PHOTO CITY TOKYO

日本の写真文化を語ろう④ 「T3 Photo Festival Tokyo」キュレーター・小高美穂

文化

ただ優れた作品を並べるのではなく、一つ一つの作品を意味付けし、写真をより魅力的に見せる。作品と観客をつなぐための懸け橋となる立場の人がいる。日本では数少ないインディペンデントキュレーターとして活躍をしている小高美穂さんに話を伺った。

小高 美穂 ODAKA Miho

フォトキュレーター。日本大学芸術学部写真科非常勤講師。上智大学英文学科卒業、Falmouth Collage of Arts(英国)写真学科修士課程修了。広告写真のフォトエディター、写真ギャラリーで展示企画や作品販売に携わった後に独立。現在は写真展のキュレーター、展覧会のコーディネート、作家のマネージメントや講師、執筆など日本と世界をつなぐ写真のフィールドで活動中。

自分にとっての出発点

大学生の頃から写真と関わってきましたが、現在の自分につながっている2つのことがあります。1つが、演劇です。中学、高校時代では英語演劇の部活に入っていました。大学に入ってからは、英文学や演劇を学び、中でも不条理演劇に強く惹(ひ)かれました。舞台美術の視覚的な面白さに魅了され、その延長線上で美術や写真に興味を持つようになりました。

もう1つが、発掘です。幼い頃テレビで放映されていたエジプトの遺跡や徳川埋蔵金の番組などが大好きで、昔から発掘に憧れていました。大学では結果的に英文学を専攻しましたが、やはり古いものや歴史に対する憧憬を強く持ち続けていました。埋もれたものを発掘したいという思いは、現在の自分のさまざまなモチベーションの源泉になっていると思います。

大学で英文学を学ぶ傍ら、写真部で作品を制作していました。日本の大学を卒業した後は、どこに行くかははっきりしていませんでしたが、海外で美術を勉強したいと思っていました。そんな時、写真作品のポートフォリオを、写真家だった英国の美術大学の教授に見てもらう機会があり、その縁で英国の大学院に進学することになりました。帰国後は、写真家のアシスタントの仕事をしながら自分の作品制作を行っていました。

でも、写真の技術はなかったし、演劇や英文学の興味から写真にたどり着いたこともあって、写真を仕事にするのは無理かなと思っていました。実際、撮るという行為よりも絵コンテを作ったりする作業の方が自分に向いていました。当時アシスタントに付いていた写真家がストックフォトの仕事をしていた関係で、フォトライブラリーの撮影コーディネートの仕事を始めました。それがだんだん楽しくなり、撮るのではなく、見る側、考える側になろうと決め、コマーシャル・フォトのエディターという職に就きました。

フォトエディターの仕事では、1日に何千枚もの写真を見ます。そうした中で、マグナムの写真家や当時注目され始めていたアレック・ソスの作品なども数多く見ました。ただ、コマーシャル・フォトには “売れる”写真というのがあって、自分がいいなと思った写真が必ずしもそういう写真ではありませんでした。自分が写真を制作してきたこともあって、それがとてももどかしかった。そんなこともあって、商業写真ではなく、ファインアートとしての写真と関わっていきたいと思い、そうした写真を専門に扱うフォト・ギャラリーで3年半働きました。その経験を生かして現在フリーランスとして、写真展のキュレーションや作家のマネージメントといった仕事をしています。

写真を見せる

説明的な要素が一切なく、写真そのものが饒舌(じょうぜつ)に語り掛けてくる作品がいい写真だと思っています。それは、その写真1枚について一晩中でも見た者が語れる写真です。写真は記録でもあり、表現でもあり、さまざまな意味合いを内包するメディアであると思いますが、時代を超えて向き合っていけるような写真に強く惹かれます。

現在キュレーションを手がけている「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」(2017年5月19~28日開催)では、「見えない地層」というテーマのもと、イタリア人のフェデリカ・チオチェッティと共に9名の作家を選出しました。この展覧会では、写真作品を通して、「見ること」と「見えないこと」とはどんなことなのかを多角的に問いかける構成になっています。

展示構成は建築家の平井政俊さんが手掛け、会場となる上野公園と作品との関連性が考慮されています。例えば、上野公園にはかつて竹林があったということから、作品を設置する際に竹を使うなど、一見すると分からないかもしれませんが、まさに「見えない」部分にも呼応した展示となっています。この写真祭では観客に楽しんでもらうことはもちろんですが、ふらりと立ち寄った方々が、展示作品をきっかけにして、上野という土地の歴史など、そこから新たな視点で何かを再発見してもらえたら嬉しいです。

日本的なものと関わっていく

デジタル写真に象徴されるように、現代は視覚表現が拡張している時代です。そんな時代だからこそ、作品の根本にある目に見えない気配や言葉になりづらいものの中にこそ日本的な何かがあると最近感じています。以前は海外への憧れや興味が強かったので、外国人作家の作品を数多く見ていましたが、海外からの視点ではなく、日本人だからこそ探ることができる民俗学や文化人類学的なルーツ、その土地にある土着性などに興味を持つようになりました。日本の写真家でも、そういうものを追い続けている写真家に関心を持つようになりました。こうした興味の持ち方というのは、幼い頃から変わっていないのかもしれません。

今も蚤(のみ)の市などで古写真を買っていますが、自分のライフワークとして、全国各地のヴァナキュラーな(ある土地固有の)古い写真を発掘していくようなことやっていきたいです。そうした写真が持つ背景をその土地の人々に聞き、そこに写された人々のライフストーリーを掘り起こすような作業は、今やっておかないといずれ不可能になってしまいます。写真に定着された風習や風俗、文化などが消滅してしまわないうちに着手すべきでしょうね。写真と民俗学が交わるような仕事を引き継いでいければと思っています。文字と写真でまとめる作業と同時に、いつかそうした展覧会も企画したいです。

取材・文=松本 知己(T&M Projects)
写真=高橋 宗正

T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(東京国際写真祭)

会場:上野公園、東京藝術大学、上野桜木、市田邸
会期:2017年5月19日(金)~28日(日)
入場料:無料

詳しくは写真祭公式HPをご覧ください T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO

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