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京都に新観光スポット:「漢字ミュージアム」オープン

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日本で初めての「漢字ミュージアム」が2016年6月29日、京都市にオープンした。体験型の展示を前面に出し、漢字の歴史を楽しく学べる施設だ。

漢字ミュージアム(正式名称は『漢検 漢字博物館・図書館』)は、京都・八坂神社にほど近い京都市東山区祇園の中学校跡地に新設。運営する公益財団法人・日本漢字能力検定協会は「広く世界に日本の漢字文化を発信する施設」として、年間20万人以上の来館者を見込んでいる。主に小学生、中学生とその家族をターゲットにしているが、日本語を学習する外国人にも十分楽しめるミュージアムとなっている。

ミュージアム中央部にある「漢字5万字タワー」

甲骨からタイプライターまで:漢字の歴史と使い方の進化を知る

入館してまず目を奪われるのが、高さ7.8メートルの大きな柱にびっしりと漢字が書きこまれた「漢字5万字タワー」。諸橋轍次(もろはし・てつじ)=1883-1982=の手による世界最大の『大漢和辞典』に収録されたすべての漢字がここに記されている。小学校から高校までに学ばなければならない漢字は大きな文字で書かれ、重要さに応じて色分けもされている。

タワーを見上げると、この世にある漢字の数の多さに気が遠くなるかもしれない。その一方で、何万もの字を覚える必要はないということも分かり、少しほっとした気分にもなる。星の数ほどある漢字の中で、実際の社会で生きていく上で必要なのはほんの一部なのだ。

ミュージアムの1階は「漢字の歴史絵巻」をテーマに、日本独自の文字として発展・変容してきた漢字の歴史を紹介する。漢字のルーツとされる古代中国の甲骨文字は亀の甲羅などに刻まれ、占いと強く結びついていたが、展示では巨大な亀の甲羅の模型に触れ、映像効果で甲骨文字の成り立ちを体験できるコーナーもある。

漢字は5世紀に中国から日本に伝わり、日本語として独自の発展を遂げることになる。展示では、8世紀の中国で12歳の子が書いたという『論語』の写しや漢詩の落書きなど、数々の珍しい資料が目を引く。

中国で約2000年前、木簡に書かれた行政連絡文書のレプリカ

1981年に東芝が製造した日本語タイプライター。活字を入れ替えることで、最大2600字の漢字をタイプすることができる

1階にはこのほか、「漢字を書く素材と道具の進化」をテーマにした展示があり、古代の木簡や20世紀の漢字タイプライターの実物、レプリカを見ることができる。中国では甲骨に文字が刻まれる以前、原初の文字は砂や地面に木の枝で書かれたと想像されているが、当時と同じ体験ができるコーナーも用意されている。

2階の展示は、入館者が遊びながら漢字の仕組みや特徴を学べる。例えば、すし屋で使われる「魚へんの漢字づくし」の巨大湯のみが置かれたコーナーでは、回転ずし店が舞台となったテレビゲームでクイズに挑戦する趣向。四字熟語で遊ぶタッチパネル式のゲームや、日本でつくられた「国字」、一部の地域だけで使われる「方言のような漢字」を解説するコーナーもある。

「魚へんの漢字」巨大湯のみは、記念撮影の好スポット

身近な暮らしの道具を漢字で書いたら…?引き出しを開けると、正解が一目瞭然

世界に広がる「漢字」

日本漢字能力検定協会は「漢字検定(漢検)」の実施や、毎年年末に一年の世相を表す「今年の漢字」を選定するなど漢字の普及啓発活動を行う団体。正式な統計はないものの、近年は徐々に外国人の漢検受験者の数が増加しているという。

同協会開発企画部の林田寿子さんは、もともと漢字に縁のない米国、英国などで育ったにもかかわらず、漢検で優秀な成績をおさめる外国人の例を何人も見てきたという。林田さんは「彼らは効果的に漢字を覚えるために、2段階のプロセスを踏んでいる」と話す。

初めは基礎的な漢字の「意味」を習得し、次にその漢字の音読み、訓読みなど「読み方」を覚えて語彙(ごい)を増やしていくやり方だ。例えば「犬」という漢字は“dog”だとまず覚え、それに「イヌ」「ケン」という2つの読みがあることを理解すれば、犬のつく語(例えば「番犬」など)を覚えることは比較的簡単になる。

外国人観光客にも楽しめる施設に

ミュージアム内の説明書きは現在日本語のみだが、日本語を学習する外国人にも楽しめる施設にしようと、英語や中国語、ハングルへの対応を計画中。スマートフォンのアプリを使って説明が表示される方式を検討しており、2017年夏までのシステム完成を目指す。

古代中国では多くの場合、青銅器に漢字が刻まれて後世に残った

同館の開館時間は午前9時半から午後5時(入館は午後4時半まで)。月曜(祝日の場合は翌日の平日)休館。入館料は大人800円、大学生・高校生500円、中学生・小学生300円。
公式ウェブサイトは http://www.kanjimuseum.kyoto/

取材・文=リチャード・メドハースト(ニッポンドットコム)=原文英語
写真=大島 拓也

バナー写真=「漢字5万字タワー」に記された文字

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