特集 日本の果物
イチゴ: 栃木の赤い宝石

ジュリアン・ライオール【Profile】

[2017.05.16] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | العربية | Русский |

絶妙な甘さと酸味のバランスと、一粒一粒の大きさが自慢の日本のイチゴ。近年は海外の富裕層をターゲットにした輸出も拡大している。「とちおとめ」や「スカイベリー」など人気品種を次々に開発し、日本一の生産量を誇る栃木県を訪ねた。

日光連山の麓でイチゴ狩り

茎の両側にそっと指を挟み、軽くひねって、深紅の果実を陽光にかざす。整ったハート形、ニワトリの卵ほどに成長した「とちおとめ」がいよいよ収穫期を迎えた。栃木県日光市のイチゴ農家、沼尾浩明さん(41)は、ひとくち口に含んで出来栄えを見る。「甘くてみずみずしく味わい深い。どなたにも喜んでいただけます」と、満足そうに話した。

光ファイバー製造企業に勤務していた沼尾さんは、2003年に会社を辞め、イチゴ狩り観光農園「日光ストロベリーパーク」を起業した。男体山と女峰山を望み、日光からも鬼怒川からも車で15分ほどという便利な立地だが、「この辺りは水田ばかりで、電気も水道も通っていなかった」という。ビニールハウス6棟からスタートした農園は、今では29棟に。年間5万人以上が訪れる観光スポットに成長し、県の依頼を受けて天皇陛下にイチゴを献上するまでになった。

「日光ストロベリーパーク」の沼尾浩明さん。イチゴの温室からは男体山と女峰山が大きく望める。

農園の目玉は、訪れる客がハウスの中で鈴なりとなっているイチゴを自由に選び、摘んだその場で味わうことのできる「食べ放題」サービスだ。「特に子どもたちは、イチゴ狩りが大好きです。この仕事で一番うれしいのは、お客さまから直接『おいしい!』と言われた時。本当に幸せな気持ちになります」

ハウスの中でイチゴを摘むカップル。最盛期には一日1000人の客が農園を訪れるという。

とちおとめと新品種スカイベリー

沼尾さんが育てているイチゴは4種類。「とちおとめ」「やよいひめ」「紅ほっぺ」そして「スカイベリー」だ。これらはいずれも、栃木県が長年にわたり品種改良を重ねてきた。スカイベリーは2014年に新たに登録されたブランドで、栃木県外では栽培されていない

とちおとめ

「栃木県でイチゴの生産が盛んに行われるようになったのは、1960年代です。その当時は収穫時期が2月から4月までで、生産も安定していませんでした」と県農業試験所いちご研究所の大橋隆特別研究員は言う。「しかし1985年、12月から容易に収穫できる新品種『女峰』が開発されました。『女峰』誕生後、クリスマスケーキの飾りとしてイチゴの需要が高い12月に、イチゴを安定的に供給することが可能になり、大消費地にも近い立地条件も手伝って、イチゴ経営の収益性が高まりました」。研究者、生産者はさらに大きく甘いイチゴを目指すことで、栃木イチゴのブランド価値を高めてきた。

新宿高野のフルーツサラダとデザート

そもそも、日本人とイチゴの付き合いは200年前にさかのぼる。江戸時代にオランダの苗が、長崎の港を通じて持ち込まれた。栃木県での栽培は大正時代(1912-26)に始まった。しかし、収益性が認められ、イチゴ栽培が大規模に展開されるまでにはかなりの時間がかかった。

「栃木県は、ほぼ50年にわたり、日本一のイチゴ生産量を誇って来ました」と大橋研究員は指摘する。冬季の日照時間に恵まれており、イチゴはコメ農家が農閑期に栽培するのに適した作物だった。「『女峰』が誕生し、イチゴを主品目として生産する農家が増加し、今では夏に生産できる品種栽培も進歩し、イチゴは時を選ばずして手に入る果物となりました。また、近年イチゴ狩りが、観光客のスポットとして注目を集めるようにもなってきたのです」

より果実が大きく糖度も高い女峰の後継交配種「とちおとめ」が1996年に市場に出て、消費者はその深紅の色と食感を好んだ。今日、栃木県のイチゴ生産のほぼ90%を、とちおとめ――「栃木のお嬢さん」的なネーミングも受けているのかもしれない――が占めている。新品種スカイベリーの生産量も増えつつある。スカイベリーは、その香りに加え、みずみずしさ、甘味と酸味のコンビネーションが高い評価を受けている。

農林水産省の統計によると、2015年時点の日本のイチゴ栽培面積は5450ヘクタールで、生産量は15万8700トン。栃木は全国トップの2万4800トンで、2位の福岡県(1万6000トン)を引き離している。

贅沢デザートの高級素材

新宿高野の店頭で飾られるとちおとめ(左)と紅ほっぺ(中央)

「日本のイチゴは、世界でも最高級品の一つ。それはひとえに品種改良を重ねてきた研究者の熱意によるものです」と新宿高野の広報・マーケティングマネージャー、久保直子さんは言う。20年以上もの間、いくつもの果物を使ったケーキや総菜のレシピを手掛け、『フルーツの朝ごはん』など、果物を使ったレシピ本も執筆している久保さんは、イチゴをどのように生かすのか知り尽くしている。

「イチゴケーキや、パフェを完璧に作るには、品種の特徴を知らなくてはなりません。品種によって硬さの違い、中まで赤いもの、酸味が強いもの、甘味が強いものがあり、白いものもあります。赤みの強いものは使いやすいし、実がしっかりしているものは、物流に耐えられるのでケーキのトッピングに向いています。イチゴの場合は、たくさんある産地や季節によって特徴が変わるので、時期をうまくリレー方式にして使っています」

ストロベリーパフェは、イチゴが旬となる11月から2月にかけ、特に人気が高いメニューだ。何層にもなったアイスクリーム、ホイップクリーム、カットしたイチゴ、イチゴゼリー、トップにはミントが載せられ、美しい色どりが食欲をそそる。

新宿高野のストロベリーパフェ

日本人はイチゴが大好き

「イチゴは年間を通して最も人気のある果物の1つです」と久保さんは言う。「皮をむかなくていいし、食べやすいし、洗うのも扱うのも簡単。イチゴはもはやファーストフードともいえます。イチゴはイラストやマンガ、アニメのキャラクターにもよく使われます。日本のいわゆる『カワイイ』文化にも合っているのです」

原文英語。バナー写真: 日光ストロベリーファームのハウスで栽培されるイチゴ
写真: 長坂 芳樹

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  • [2017.05.16]

英紙デーリー・テレグラフ特派員で、日本と韓国を担当。ウルバーハンプトン大学、セント・ランカシャー大学院でジャーナリズムの学位を習得。ロンドン出身。1992年来日、現在横浜在住。サウス・チャイナ・モーニング・ポストなど他紙にもフリーランスとして執筆。

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