特集 日本アニメの潮流
短編アニメーションの魅力——『頭山』の山村浩二氏に聞く
[2017.08.03] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

『頭山』で知られる世界的なアニメーション作家・山村浩二氏の新作公開を機に、長編アニメーションとは全く違う「実験場」としての短編の表現の多様性、面白さについて聞いた。

山村 浩二

山村 浩二YAMAMURA Kōji1964年生まれ。東京造形大学卒業。90年代『カロとピヨブプト』『パクシ』『バベルの本』など子どものためのアニメーションを多彩な技法で制作。2002年『頭山』がアヌシー、ザグレブをはじめ6つの世界の主要なアニメーション映画祭でグランプリを受賞、米アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされる。アヌシー、ザグレブ、広島、オタワの世界4大アニメーション映画祭全てでグランプリ受賞=『頭山』『カフカ 田舎医者』(07年)=は世界初。2013年アニメーションストア&ギャラリー「Au Praxinoscope(オープラクシノスコープ)」を東京・世田谷区に開設。東京芸術大学教授として若手作家の育成にも力を入れている。

『サティの「パラード」』『怪物学抄』などの短編9本が8月5日から東京・渋谷のユーロスペースで上映される

あるケチな男が、さくらんぼを拾って食べた。捨てるのがもったいなくて種も飲み込んでしまう。すると頭のてっぺんに芽が生えて、何度切っても生えてくる。やがて立派な木となって、春には桜が満開となり、大勢の人が男の頭の上で宴会を繰り広げる。男は木を引っこ抜くが、頭に開いた穴に雨水が溜まって池となり、最後にはその池に飛び込んで死ぬはめに。このシュールな落語の演目「頭山」を10分間の短編アニメーションで描き、2002年、アヌシー国際アニメーションで日本人初のグランプリを受賞した山村浩二氏。以来、短編アニメーションの世界で、多彩な表現を開拓し続けている。8月には新作を含めた9本の作品が『山村浩二 右目と左目でみる夢』として上映される。(上映作品については2ページ目参照)

短編は作り手の実験場

2017年は日本でアニメーションが誕生して100年。今では宮崎駿監督作品をはじめ、日本の長編アニメーションは世界的な人気を誇り、“アニメ(anime)” は日本のマンガの影響を受けた商業的アニメーションを指す言葉として、英語で定着した。山村氏は、短編アニメーションはいわゆる「アニメ」とは違うカテゴリーの表現世界で、実験的な精神を受け継ぐという意味で100年前のアニメーションの原点に近いと言う。

「短編は作り手の実験場のようなところがあります。水彩、パステル、インク、墨、粘土、ガラス、砂などあらゆる素材を使い、“こんなモノで描かれた絵が動くのか” という驚きを生む。同じ作家の作品でも、1本1本使う素材が違う。その表現の多様性が短編の魅力です」

アニメーション作家への道

小学生の時、山村氏は赤塚不二夫原作のテレビアニメ『もーれつア太郎』をよく見ていた。ある日、駄菓子屋で売っているメンコの絵のニャロメ(『ア太郎』に登場する二足歩行でしゃべるノラネコ)は、テレビではどうして動くのだろうと疑問に思い、アニメーションの仕組みを調べ始めたと言う。「1コマずつ途切れた静止画像を連続させることで動きを作るのがアニメーションの原点だと知り、中学から高校にかけて、試行錯誤しながら、8ミリフィルムでコマ撮りをした。それを映写して映像として初めて見た時の衝撃、面白さが今でも短編を作り続ける原動力になっています」

アニメーションは観客の想像力を刺激するからこそ面白いと語る山村浩二氏

東京造形大学で専攻したのは具象の油絵だが、「絵画表現を勉強していく中で、絵が変化していく面白さ、1枚の絵では表現できない身体的にあふれ出る(怒り、喜び、恐れ、欲望など)情動を描くにはアニメーションという手段が適している」と改めて認識した。

