特集 神社に行こう!
神社とエコロジー①

戸矢 学【Profile】

[2016.11.07]

自然に対して感謝と畏怖を忘れない神道信仰の在り方は、地球環境を守る上で多くの示唆に富むものである。神道は森を保全し、次の世代へ残していく、まさにエコロジーを体現した宗教だ。自然信仰と神社の関係をひもとく。

自然信仰から神社の誕生へ

神社の社殿はさまざまな建築様式があって、それらは日本の建築史を代表するものである。その源流となる様式は、「伊勢の神明造り」と「出雲の大社造り」の2つに絞られる。神明造りは古代の穀物倉が、大社造りは古代の住居が原型であるとされている。

こうした2系統以外の神社建築は、仏教の影響の下に生み出されたものが大半である。6世紀に仏教が伝来して日本では寺院が造られるようになった。そうした動きに対抗して、神道にも施設が必要だということになり、多くの神社が造られるようになったのである。

しかし、いずれの建築様式もたかだか千数百年の歴史に過ぎない。わが国固有の信仰形態である神道は、もっとはるかに永い歴史を持っており、これを古神道(※1)という。

自然環境に神の遍在をみる

古神道とは一種の精霊信仰で、自然崇拝が本質である。すなわち自然なるもの全てに神の遍在を見るもので、山も海も川も神であり、太陽も月も北極星も神である。風も雷も神であり、季節も時間も神である。すなわちこの世界、この宇宙に神ならぬものはなく、神とともに在る、という思想である。そしてその原初の姿、形は以下の4種に集約される。

カンナビ(神奈備・甘南備・神名備・神隠・神名火・珂牟奈備・賀武奈備)

イワクラ(磐座・岩倉・岩鞍)

ヒモロギ(神籬・霊諸木)

(霊・靈・日・火)

これこそが神道の原型であり、本来の姿である。いずれも漢字を用いていない時代からの言葉であるから、文字は後世の、少なくとも記紀万葉の時代からの当て字だろう。

カンナビ」は、ひときわ秀麗な山岳を神山・霊山として信仰する。

代表的なものに富士山(浅間神社)、白山(白山神社)、立山(雄山神社、おやまじんじゃ)などがある。

雄山(おやま)神社峯本社(富山県立山町)。立山を霊山として信仰

イワクラ」は、特に威厳ある巨岩を神の依り代(よりしろ)として信仰する。

代表的なものにゴトビキ岩(神倉神社)、三ツ石(三ツ石神社)、磐座(花窟神社、はなのいわやじんじゃ)などがある。

花窟(はなのいわや)神社(三重県熊野市)。威厳のある巨岩を神の依り代として信仰する

ヒモロギ」は原生の森であり、その全体を「鎮守の森」として崇めるが、その中の特に際立つ巨樹を神木とし、神の依り代として信仰する。

代表的なものに蒲生の大クス(蒲生八幡神社)、来宮(きのみや)様の大クス(杉桙別命神社、すぎほこわけのみことじんじゃ)、龍神木(秩父今宮神社)などがある。

氣多(けた)大社(石川県羽咋市)。入らずの森を「ヒモロギ」として崇める(写真提供=氣多大社)

山岳は最も天に近く、分け入るのに困難で生活に適していない。だから“異界”とされ、神が住まうと信じられた。そこは常に人の見上げる場所であることも、あずかっていたかも知れない。高山はしばしば雲をはらみ、そこから流れでる河川は農地を潤す恵みになる。この天然自然の力は、人知を超えて感謝の念を抱かせる。しかしまた、同じ河川が時として荒れ狂い、洪水となって人里に災厄をもたらす。これは、人に畏怖の念を抱かせる。それらの観念を総合したものが、もっとも素朴な山岳信仰であろう。

」は、それとは次元の異なるもので、カンナビ以下を依り代として捉えるならば、ヒは信仰の原理であり観念でもある。ムスヒ・ムスビ(産霊・産巣日)という言葉に昇華される。

自然崇拝が神道の本来の姿

縄文時代の縄文人の信仰は、現在の日本人の信仰に直結している。しかし仏教信仰はそうではない。6世紀に朝鮮半島より伝来した仏教は、それ以前の信仰とは何のつながりもない。日本人の祖先は仏教そして寺院・仏像とは無縁であったのだ。つまり、古代より現在につながっている信仰は、上述したカンナビ、イワクラ、ヒモロギ、ヒの4種を対象としたものである。神社という宗教施設が6世紀以降に次々に建立されるが、建立された場所は、すでに太古より信仰されていた霊地・聖地なのである。

神社・神道の信仰対象は、もとは「大自然そのもの」であって、人工的な物品を神体・依り代とするのは後発のことであり、元来の信仰にはないものだ。本殿を始めとする神社建築も、それら物品の神体を納めるために造られたものであって、それより古い形式の神社には本殿がない。奈良県の大神(おおみわ)神社や埼玉県の金鑚(かなさな)神社、長野県の諏訪大社本宮などは、拝殿のみで本殿がなく、背後の神体山をそのまま参拝するようになっている。これが、神道の本来の姿である。かつての神社はすべてがその形であったのだが、その後、多くの神社が神体に依り代を据えて、その保護のために社殿(本殿)を建築した。

写真=中野 晴生

バナー写真:夏至の日前後、三重県伊勢市二見浦の夫婦岩の間から富士山と日の出が重なる光景を見ることができる。この朝日の光は、古来より「ヒ」として参拝されてきた。

(※1)^ 惟神の道(かむながらのみち)等々の呼び名は古神道の時代から神社神道の時代まで通して用いられる用語なので、特に原初神道に時代を区切って呼ぶ場合は主にこれを用いる。幕末に生まれた復古神道は全く別物

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  • [2016.11.07]

歴史作家・神職。1953年埼玉県生まれ。國學院大学文学部神道学科卒業。著書に『神道入門』『富士山、2200年の秘密』『三種の神器 〈玉・鏡・剣〉が示す天皇の起源』『諏訪の神 封印された縄文の血祭り』『氏神事 典』『陰陽道とは何か』『ツクヨミ 秘された神』など多数。

website:『戸事記(こじき)』

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