デシネ(BD)の面白さを浮き彫りにした。

1997年から文化庁が主催するメディア芸術祭のマンガ部門で、2012年(第16回)の大賞を受賞したのは、ブノワ・ペータース(原作)とフランソワ・スクイテン(作画)の『闇の国々』だった。フランスとベルギーを中心に生まれ育った漫画「バンド・デシネ(BD)」を代表するコンビだ。外国作品の受賞は初。昨年は、エマニュエル・ルパージュ(仏)の『ムチャチョ』も優秀作品に選ばれるなど、日本におけるBDの躍進が目覚ましい1年となった。

それを物語るもうひとつの出来事は、日本で初めて開催された「海外マンガフェスタ」だ。

同イベントは、「漫画は日本だけじゃない!」を掛け声に、世界のさまざまな漫画文化を日本に紹介した初の本格的な試み。会場には、日本では入手しにくい海外のコミックやグッズの販売ブースが並んだほか、海外人気作家のサイン会、即興のライブ・ドローイングなども行われ、多くの漫画ファンが胸を躍らせた。

東京ビックサイトでコミティア(創作漫画同人誌即売会)と同時開催された第1回「海外マンガフェスタ」。

★第2回「海外マンガフェスタ」開催決定!2013年10月20日に東京ビックサイトにて http://kaigaimangafesta.com 

会場を熱気に包んだ日欧スター作家の共演

トークライブ第1部。進行役はBD翻訳家の原正人氏(右端)。

中でも一番の盛り上がりを見せたのが、日本マンガ界の大御所がBDの人気作家たちを迎えて行われたトークライブ。第1部は、『AKIRA』で世界的に知られる大友克洋氏が、前述のルパージュ氏に加え、今フランスで最も注目される若手作家、バスティアン・ヴィヴェス氏と対談した。第2部は、単行本の売り上げが累計2000万部を超えた『MONSTER』の作者・浦沢直樹氏が、ペータース&スクイテンと語り合った。

第1部、第2部とも、熱のこもったトークに会場が沸いた。大友、浦沢両氏が長年に渡っていかにBDを愛好してきたかの証しだろう。日本マンガ界が誇るカリスマ2人が進行そっちのけで相手に質問を投げかける。そんな熱気を共有すれば、いやが上にも「BDの世界ってスゴイぞ」と観客の目が輝いてくる。

大友克洋の『AKIRA』はフランスで爆弾級の衝撃だった

第1部に招かれたフランス人作家2人は今回が初来日。どちらも大友氏と同じ壇上にいることがいかに光栄であるかを強調した。

まずは、ルパージュ氏。「大友さんの作品を知ったのは20年前かな。誰もが認める日本漫画の巨匠ですね。フランスにとって『AKIRA』の登場は爆弾が落ちたような衝撃でした」と明かした。

大友氏の30歳年下(!)というヴィヴェス氏にいたっては「メビウス(※1)よりも先に大友さんを知ったんだ」とさらり。メビウスといえば、BD界では並ぶ者がいないほどの大作家だけに、こうした「証言」は、大友氏が海外の若い作家たちに与えた影響の大きさを改めて浮き彫りにするものだ。

そんな世界的な巨匠である大友氏が着想や技術について、一回りも二回りも若い2人に質問をぶつけていく。アーティスト同士が言葉を超え、世代を超えて交わすやりとりには、漫画ファンならずとも興奮をおぼえる。

エマニュエル・ルパージュ 1966年フランス・ブルターニュ生まれ。1986年、『ケルヴィンの冒険』で本格デビュー。以来、20作を超える作品を手掛ける。1991年から1998年にかけて発表した5巻のシリーズ『ネヴェ』(原作ディエテル)、1999年の『悪なき大地』(アンヌ・シブラン原作、邦訳は飛鳥新社刊ユーロマンガ8号に収録)で評価される。『ムチャチョ』が日本の文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀作品(2012年)に。最新作は『チェルノブイリの春』(2012年)。

大友克洋 1954年生まれ。1983年 『童夢』で第4回日本SF大賞、1984年 『AKIRA』で第8回講談社漫画賞を受賞。2005年 フランス政府から芸術文化勲章シュバリエを授与される。監督したアニメ作品『火要鎮(ひのようじん)』が2012年文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の大賞を受賞した。

どの国に住んでいても人間は同じです

ルパージュ氏の代表作『ムチャチョ』は、1970年代、独裁政権下の中米ニカラグアが舞台。教会の壁画を制作するために町を訪れた若い修道士を通して、愛と革命を感性豊かに描いた。大友氏は「面白かった。日本の漫画とスピード感は違うけれど、突っ込んだストーリーが魅力ですね。それでいて読みやすいし、画も緻密。日本人にもぜひ読んでほしい」と高く評価した。