そのころ影響を受けたのは、ユーリー・ノルシュテインをはじめ、ロシアやカナダの短編作家の作品だ。「絵画を描くような感覚で、大人が楽しめるアニメーションを作りたい」と自身の方向性を決めた。1985年の第1回広島国際アニメーションフェスティバルを見に行ったことも大きな刺激となった。「その時、イシュ・パテルというカナダ在住のインド人作家の特集上映があった。1本1本テーマも手法も違うけれど、根底にある美学に感銘を受けた」

大学の卒業制作には粘土を素材にした『水棲(すいせい)』という短編作品を制作し、卒業後はアニメーション美術の製作会社に2年勤めた後にフリーランスとなった。

東京・世田谷区の仕事場にはさまざまな種類の筆、刷毛がそろう

水性インクや墨汁などを使って、直接紙に描いていく

今回の特集上映で、第1章が上映される4章作品の『水の夢』を引き続き制作中だ

『水の夢』の原画。生物の進化を表現する作品だ

10分間の『頭山』を6年かけて完成

「独立してから大人向けの作品を作る機会がなかなかなかった。やがて、NHKなどから子供向けの仕事の依頼が来るようになり、大人がその知識や想像力を使って楽しめる作品を目指していた自分の方向性とは少し違うと感じていた。でも、子ども向けの作品を作っていくうちに、子どもはストーリーよりも(キャラクターの) 動きや画面の雰囲気に対して感覚的に面白がったり怖がったりするということに気付いた。人間の内側に秘めた恐怖心、好奇心などを引き出すという意味で、子ども向けの作品でも、僕が求めているアニメーション表現はできると思った」

その1つの実験として、『バベルの本』(1996年)という子ども向けの5分間の作品では、「かわいい」ではなく、「怖い」感じの世界を表現した。ただ製作期間が1カ月だったので、自分としては不満が残ったと言う。その翌年から取り掛かったのが『頭山』だった。こちらは他の仕事をしながら、6年間を費やして完成させた。

『頭山』の原画は鉛筆とカラーマーカー、ペンで描かれたものだが、その表現にはさまざまな工夫が凝らされている。例えば、ガラスクリーナーの泡も素材の1つだった。「スキャナーで泡をスキャンしてつぶれていく動きを捉えました。古びたフィルムのような質感を出したかったので」。この手法は、現時点の山村作品では最長 (21分) の『カフカ 田舎医者』(2007年)でも採用した。「やりすぎて、スキャナーを1台だめにしました」と苦笑する。

デジタルが開いた可能性と限界

アニメーションの世界ではデジタル化が進み、3D-CGが全盛だ。「デジタルフィルムとアニメーションの相性はいいと思っています。アニメーション史上で重要なのは(1914年の) セルの発明です。ただ、セルの技術的制約によってアニメーションの絵柄が限定された。アクリル絵の具しか使えず、陰影をつけることができない。デジタルを導入してからは、どんな紙に描いても、どんな画材でも、後で自由に合成できる。よりアニメーションの原点に返っていったと感じています」

山村氏は、基本的に最初は紙に描いてスキャナーでコンピューターに取り込む。最近の作品では、あえてフラットな映像を作りたいという意識が強くなっている。

「世界的にはデジタル作画は一般的になってきています。ただ、はやりのアプリケーションをみんなが使うと、どうしても同じ質感のものが多くなる。デジタル技術をいかに既存の技術とうまく組みあわせて作るかが重要。便利な1つのデジタルツールで満足すると、可能性が広がったはずが閉じてしまうこともあり得ます」

山村氏のアトリエの地下1階は、アニメーション専門のストア&ギャラリー「Au Praxinoscope(オープラクシノスコープ)」だ。店名の「プラクシノスコープ」とは、1879年に発明された視覚玩具の名前。随時アニメーションの原画展や上映会が開催される。

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