特集 伝統美のモダニズム “Cool Traditions”
陶芸の常識を覆す—デジタル陶芸家・増田敏也
[2017.03.22] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | العربية |

ゲームの中から飛び出してきたようなドット絵のアイコン。それが「陶芸」であるというから驚きだ。実在感のない“デジタルイメージ”に、温か味がある手触りの“土”を掛け合わせたユニークな作品を展開する、陶芸界の異端児・増田敏也氏を紹介する。

人工物こそがナチュラル

「僕は大阪市内の街中で生まれ、ファミコンなどデジタルな物に囲まれて育ちました。だから、自然の景色を見て原風景だと思うことはなく、むしろ人工物こそがナチュラルだと感じるのです」

陶芸という伝統的な技法で、「デジタルなヴィジュアル」をテーマに作品を生み出す増田敏也(ますだ・としや)さんは、ユニークな創作活動の背景をこう語る。

1977年大阪生まれ。99年大阪芸術大学芸術学部工芸学科金属工芸コース卒業。2005年 第7回 国際陶磁器展美濃 陶芸部門<審査員特別賞>受賞ほか、国内外の個展・グループ展に参加

子供の頃から物作りが好きで、大阪市立工芸高校、大阪芸術大学で金属工芸を学んだ。学生の頃は「芸術」を強く意識しすぎて、のびのびと作品が作れなかったと言う。自分が作りたい物に没頭できるようになったのは、大学の副手として働き始めてから。当時取り組んだのは、棒状の金属を組み合わせて格子状に組んだ作品だった。そして、思い描くデジタルな形を効率的に表現する方法を模索し、異素材である「陶芸」へとたどり着いたという。

「格子状の板を作りたいと思った時、金属よりも土の方が扱いやすいと感じたのです。そして、『たたら』と呼ばれる陶芸の製法に出会いました」

増田さんの金属工芸時代の作品

デジタルなドット絵には人の温もりがある

2003〜06年頃に制作していたのが、働く車をモチーフとした「Anachro CG」。たたらで作った格子状の板を組み合わせて、3DCGのモデリングのようなイメージを具現化した初期のシリーズだ。

陶土を板状にスライスして、曲げたり、重ねたりなど加工する「たたら」作りを用いた「Anachro CG」シリーズの『Fork Lift』

さらにその経験を応用し、初期型ファミコンなど昔のゲームで使われていたような、粗いドット絵で表現する「Low pixel CG」が生まれた。ゲームの中に出てくるアイコンを実世界のものとして見てみたいという思いから、すべて実物大にこだわっている。

「モチーフは、何か物語を感じさせるようなものを選んでいます。例えば、消火器。普段、通路の端などに置かれていても、気に留めないものです。でも、ふと倒れているのを目にしたときに、『何かあったのかな』と急に気になる存在となります。解像度が低い『Low pixel』を見るとき、人は頭の中で画像を補完しながら、自分の経験を重ねたりすると思うのです。そこに物語が生まれます。デジタルと聞くと冷たい印象ですが、僕の作品は意外にエモーショナルな物なのです」

「Low pixel CG」シリーズ作品の『Fire extinguisher?』

製作はすべて手作業で行われる。まず厚手の方眼用紙に型をフリーハンドで描き、マス目に合わせて切り取る。そのカクカクとした型を使って、板状にした土を切り出していく。陶土を切る様子は、まるで調理をするかのようだ。増田さんも、「この時の土の水分は、生チョコレートくらいの固さがちょうどいい」と言う。そうして切り出した土の板を、山の等高線のように積層して立体を作り上げていく。パーツを組み合わせる時には、「どべ」と呼ばれる土を塗って圧着させるそうだ。仕上げには、ガラス質の釉薬をかけず、マットな質感を出す。 米国製の陶芸用下絵の具で色を付けると、どこか親しみを感じる作品が出来上がる。

たたらの手法を使って「招き猫」を製作

「今のCGは実写と変わらないほどリアルで、『すごいなぁ』とは思うのですが、作った人の温もりが感じにくい。しかし、限られたマス目の範囲内で必死に対象を表現しようとするドット絵には、CGなのに作り手の人間臭さや愛らしさが感じられるのです。ファミコン世代だけではなく、若者や海外の人から見ても、ノスタルジーを感じてもらえるのではないかと思います」

左上)丁寧に着色する増田さん 右上)調理するように粘土を切る 下)アトリエで製作中の作品群

陶芸に美術の文脈を持ち込む

「POP ICON」は、奈良三彩や志野焼といった、有名な陶芸のアイコンをモチーフにしたシリーズ。

「陶芸を勉強していくうちに、“どうしてこれが常識になっているんだろう”と疑問を持つことが多くあるのです。例えば、国宝や重要文化財に指定された物などは、ガラスケースに入れて観賞のみを目的とした美術作品みたいな扱いをされている。それを不思議に感じたのです」

鳴海織部の手付鉢をモチーフにした「POP ICON」シリーズ作品『Narumi』

道具であるはずの陶器をガラス越しに見ている違和感をアイコン化するために、このシリーズは全てアクリルケースに入っている。陶芸に対する強い批評性を感じるが、そこに込められた思いをこう説明する。

「美術では、ヒエラルキーや大きな権力に対して、アンチテーゼを提示することが多いものです。でも、今はメインストリームがなくて、反抗する対象が見えづらい状況。おのおのが自分の課題に対して、アンチテーゼな作品を作っているようにも思います。ところが陶芸は、誰に聞いても『陶芸とはこうあるべきだ』という独特のイメージと文化があるのです。そこに対する違和感を作品化するのは、意義があることだと思っています。もちろん陶芸を揶揄している訳ではなく、僕は陶芸が大好きなんですけれどね」

独自のアイデアと手法で、陶芸の新しい可能性を切り開いてきた増田さん。今後は、「クリス・カニンガムなど映像作家の作品を研究し、視覚表現としての焼き物の在り方をより深く追求したい」と語る。次はどんな作品が生まれるのか。今後の展開に注目したい。

取材・文=木薮 愛
作品以外の写真=大島 拓也
バナー写真:「Low pixel CG」シリーズ作品『self portrait』

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  • [2017.03.22]
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