日本女性の美意識

指先のオシャレに光る日本らしさ

暮らし

世界的なブームに乗りながら、常に独自のテイストを加えるのが日本流。ネイルアートもそのひとつで、日本の技術は世界一とも称される。小さな爪の先にもキラリと光る日本人のこだわりにフォーカスしてみよう。

木下 美穂里 KINOSHITA Mihori

1977年にメイクアップアーティストとしてデビュー。東京写真大学にて、写真とアートデザインを専攻。米国で特殊メイクとネイルの技術を修得後、帰国してアートディレクターに。1985年、日本ネイリスト協会の設立と同時に教育委員に就任(現在、理事・企画委員会委員長)。各界著名人のスタイリングを含むトータルビューティーコーディネーターとしても活動を広げる。1996年から(株)ユミ・クリエイション代表取締役社長。著書に「リカちゃんネイルBOOK with木下美穂里」(学研マーケティング)など。http://www.yumi.co.jp/

日本全国に3万人の「ネイリスト」

「ネイリスト」なる職業をご存知だろうか。ネイルアート(爪の装飾)を施す技術者を指す言葉として通用しているが、実は和製英語。英語圏ではマニキュアリストあるいはネイルテクニシャンと呼ぶ。ネイリストというのは、日本でのネイル普及に努めてきた日本ネイリスト協会が生み出し、定着させた独自のネーミングだ。

(左)日本ネイリスト協会が「ネイル月間」の11月に開催する「東京ネイルエキスポ」。第17回目の2012年は、2日間で5万4千人が訪れた(2012年11月18日、東京ビッグサイト) (右)ネイルエキスポの目玉のひとつ「ネイティフルコンテスト」。ネイル、ヘア、メイク、衣装までのトータル・コーディネートで審査する(画像提供=NPO法人日本ネイリスト協会)

そのネイリスト協会に設立から携わり、日本のネイル業界の最前線で活動してきたのが木下美穂里さん。1980年代に米国発のスカルプチュアネイル(つけ爪)を日本に広め、日本独自のネイルケア・システムを構築した、「ジャパニーズ・ネイルの母」とでも呼ぶべき存在だ。

手先の器用さが作りだす“審美美容”

2012年「ネイティフルコンテスト」のプロフェッショナル部門で第2位に輝いた殿村雅子さん(木下ユミ・メークアップ&ネイルアトリエ所属)。「サロンで過ごす時間、空間のトータルでお客様に満足していただけるホスピタリティこそが日本ネイルの特徴なのかもしれませんね」

殿村さんによるトータル・コーディネートは、牡丹や扇子など日本的な要素も目立ち、和洋折衷の華やかさを感じさせた。準備期間に1か月半を要したという力作だ。

木下さんは、ネイリスト協会とともに、日本人の手先の器用さを最大限に生かした技術を土台に、近年は「世界一」と称されるまでに至った日本のネイリストたちを育て上げてきた。そんな木下さんから見て、現在のネイルブームはどんなふうに映るのだろうか。

「年齢を問わず、思い思いにネイルを楽しむ女性が増えています。ネイルがブームになり、不況の中でも盛り上がってきたのは、見て楽しめて、心をゴージャスにする究極の“審美美容”だからだと思います。ネイルサロンでは癒し効果もあるのでしょう。ネイルアートは、単なるブームを超えて、確立した美容の一ジャンルなのです」

日本ネイリスト協会のデータによると、2011年の業界全体の売り上げは2085億円で、6年前に比べておよそ2倍。ネイルサロンも5年前の約2倍の1万9500軒に増えた。サロンで働くネイリストにとって、日本ネイリスト検定試験センターが実施する技能検定にパスすることが「プロの証」と位置付けられている。受験者の数は年間6万人を突破し、5年間で約1.6倍となっている。全国に300校(美容学校との併設を含む)のネイルスクールがあり、ネイリストはおよそ3万人。なるほど、もはや一過性のブームではない。

現代女性のライフスタイルに合った「ジェルネイル」

ネイルアートは、1970年代、アメリカのハリウッド女優のために作られた付け爪がきっかけだ。日本初のネイルサロンがオープンしたのは80年代。日本に上陸したネイルアートは、その後どのような進化を遂げたのだろうか。

「現在、日本のネイルサロンで主流となっているのはジェルネイルと呼ばれるタイプです。水あめ状のジェルを爪に塗り、UV(紫外線)ライトやLEDを当てて固めるものです。柔軟なのが特徴。よれたり傷ついたりしにくいので、2007年頃から日本のネイルアートの主流になっています」