さらに、大友氏は「知らない国を舞台に描く場合、登場人物の思考や行動を、その国の実情に合わせるのか、それとも自分の感性で描き切ってしまうのでしょうか」と切り込む。これに対するルパージュ氏の答えが印象的だった。

「人間はどの国に住んでいても同じだと思うんです。誰の内面にも共通して、欲望があり、愛があり、暴力がある。つまり共通のユマニテ(人間の本性)がある。もちろん作品をつくるにあたって、資料を集めるし、現地の人と話もし、できる限り歴史的事実を反映させる。でも結局は、登場人物を通して、自分自身を語っているのだと思います」

『ムチャチョ』より Muchacho© DUPUIS 2004-2006, by Lepage

『ムチャチョ』より Muchacho© DUPUIS 2004-2006, by Lepage

泳ぐ人を何ページも描き続けた

バスティアン・ヴィヴェス 1984年フランス・パリ生まれ。2006年にバスティアン・シャンマックス名義で刊行した『ごろつきプンジ』が話題に。2008年の『塩素の味』が翌年のアングレーム国際BDフェスティバル新人賞を受賞。 毎年ハイペースで作品を量産している。2012年に『ラ・グランド・オダリスク』(リュペール&ミュロと共作)でランデルノー賞受賞。

美しい水彩が印象的なルパージュ氏の作品とは対照的に、ヴィヴェス氏はほぼすべてコンピュータ(ソフトはPhotoshop)を使用。「作画より全体の演出により高い関心がある」という新世代の旗手に対して、大友氏は「クロッキー的で、身近な世界を素早く描く感じが軽やかでいい。デッサンもうまい」と評価した。

ヴィヴェス氏の市民プールで芽生えた恋を描く『塩素の味』は、本来ページ数が限られているBDとしては異色作で、プールで泳ぐ場面が延々と続く。 その“制作秘話”はこうだ。

「アニメーションを勉強したからね。そのコマ数を考えたら、泳ぎを描くのに20ページ使ったっていいじゃないかと思ったわけ。最初、出版社の担当者と話したとき、泳ぐ場面を描きたいんだって言ったら、OKしてくれた。ちょうど夏休みだったから次に担当者と会うのは2カ月先。止める人もいなかったし、思う存分描いてやったよ。出来上がりを見た担当者は『オイッ、誰がこんなふうに仕事しろって言った!?』だって(笑)」

これを聞いた大友氏、すかさず「最初にページ数は決めてないの?」と突っ込むが、ヴィヴェス氏は「僕のは1冊いくらという契約だから、何ページ描こうが勝手なんです」と涼しい顔。仕事の進め方にもアーティストの個性が表れるのがフランス流だ。

『塩素の味』より。2013年7月、小学館集英社プロダクションより『塩素の味』日本語版が発売予定。Le goût du chlore © 2008 Casterman, Bruxelles All rights reserved.

この日の大友氏は、自分の作品の話はあまりしたがらず、若い2人のBD作家に質問を投げ続けた。聴衆にはるばる来日した2人の話を聞いてもらおう、という心遣いがあったのだろうが、そのおかげでそれぞれの個性が際立った創作アプローチを知ることができた。「昔僕らが憧れていたBDはSFの世界だった。でもここにいる彼らは生身の、身近な世界を描いていて、それが新鮮。日本で言えば松本大洋(※2)のようにね」と若い世代の作家を称えた大友克洋氏。「国が違っても、若い人たちの感性は近づいている。漫画という文化を通じて、世界中で交流が深まれば楽しくなりますね」と、漫画の未来を見つめる巨匠の目に希望が感じられた。

トークライブ第2部「浦沢直樹の巻」につづく)

※文中では場合に応じて「漫画」「マンガ」の表記を使い分けています。

取材=柳澤 美帆
撮影=花井 智子

(※1)^ 本名ジャン・ジロー。1938年パリ郊外生まれ。『タンタン』シリーズの作者エルジェ(ベルギー、1907-1983)以降もっとも重要なBD作家と言われるSFファンタジーの巨匠。大友克洋、浦沢直樹、宮崎駿、松本大洋らに大きな影響を与えた。代表作に『アンカル』(アレハンドロ・ホドロフスキー原作)『アルザック』など。2012年3月没。

(※2)^ 1967年生まれ。1987年のデビュー後、小学館「ビッグコミックスピリッツ」に連載した『ZERO』(1990年)、『花男』(1991年)、『鉄コン筋クリート』(1993年)で人気を不動のものに。2000年の『GOGOモンスター』で日本漫画家協会賞特別賞、2006年の『竹光侍』で文化庁メディア芸術祭優秀賞と手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。

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