特集 日本の果物
“知”と汗の結晶:マスクメロン
[2016.08.31] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

生の果物を使ったケーキやパフェが日常的に果物屋の店頭にならぶ日本。その裏には、365日メロンから目を離さない農家の努力がある。

フルーツデザートを求め行列2時間

日本では昔から「果物」を水菓子と呼び、嗜好品(しこうひん)、ぜいたく品としてきた。それを食べやすい形の「フルーツ」に変身させて「フルーツのある暮らし」を推奨しているのは「新宿高野」。日本を代表する高級果物専門店の一つだ。果物そのものだけでなく、果物主役のケーキやパン、ゼリーやジャム、ジュース製品などを「食べやすいフルーツ」として開発している。「最近は、フルーツサラダに力を入れています」とフーズ営業部広報担当マネジャーの久保直子さんは話す。鮮度を重視するため、百貨店を含めて、厨房(ちゅうぼう)付きの条件でなければ出店を引き受けない。

マスクメロンとジュレで仕上げた果実デザート 写真=コデラケイ

創業131年の同店は、今から90年前に「その場で果物を食べたい、かじりたい」という外国人客の要望により、フルーツパーラーを始めた。一年を通して人気の「マスクメロンパフェ」は、オーダーが来てから、食べごろのメロン果肉を半分にカットし、ソフトクリームとホイップクリーム、フルーツ果肉100%シャーベットと合わせ、果物素材が引き立つように仕立てる。果物をおいしく食べるため、オリジナルパフェグラスも作った。他の国ではあまり見かけない縦型の逆三角形だ。あくまでも果物が主役。食後に「果物を食べた~!」と満喫する充実感を大切にする。そのまま食べて美味しく、また最後にクリームと混ぜるとさらにおいしい一品で、1つ2160円だ。

夏の朝、11時開店の新宿タカノフルーツパーラー5階エレベーター前には、平日だと言うのに芳醇(ほうじゅん)なフルーツデザートを求めて2~3時間の列ができていた。

マスクメロンパフェ 写真=コデラケイ

マスクメロンの食べ頃は外せない

(上)マスクメロンショップ(左下)メロンの底をたたいて熟度を調べる「マスクメロンショップ」の専門家(右下)1万6200円のマスクメロン 写真=コデラケイ

10年前には店内に「マスクメロンショップ」を開設した。旬のフルーツ売り場の奥にあるマスクメロンに特化したコーナーだ。メロンは、食べごろを見極めるのが大変難しく、1日ずれるだけで味がまったく異なるという。常時専門家を置き、一日刻みで食べ頃を確実に客に伝える。

フルーツを熟知している専門スタッフによる「フルーツ・カルチャー・スクール」では、「旬のフルーツ」「フルーツ産地」「フルーツ生け花」などの教室も開催している。どのクラスも、すぐに満員になるという。

懐石料理が芸術品といわれるように、生産者が1年かけて創り上げた果物を、手間と時間をかけて一つひとつ吟味し、新鮮な芸術作品として演出する。

破裂するほど養分のつまったメロン

都心の果物屋では、1つ3000円から高いものでは3万円まで、メロンが店頭に並んでいる。何が、そんなに違うのか。東京から200km南西のメロンとサッカーの街、静岡県袋井市にメロン農家2代目、この道40年の中條文雄さん(58)を訪ねた。

中條さんの「一木一果」栽培のクラウンメロン

そもそも、メロンは気温の高い国エジプトが原産。気候が温暖な袋井市では、1世紀近く前の1924年から、英国の“アールス・フェイバリット”種(ネット系メロン)を育てている。品質改良を重ねて作られた贈答用マスクメロンのトップブランド『クラウンメロン』の種は門外不出で、厳重に管理されている。

ガラスでできた「スリー・クォーター温室」は、屋根が3:1の割合。太陽光を最大限利用できる設計

中條さんは、11棟のガラス温室でメロンを栽培する。温室内の温度・湿度を年間通じて一定に保つため、コンピューター多棟環境制御システムを採用している。栽培時期を棟ごとに変えることによって、100日周期のメロンを一年中栽培できる方法だ。メロンは水の量によって味の大半が決まるから、毎日生育状況を確かめて適量の水をやる。

①1木に1つ残した卵大メロン ②薄紙にくるむ  ③底の柔らかさで熟度を確認 ④包装して出荷を待つ

定植してから25日ぐらいで、筆を使って一つひとつ交配する。10日ぐらいで卵大に育つ。そのうち1つだけ実を残して他を間引く。「残った実を薄紙でそっと包み、出産前の女性のように大切に扱う」と中條さんは言う。1本の樹に1個のメロンしか育てない「一木一果」栽培だ。残された実は、他の実に行くはずだったあふれんばかりの養分を受けて爆(は)ぜる。養分が割れ目から汁果となって流れ出て、美しい網目模様(ネット)を形成する。十分に熟れたかどうかは、メロンの底の柔らかさで判断する。

メロンは組合へ運ばれ、大きさや糖度、網目のはり具合など厳しい検査を受ける。「クラウンメロン」には、上から「富士」「山」「白」「雪」など6等級の評価基準がある。最高級の「富士」は、1000個に1個あるかないかの逸品。検査を受けたメロンは箱に詰められ、中央卸売市場でのデビューを待つ。

見て、香って、食べて3度楽しむ

中條さんの温室には、農業大学の学生たちや果物屋の店員も見学にくる。「果物屋の店員さんが生産現場を見学し、勉強してくれるのは本当にありがたい話です」と中條さんは顔をほころばす。

「日々の水やりがメロンの成長を決めるので、クリスマスも正月も休めません。嫁さんには苦労をかけます」と中條さんは申し訳なさそうだ。水やり不足でメロンが玉焼け(やけど)してしまった時は、数日食事が喉を通らない。息子の友貴さん(33)が後を継いでいるが、いまだに家族旅行には行けていない。「見て楽しみ、香って楽しみ、食べて楽しむ。3度楽しめるおいしいメロンを作ることが何より幸せ」と言う。

たかがメロン、されどメロン。芳醇(ほうじゅん)でジューシーなマスクメロンは、果物農家と果物店が、手間暇かけて創った“知”と汗の結晶だ。

取材・文=土井 恵美子(ニッポンドットコム編集部)

バナー写真:新宿高野のフルーツデザート、左から2番目がマスクメロンを使ったケーキ写真=コデラケイ

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