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ウガンダから来たゲートボールの伝道師

スポーツ

日本発祥の競技であるゲートボールは、50を超える国と地域で楽しまれているグローバルスポーツだ。現在、アフリカ大陸にもゲートボールが普及し始めたという。そんな中、ウガンダにゲートボールを広めたいと、1人の青年が来日した。

世界で愛されるゲートボール

ゲートボールは日本発祥の競技だが、国内では高齢者の趣味の多様化などが原因で愛好者は減少傾向にある。しかし、世界に目を転じると、すでに5大陸に普及し、550万人の愛好者を擁する中国をはじめとして50を超える国と地域でプレーされている。

海外普及への第一歩は、戦後、日系移民によってハワイ、ブラジルなどアメリカ大陸から始まった。その後、日本が高度成長期を迎え海外旅行に出掛ける人が増えると、中国、韓国、台湾など東アジア諸国へ広まっていった。そして近年、ゲートボール情報がインターネットを通して世界中に発信されると、ゲートボールの起源であるクロッケー愛好者が多いオセアニア大陸とヨーロッパ大陸でもプレーされるようになった。そして2012年、ついにアフリカ大陸にも上陸。南アフリカ共和国での普及が始まり、世界5大陸でゲートボールが楽しまれるようになった。

そんな状況の中、アフリカ・ウガンダでゲートボールを広めたいと、一人の青年が7月に来日した。

ゲートボールの戦略性に引かれて

ロバート・バカゼさんは、“アフリカのハーバード”といわれるウガンダ・マケレレ大学に在学中の28歳。サッカーやバスケットボール、マレットスポーツ(※1)を楽しむスポーツマンだ。彼がゲートボールと出会ったのは2014年、インターネット動画を通してだった。

ゲートボールは5人対5人のチーム対抗で、自分の番号のボールを番号順に打ち、15×20メートルのコート内に設けられた第1〜3ゲートまでを順に通過し、最後にゴールポールに当て、5人の総得点を競うゲーム。

全国ジュニアゲートボール大会に出場していた中学生チームとの対戦を楽しむ(写真提供=スーパープランニングオフィス)

彼は、ゲートボールに引かれた理由を次のように説明する。

「チームスポーツであり、考えるスポーツだったからです。単純にゲートを通過していくだけでなく、自分のチームに有利になる位置にボールを打ち進めなければなりません。チームとして勝つための戦略をみんなで一緒に考えながらゲームを進めることにより、チームの絆が強まる点も大きな魅力です」

ロバートさんは、日本に事務局がある世界ゲートボール連合に熱心に連絡を取り、用具やルールブックを送ってもらい、友人に声をかけてプレーを始めた。友人たちは皆、プレースタイルがかっこいいとすぐにゲートボールを気に入った。また、新しいスポーツのうわさを耳にして参加したいとやってくる人々も増えていった。こうしてゲートボールの輪は広がっていき、現在はマケレレ大学と、彼の住むナンボレ村の2カ所で、20〜30代の約50人がプレーを楽しんでいる。

ロバートさんを日本に招聘(しょうへい)した世界ゲートボール連合の中西由郎理事長は語る。

世界ゲートボール連合の中西由郎理事長と。事務局で

「最初は、ロバートさんからウガンダに指導に来てほしいという依頼を受けたのですが、日本で全国大会を見て、選手との交流を通して技術を学んでもらえたらという思いから足を運んでいただきました。今後は、日本での経験を生かし、ウガンダの国の実情に合わせて普及させていってほしい。そして、4年に1度開催している世界選手権大会に、アフリカから初参加してもらえることを期待しています」

誰でも楽しめるユニバーサルスポーツ

ロバートさんは、埼玉県熊谷市で同時開催された日本ゲートボール連合主催「第22回全国ジュニアゲートボール大会」「第18回全国社会人ゲートボール大会」にあわせて来日。約700人規模の全国大会を見学するとともに、経験豊富な選手から技術指導を受けたり、ジュニアチームとのゲームを楽しんだりした。