「乾燥に時間がかからないので、忙しい現代女性のライフスタイルにマッチし、大人気となりました。また、年齢を重ねると爪が割れやすくなりますが、ジェルを塗ると弱った爪の補強にもなりますから、キャリア女性や主婦層の身だしなみとしても広まっていきました。ジェルネイルによって爪そのものが丈夫になり、大きなデコレーションを施すことも可能になったため、ネイルデザインの幅が広がり、多彩になっていったのです」(木下さん)

ポップなカラーがベースのジェルネイル(左=ネイルサロン「nadine」、中=ネイルサロン「hokuri」)。 夏場など足先が見える季節は足のネイルも必須(右=ネイルサロン「トゥーソレイユ」)。

 

日本生まれの「キラキラネイル」とは?

欧米などで流行っているネイルと、日本のネイルにはどんな違いがあるのだろうか。

「ヨーロッパでは健康的な美しさを求める傾向から、ネイルもベーシックなものが支持されていて、ベースの爪を保ちながら色を上塗りしていく方法が一般的です。キャリア志向の強いニューヨークの女性の間でも、シンプルで手先をキレイに見せるネイルが人気で、単色カラーや爪色を活かして先端を白いライン状にするフレンチネイルなどのシンプルなデザインが求められます」

「一方、日本のネイルは、ベースの色にグラデーションを施したり、単色カラーの上にもラインストーンやラメを乗せたりするタイプで、しかも定期的にネイルのデザインを変えて楽しむ人が多いのが特徴です。こうした日本ならではのネイル文化は『日式ネイル』と呼ばれ、台湾や韓国、シンガポール、ベトナムなどのアジア圏を中心に広がっています」

「ネイルサロン・デビュー」が結婚式、という女性は多い。ピンクや白をベースにパールや花をあしらった「ブライダル用チップ」も人気(左=ネイルサロン「イノセント」)。ラインストーンやスタッズ、ラメを乗せたネイル (右=ネイルサロン「esNAIL」)

 

自分で施すネイルアート

ネイルエキスポ会場に並ぶグッズの数々

ネイルサロンに通って指先のオシャレを楽しむ女性がいる一方で、サロンには行かず自分でネイルアートを施す人も少なくない。これも細かい手作業の得意な人が多い日本の特徴と言っていいかもしれない。健康的な爪を維持するためのセルフケアグッズから、爪の形を整えるアイテム、ソフトジェルのための器具、ポリッシュ(カラー)やラメやラインストーンなど…。自宅で本格的なネイルアートが楽しめるグッズはバラエティー豊か。「趣味はネイル」という女性が増えているのも納得だ。

蝶の写真がプリントされた「写ネイルPRO」。プロのネイリストを対象とした商品だが、日本国内に限っては一般も入手可(画像提供=プロップス)

細かなアートには自信がないという人向けには、爪に貼るだけの「ネイルシール」もある。グレードアップした商品には、わずか80ミクロンの「写ネイルPRO」(発売元:プロップス)という極薄シールも。蝶や花などの精巧な写真がプリントされたシートを切り取り、重ねて貼るなどして複雑なデザインを楽しめる。

日本人ならではの技術開発力、手先の器用さ、そしてカスタマイズの工夫によって、独自の進化を遂げてきた日本のネイル。その指先を彩るポップでゴージャスな輝きは、今や世界へ向けて放たれようとしている!

画像提供(左から)=高田真澄さん(Office glowbiz style代表)、ネイルサロン「nadine」、ネイルサロン「ラ・クローヌ」

文=牛島 美笛
タイトル画像=川本聖哉
監修=木下美穂里 木下ユミ・メークアップ&ネイル アトリエ校長
画像協力=
ネイルサロン「ラ・クローヌ」
新宿店 住所:東京都新宿区西新宿1-1-3 小田急百貨店 新宿店本館6F TEL :03-5323-4339
ネイルサロン「esNAIL」
渋谷本店 住所:東京都渋谷区宇田川町28-3 A2ビル6F TEL :03-5456-7120
ネイルサロン「nadine」
表参道店 住所:東京都港区南青山5-6-24 バルビゾン23 1F TEL :03-6418-4705
ネイルサロン「hokuri」
住所:東京都杉並区荻窪4-12-16 TEL :03-6383-5770
ネイルサロン「トゥーソレイユ」
代官山店 住所:東京都渋谷区代官山町19-4代官山駅ビル2F  TEL :03-5428-1901
ネイルサロン「イノセント」
住所:東京都港区北青山3-8-7 樹下庵2号室 TEL :03-3400-0437

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