特集 ニッポンの“水”
直径60センチの小宇宙「デザインマンホール」12選
[2017.09.08] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

日本の観光地や商店街でよく見掛けるのが、ご当地キャラや名所旧跡が色鮮やかに描かれたデザインマンホール。それを鑑賞するために全国を巡る人々、通称「マンホーラー」が少しずつ増えていたが、2016年に「マンホールカード」が発行されたことで一大ブームに。その仕掛け人に話を聞いた。

マンホールは“下水道の顔”

「下水道はあまり注目されない上に、“暗い” “臭い” “汚い”という3Kのイメージを持つ人もいます。でも本当は、都市の水を循環させるために欠かせないインフラで、人々の生活を支える存在です。その価値をアピールし、さらにイメージアップできないかと考え、マンホールカードを始めたのです」

マンホールカードの発案者で「下水道の伝道師」と呼ばれる山田さん

そう語るのは、マンホールカードを発行するGKPで企画運営委員を務める山田秀人(ひでと)さん。GKPとは、国土交通省の呼びかけで全国の自治体や下水道関連企業、メディアなどが連携して設立したPR団体「下水道広報プラットホーム」の略称だ。下水道に関する情報発信を中心に、マンホールカードの発行、イベントの開催やグッズの企画などを行っている。

山田さんは「下水道は“縁の下の力持ち”的な影の存在。そこで、人々が唯一日常的に目にしている下水道の顔、マンホールの蓋(ふた)に目を付けた」と言う。路上にある丸くて黒いマンホールは、正確には「マンホールの蓋」。マンホールとは、地下を走る下水道に点検や修理などで人が出入りするための縦穴全体のことを指す。1960年代、下水道の整備とともに設置されたマンホールの蓋は、自治体ごとにデザインが異なり、種類がとても豊富だ。

「滑り止めのために表面に幾何学模様が施されているのですが、時を経てデザインが洗練されてきました。そして、横浜市ならベイブリッジ、大阪市なら大阪城、水戸市なら名物の納豆のキャラクターなど、土地柄を表現するようになったのです。さらに鮮やかに着色されたカラーマンホールの登場で、見た目も派手で楽しい物が増えています」(山田さん)

マンホールは下水道整備用の縦穴全体を指す。蓋以外は地中に埋まっているため、通常は見ることができない。日之出水道機器 栃木工場にて 撮影=三輪憲亮

世界に誇れる文化物

デザインマンホールの始まりは、1975~76年に沖縄県で開催された「沖縄国際海洋博覧会」の際に作られた物だとされる。幾何学模様の代わりに、小さな魚の模様を並べた単純な意匠だった。それが現在は、マンホールは地域の宣伝看板といった感じで、全国1700の自治体が独自に趣向を凝らしたデザインを施している。

「海外では機能重視の無機質なマンホール蓋が多いようです。これほどユニークでバラエティーに富んだ蓋が各地に点在しているのは、日本だけでしょう。まるで、全国に散らばる直径60センチの小宇宙。私は、世界に誇れる文化物だと思っています」(山田さん)

モンチッチを製造する会社がある葛飾区のデザインマンホール 撮影=ニッポンドットコム編集部

「ご当地マンホール」の鑑賞や写真撮影のために日本全国を旅するファン、通称「マンホーラー」が徐々に増え始めたのは約10年前から。近年はSNSなどを通じて海外にも拡散されることで、訪日観光客の間でも注目され始めている。

GKPは14年から、マンホール蓋に関心を持つ人と下水道業界関係者が交流するイベント「マンホールサミット」を年2回のペースで開催。多くのメディアに取り上げられるなど成果を上げてきた。そして、おもちゃメーカーに勤務した経験がある山田さんが、さらにマンホールの楽しさを拡散しようと仕掛けたのが、16年4月に配布を始めた「マンホールカード」。アイデアの基になったのは、自身が子どもの頃に夢中になって集めたシールやカードだった。

1月に川越市で行われた「マンホールサミット in 埼玉2017」。県内58種類のデザインマンホールが来場者を出迎えた

表面でマンホールの写真を紹介し、所在地の位置情報を経緯度で示す。裏面にはデザインの説明・由来が書かれている。カードは無料だが、配布場所はマンホールの設置場所近くの市役所や水道局、観光案内所など1種類当たり1カ所のみ。つまり、マンホールカードを手にすることは、その地を訪れた証しでもあるのだ。

さらに、カードをつなげる連番、地域ブロック番号、図案のカテゴリーを示すピクトグラムなどが記載されている。これは、「まずは関東ブロックだけ集めてみよう」「ご当地キャラのカードは全部欲しい」といった感じで、マンホーラーが自分のテーマで楽しく収集するための仕掛けとなっている。

各自治体からはさまざまな要望が出るが、デザイン、文体、仕様、印刷方法などを統一し、マンホールの絵柄に関係ない情報は絶対に載せない。山田さんは、それを「鉄の掟(おきて)」と名付けて厳守することで、統一感やプレミア感を生み出し、ファンの収集欲を高めている。

左が表面で、右が裏面。マンホールカードには楽しく収集できる仕組みが詰まっている

マンホールカードで各自治体がつながる

2017年8月に52種類が追加されてマンホールカードは全222種類となり、累計発行枚数は約100万枚となっている。191の自治体が参加しており、今後も年3回のペースで新しいカードを発行していく予定だ。

各地でマンホールカードを受け取るのは、6割が他県からの訪問者だという。街歩きを楽しむシニア層や若い女性が中心で、カードを手にした後には、マンホールの設置場所にも訪れるケースが多い。自治体はカードと一緒に観光マップを手渡したり、地域のPRアプリと連携させたりと、地域活性化のツールとして活用している。茨城県つくば市などは英語版を発行し、訪日観光客も呼び込もうとしている。収集欲をくすぐる上に統一感があるマンホールカードの出現によって、各自治体がバラバラに作っていたデザインマンホールが結束し、世界中から注目される一つの日本文化になったと言える。

「ちょうど今、日本中で老朽化したマンホールの取り換え時期。また各地方の特色を生かした新しいデザインマンホールが続々と生まれ、マンホールカードもどんどん増えていきます。その結果、下水道に少しでも注目が集まり、関心を持ってくれる人も増えてくれたらと願っています」(山田さん)

「マンホールサミット in 埼玉2017」には、約3000人のマンホーラーが集結した

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  • [2017.09.08]
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