「大会で衝撃的だったのは、わざと第1ゲートを通過しない作戦を見たときでした。スタートでずっと待っていて、チャンスが巡ってきたところで初めて第1ゲートを通過し、相手ボールを一網打尽にしたからです。また、幼い子どもたちのチームがテクニックと戦略で年上のチームを打ち負かすのを見て、ゲートボールが子どもから高齢者、障害がある人まで、誰もが一緒にプレーできるユニバーサルスポーツであることを実感しました」

一緒にゲームを楽しんだ中学生チームや、技術指導を受けた経験豊富な同世代選手と(写真提供=公益財団法人日本ゲートボール連合)

そんな彼の目標は、ゲートボールをウガンダ政府の公認スポーツにすることだ。

「ウガンダに戻ったら、まずは学校に働きかけていきたい。子どもが最初に出会ったスポーツがゲートボールだったら、大人になってもずっと続けてもらえる可能性が高いからです」

ロバートさんの夢は、アフリカ全土にゲートボールを広めて、いつかアフリカゲートボール選手権を開催することだそうだ。

(※1) ^ マレットは木槌型の用具のことで、クロッケーやポロなどマレットを使うスポーツを指す。ゲートボールもマレットスポーツに分類される。

日本のイメージは忍者?

日本での最終日、ロバートさんは、東京タワーの真下にあるゲートボール場を訪ねた。「『リレーション-3』で一緒にゲームをしましょう」と、プレーをしていた数人の女性から声を掛けられた。

リレーション-3は、3人対3人で行うゲートボールのバリエーションゲームで、3人のうち2人が2個、1人が1個のボールを担当して打撃する。

「同時に2個のボールのことを考えることはハードですが、その分、面白さも増しますね」と、すっかりリレーション-3が気に入った様子だった。

3人対3人で行うゲートボールのバリエーションゲーム「リレーション-3」に初挑戦

来日中、最後のプレーを堪能したロバートさんが次に向かったのは、東京都内最古の寺として外国人観光客に人気の浅草寺。浅草駅まで、地下鉄に初乗車する。

「発車と到着の時刻が表示通りにピッタリ正確だったことにビックリしました。待ち合わせをしても1時間遅れが当たり前のウガンダではあり得ないことです」

浅草寺では、寺を参拝するときの作法を教えてもらい、神妙な面持ちで、水で手と口を清めてから、おさい銭を入れて合掌。香炉の煙を身体にかけて健康を祈願したり、おみくじを引いたり…。その全てが初体験で新鮮だというロバートさん。

浅草寺で、香炉の煙を身体にかけるのは健康祈願のためと聞いて、煙を体中に浴びる

その後は、世界有数の電気街として有名な秋葉原へと足を伸ばし、バーチャルリアリティーでバスケットボールのシュートを体験したり、3Dプリンターの実演を見学したりと、最先端テクノロジーに触れ、大興奮。

「3Dプリンターは高価なイメージがありましたが、日本ではわずか数万円から買えることに驚きました。日本のテクノロジーも、ゲートボールと一緒に、ぜひウガンダに持ち帰りたい」と周囲を笑わせた。

秋葉原のロボットショップで、リモコンロボットのリズミカルな動きに歓声を上げる

ふと、昼に立ち寄ったお好み焼き店で、日本の食べ物で最も気に入ったという枝豆を口に放り込みながら、ロバートさんが唐突に切り出した。

「『SASUKE(サスケ)』という日本のテレビ番組を知っていますか?」

『SASUKE』は、体力自慢の有名人や一般人がさまざまなアトラクションに挑むスポーツ・エンターテインメント番組だ。その『SASUKE』がウガンダで放送されていて人気を集めているのだという。

「来日前までは、日本には『SASUKE』に登場する忍者みたいな人たちがたくさん街中を歩いていると想像していました」と、はにかんだ表情を見せた。

ゲートボールをきっかけに来日し、初めて日本文化に触れたロバートさん。それは夢の国に迷い込んだようなファンタジックな体験だったという。

世界ゲートボール連合から新たに寄贈されたゲートボール用具やルールブックが詰まった荷物とともに帰国の途に就いた

インタビュー・文=内山 貴子
撮影=長坂 芳樹

バナー写真=ふらりと立ち寄った都内のゲートボール場でプレーを楽しむロバートさん

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