特集 心躍る文房具の世界
工業用製品がおしゃれなマスキングテープ「mt」へ大変身

三田村 蕗子【Profile】

[2017.07.28] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | ESPAÑOL | العربية |

工業用粘着テープが暮らしを彩る楽しいアイテムに進化した。女性ユーザーの視点を取り入れたカラフルなマスキングテープ「mt」が大人気のカモ井加工紙本社(岡山県倉敷市)を訪ねた。

始まりはハエトリ紙

剥がしてしまえば、ただのゴミ。建築現場で使用される殺風景で無機質な工業用製品にすぎなかったマスキングテープが、暮らしを明るくカラフルに彩る「mt」に変貌を遂げた。鮮やかな変身劇を演じたのは、粘着テープの老舗メーカー、カモ井加工紙だ。

創業は1923年。強力な粘着力でハエやネズミを捕獲する「カモ井のハイトリ紙」から事業を興し、一貫して粘着商品の研究を続け、工業用シーリングテープで高いシェアを誇ってきた同社は、2007年、初めて自社製品が持つ「とんでもない価値」に気付かされる。

工業用の自社製品の可能性を気付かせてくれたのは、3人の女性ファンだったと語る営業部コンシューマー課課長・岡本直人さん

多種多様な柄のマスキングテープ。基本は幅15ミリ。このテープを自分流にアレンジしてかわいいラッピングやクラフト雑貨に活用する

「マスキングテープの大ファンだという女性3人から『製造現場を見たい』と熱心に依頼されたので、本社工場のある倉敷まで来ていただいたんです」と営業部コンシューマー課課長の岡本直人さんは振り返る。「皆さん、ホームセンターで手に入れたマスキングテープをスクラップブッキングやクラフト雑貨作りにアレンジされていて、マスキングテープを『カワイイ』と言うんですね。製造工程を見学して、感動されていました。それまでは製品は建築卸に納入し、商品説明も職人相手にするだけで、一般のお客さまとの接点はゼロでしたから、そういう使い方や感想もあるんだと驚きました」

キレイに貼れて、簡単に剥がせる。和紙の風合いがいい。手でちぎれるので使いやすい。上から字が書けるのも便利。下地が少し透けて見えるのも面白い。自分たちの使い方を詳細に記したノートを手に、3人が口々に発するマスキングテープへの評価を、「そういうファンもいるのか」「珍しい使い方があるものだ」で終わらせずに、同社は「B to C」(対消費者ビジネス)の可能性に賭け、商品化に向けて動き出した。「mt」の快進撃の始まりだ。

「mt」ブランドで和の「プレミアム」20色

「mt」ブランドを2008年に立ち上げ、製品を開発するにあたって、同社は社外デザイナーを起用。新ブランド誕生のきっかけを作った3人のファンの声も取り入れて、同年11月に20色のマスキングテープを完成した。

幅は15ミリメートル。色は、萌黄(もえぎ)や臙脂(えんじ)など和の色を取りそろえた20色。色鉛筆のような繊細で優しい色合いのマスキングテープを、どこでどのように売るべきか。キーワードは「プレミアム」だ。

「まずは、『東京インターナショナル・ギフト・ショー』(パーソナルギフトと生活雑貨の国際見本市)に出展したところ、LOFTや東急ハンズから引き合いがあり、そこで扱ってもらうことになりました。ブランドのプレミアム感を訴求(そきゅう)するため、イベントや限定商品にも当初から力を入れています」と岡本さん。

テープではあっても、セロハンテープとは違う。3人のファンが熱く語っていたように、アレンジすることでオリジナリティーを演出できるツールだ。そのプレミアムな魅力と応用範囲の広さを伝えるために、同社は09年10月、東京・早稲田にある古い集合住宅の一画にあるギャラリーで第1回「mt ex展」を開催した。

展示内容は圧巻そのもの。床から壁、天井までをすべて「mt」でデコレーション、手作り感あふれる「mt」ワールドを作り上げた。

「来場者に『こういう使い方もできるんだ』と感じていただくためです。ここでしか買えない限定テープも発売して、プレミアム感を高めました」

展示を見て、かつて岡本さんや関係社員が3人のファンの感想を聞いた時と同様の驚きを感じた人は多かった。「mt」を使えば、自分の持ち物、部屋、暮らしがこんな風に変えられる。マスキングテープの自在な活用法は、デザイナーやクリエイターにとどまらず、口コミ、SNSなどで広がり、ファンの裾野を広げていった。

カモ井本社に展示されているマスキングテープで装飾されたトゥクトゥク(タイの三輪タクシー)

全身「mt」模様の車「MINI(ミニ)」

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  • [2017.07.28]

フリーライター。福岡生まれ。津田塾大学学芸学部卒業。流通を皮切りにビジネスの幅広いテーマを手掛け、現在、ビジネス誌や経済誌、流通専門誌で活動中。2014年11月下旬から経済成長著しいバンコクに拠点を移し、東南アジアの取材活動にも力を入れている。移住の経緯やバンコク情報は、ホームページで発信中。著書に『夢と欲望のコスメ戦争』(新潮選書、2005年)、『「ポッキー」はなぜフランス人に愛されるのか? 』(日本実業出版社, 2015年)など。

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