特集 PHOTO CITY TOKYO
日本の写真文化を語ろう② 「T3 Photo Festival Tokyo」ファウンダー・速水惟広
[2017.05.16] 他の言語で読む : ESPAÑOL |

写真と触れ合う方法はさまざまだ。地域活性化のプロジェクトや写真フェスティバルという大きな枠組みで、写真とのつながりを生み出すフォトディレクターは、写真と社会のつながりをどう考えているのだろうか。

速水 惟広

速水 惟広HAYAMI Ihiro「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(東京国際写真祭)」ファウンダー。写真雑誌「PHaT PHOTO」前編集長。岩手県大槌町や静岡県下田市で、地域住民とアーティストによる写真を使ったソーシャル活動に取り組む。海外の写真フェスティバルなどでフォトディレクターとして活動中。

写真との関係を探りながら

写真に関わる前、米国の大学でグラフィックの勉強をしていました。ただ、自分が課題制作でどんなに力作を持っていったとしても、それを軽々と超えるものを出す同級生がいた。大学内でその現実に直面した時、挫折ではないけれど、「これは無理だな」ときっぱりと諦めがついて、自分はデザインじゃない分野で活動する方が向いているだろうと考えるようになりました。

卒業後日本に戻り、現在の勤務先であるCMSに入社。『PHaT PHOTO』という写真雑誌の広告営業に配属されました。しかし3年程続けるうちに「何をやっているんだろう」と思うようになりました。大学で学んだことや英語力も生かせていないと。自分の仕事になっていないという思いが強くありました。

自分はアートやデザインが好きだが、「つくる側」ではない。ただし、「つくる側」の気持ちも分からなくもない。営業という仕事をやっていたということも考えると、彼らの作品を売り込む手助けができれば、「自分の仕事」になっていくのではと思いました。

自分のやりたいことが見えたと同時期に、偶然にもカメラメーカーのリコーが銀座でギャラリー「Ring Cube」を立ち上げることになり、外部ディレクターを3年間務めさせていただきました。その後、『PHaT PHOTO』編集長になり、2年間、国内外の写真関係者と交流を持てたことが、現在の仕事のベースになっています。

地方へのまなざし

2度目の転機は、2011年の東日本大震災とともに訪れました。妻の実家が被災したこともあり、「果たして自分の仕事は何かの役に立っているのだろうか?」という問いを突き付けられた気持ちになったのを覚えています。同時に、日本に対しても意識的になりました。

今でこそ空気は変わってきていますが、それでも地方を訪ねると、過疎化が進み、何百年と続いてきた伝統などが失われてしまった町や村を目の当たりにします。それはまるで、もう一つの“津波”が日本の地方をゆっくりと飲み込んでいくかのようです。こうした現実に対して、写真で何か出来ないだろうか。そうした思いが、岩手県大槌町や静岡県下田市などでの写真を使った地方活性化の活動につながっています。

地域に暮らす人たちや行政の方々と仕事をする時は、「表現」としての写真よりも、「課題解決」のための写真という側面に焦点を当てています。例えば、それは「記録」という写真が持つ特性や、撮影を通じた人とのつながりを重視することだったりします。というのも、地域の中で写真を活用して何かを起こそうとしても、地元の人たちには、これまで自分が使ってきた写真の専門的な言葉は意味を持ちません。相手にとって役立つかどうかを軸に、自分の知る「写真の世界」を再考する必要があります。

例えば、地元の方々にカメラを向けると、最初は照れていますが、ものすごくいい表情が撮れることがあります。そしてそれを見せると、非常に喜んでくれる。「こんなふうに私は見られているのか」と。自分の顔は自分では見られませんよね。でも鏡ではなく、写真家の視点で撮影された自分の顔を見る。それが被写体から彼らの誇りを引き出す表情になっている。これが地域の人々にとって、意味を持つ写真となるのです。地域の人々に光を当てる写真、自分たちだけでは気付かなかった価値を発掘する写真になるのです。そういったことを大切にしながら活動を続けています。

上野公園で写真と出会う

東京は世界から注目されている都市であり、アジアの中心的都市としての役割を担っていると言えるでしょう。日本の強みということで言えば、あらゆる文化が日本にたどり着き、それらをうまく取り込んできた。自分たちなりに解釈、受容し、それをまた自分たちの文化としていった。そうして多くの文化を発酵させてきたように思います。

いま手がけている写真のフェスティバル「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」(2017年5月19~28日開催)も、日本人があまり知らなかったクオリティの高い写真作品を上野公園という公共空間に展示することで、新たな価値観を生み出すきっかけになればと考えています。

作家のことを考えながら展示空間をつくる

やはり作家がいるからこそ自分たちの仕事は存在しています。例えばフェスティバルで展示場所や方法などを決める際、事前のリサーチを大事にしています。それはその土地で開催する意味や、作家の仕事を大切にするということでもあります。パブリックスペースでの展示は、ある意味でチャレンジングです。写真とは無縁だと思っている人にどう分かってもらうか、どんなふうに見てもらえるか。両者にとって展示後に何だったんだろうと思われないためにも、丁寧な仕事を心がけています。作家にとっても次のステップにつながるような場にして、素晴らしい作家・作品を見る側に橋渡しできたらと思います。フェスティバルをそんな理想的な形にするまでやるべきことはたくさんありますが、これからも多くの人が写真に何か新しい価値観を見出していけるような場にしていきたいです。

取材・文=松本 知巳(T&M Projects)
写真=高橋 宗正

T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(東京国際写真祭)

会場:上野公園、東京藝術大学、上野桜木、市田邸
会期:2017年5月19日(金)~28日(日)
入場料:無料

詳しくは写真祭公式HPをご覧ください
T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO

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  • [2017.05.16]
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