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日本の写真文化を語ろう⑤ 代官山蔦屋書店 写真集コンシェルジュ・清水はるみ

文化

日本でも有数の写真集の蔵書数を誇る書店、代官山蔦屋書店。2011年のオープン以降、国内外からの客足が途絶えない。そこで働くスタッフも「コンシェルジュ」の肩書きで選書をし、顧客にオススメの本を紹介している。写真集コンシェルジュの清水はるみさんに話を伺った。

清水 はるみ SHIMIZU Harumi

1989年生まれ。写真事務所でアシスタントを務めた後、2014年より代官山蔦屋書店のコンシェルジュに。自費出版の和書から手に入りづらい洋書まで、幅広い仕入れに努めている。

海外から注目集める日本の写真集

私は2014年3月から写真集担当として勤務しています。弊店は11年のオープン当初から写真集に関しては全国でも有数の品ぞろえを誇り、ここで働こうと思ったのもそれがきっけでした。以前は写真家のアシスタントとして写真に関わっていましたが、ここで多くの写真集に触れるにことで、改めて写真についてはごく一面しか知らなかったんだなと思うようになりました。

ここにいると日本と世界の写真のさまざまな動向が見えてきます。もちろん一律に言えることではないのですが、日本の写真が「私写真」の傾向に寄っているなど、国ごとにモノの見方のベースがあると思います。写真そのものの王道みたいなもの―たとえばスナップ写真やドキュメンタリー写真―それは国によって大きな差が見えてきませんが、その背景にあるものやそこから派生した個性は全く違います。それが分かってくると、本当に面白いです。

そういう違いを踏まえた上で、あえて日本の写真が魅力的だと思って、足を運んでくださる海外のお客様も本当に多いです。実際に年々海外のお客様は増えています。今では観光ツアーのコースの一つとして弊店を選んで下さっていることもあります。もちろん個人のお客様も多く、また複数回来店してくださっているお客様もよくお見掛けします。

マニアックな写真集ファンもやってくる

海外のお客様は、日本の写真についてどれくらい知っているかによって、お求めになるものも違ってきます。日本の写真をざっくり知っている海外のお客様は、荒木経惟・森山大道の名を挙げられることが多いです。もう少し詳しい方になると、新刊でも手に入りづらいマニアックな写真集やヴィンテージ(古書)をお求めになる方が増えてきます。名前を挙げると奈良原一高や柴田敏雄、濱谷浩などです。最近は過去の作品集が相次いで出版されたことで深瀬昌久への問い合わせも多いです。プレゼント用としては、可愛いくて日本らしさもある川島小鳥の『未来ちゃん』がよく動いています。

また、代官山というファッションブランドやおしゃれな雑貨店が集まる土地柄、ファッションとの相性もよいのでそれに関わる写真集やデザインブックも人気があります。展覧会や映画に連動した写真集など、話題性に富んだものはよく動きます。例えば、『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』や『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』など、写真家をテーマにした映画が上映されると関連する写真集を求める方が増えています。また、そういった話題性のあるものだけでなく、コアな写真集ファンの方に向けても、できる限り細やかな仕入れができるように心掛けています。

クオリティの高い写真集はコンスタントに売れる

電子書籍化が進んでいたり、売り上げに苦戦して出版業界が厳しくなっていたりする現状はありますが、それでもリアルな本の魅力を伝えていきたいという思いがあります。その一つとして、ブックデザイン展を毎年開催しています。作品内容はもちろんのこと、紙の種類、デザイン、編集とさまざまなディテールに本の魅力は詰まっているので、日々たくさんの本を見る中でスタッフ皆で議論を重ねて、年間を通して特に印象的だったものを紹介させていただいています。

本が売れた時にその要因を分析します。価格やデザイン、作品内容だったりとさまざまな理由があると思いますが、共通して言えることは、こちらがお薦めしているクオリティの高い本はやはり結果としてコンスタントに売れ続けているということです。

「モノ」としての魅力があるもの。ただ情報が詰まっているものとしての本ではなく、内容とデザインがマッチしていて、見て触って「いいなあ」と感じる写真集。そういうものには絶対的な存在感があります。やはり本を売る立場としては、そういう本をこれからも紹介していきたいと思っています。

取材・文=松本 知己(T&M Projects)
写真=高橋 宗正

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