特集 日本列島花巡り
「あじさい電車」に揺られて梅雨の箱根を満喫
[2017.08.05]

じめじめとした梅雨の季節に、私たちの心を華やかにしてくれるアジサイの花。「あじさい電車」として親しまれる箱根登山鉄道に揺られ、日本原産の花の多彩な表情を楽しんだ。

日本生まれの花“紫陽花(アジサイ)”

桜の花が春の到来を告げるように、日本の季節を彩る花の一つに「アジサイ」がある。しっとりとした梅雨の風景に、鮮やかな色を添えてくれる。欧州や米国でも観賞用として親しまれるアジサイだが、日本原産の植物であることは意外に知られていない。

沖縄から北海道まで全国的に栽培され、関東では通常5月下旬から開花が始まり6月中旬〜下旬に見頃を迎える。鎌倉の明月院を代表格に「あじさい寺」と呼ばれる寺院が日本各地に点在し、この時期には「あじさい祭り」と称したイベントが数多く開催されている。

日本原産のガクアジサイ

車窓から満開のアジサイに出会える

近年、アジサイの名所として人気なのが「あじさい電車」。日本有数の山岳鉄道として名高い箱根登山鉄道が、沿線をアジサイが彩る6月中旬から7月下旬までの間、この愛称で車両を走らせている。

「あじさい電車」のマークを付けた箱根登山電車

箱根登山鉄道は、小田原駅から強羅駅までの「箱根登山電車」と、強羅駅から早雲山駅までの「箱根登山ケーブルカー」を運行している。現在は、箱根湯本駅まで小田急線車両が乗り入れており、東京都内から向かった場合には、実質的に箱根湯本駅が箱根登山電車の始発駅となる。

ケーブルカーの沿線でもアジサイが鑑賞できる

その箱根湯本駅(標高96メートル)から早雲山駅(標高750メートル)まで約16キロメートルに及ぶ沿線に、約1万株のアジサイが咲き誇る。標高差があるので、下から上の駅に向かって順々に見頃を迎えていく。そのため、1カ月半の長期にわたり、車窓からアジサイが満開の場所を見つけられるのが大きな魅力だ。

箱根登山鉄道の最急勾配は、1メートル走る間に80ミリメートル登る80パーミル。レールで運行する列車では日本一、世界では2番目の急勾配だ

取材に訪れた7月中旬は、宮の下駅(標高436メートル)から彫刻の森駅(標高539メートル)付近が見頃を迎えていた。

彫刻の森駅付近のセイヨウアジサイ

社員一同が愛情を込めて育てる

もともと沿線には多くのアジサイが自生していたが、現在のように沿線全体で美しい花が拝めるようになったのは1970年代から。箱根登山鉄道総務部の市原健太さんに話を聞くと、「アジサイをもっと美しく、もっと大きくしたい」という思いが鉄道員たちに芽生え、植栽を開始したという。それが、今では箱根観光の目玉の一つとなって、集客につながっている。

美しいアジサイの回廊を走り抜けていく

「アジサイは一度植えると、毎年花を咲かせてくれます。病気に強く、育てるのが容易です。私たちは例年5月中旬から下旬にかけて、新しい苗を植えたり、古い木の手入れをしたりしています。それは、社員だけでなく、社長まで一緒に参加するくらいの大切な作業なのです」

宮ノ下駅ホームのアジサイを背景に、取材に応えてくれた市原さん

アジサイの歴史

日本最古の和歌集『万葉集』には、アジサイを歌った2首が残されており、奈良時代後期(8世紀後半)には、すでに日本で自生していたことが分かっている。

江戸時代には、医師で博物学者のシーボルトがアジサイを好んだそうだ。オランダ帰着後に著した『日本植物誌』(1835〜70年刊行)では、十数種類のアジサイを紹介している。

アジサイは、日本から中国を経由してヨーロッパに渡ったとされている。1790年頃には英国の王立植物園に植えられ、「東洋の花」として人気を博した。欧州各地で栽培が始まり、品種改良が進められた結果、現在では多種多様なアジサイが誕生し、私たちの目を楽しませてくれているのだ。

半球状に咲くセイヨウアジサイ

アジサイの種類

箱根登山鉄道沿線では、日本古来のガクアジサイから、逆輸入したセイヨウアジサイまで、さまざまな種類を楽しむことができる。

ガクアジサイは、小さな花の固まりを大きな花が取り囲む「ガク咲き」が特徴だ。中心になっているのが、雄しべと雌しべを持つ両性花の「真花(しんか)」。周りを囲むのは萼(がく)(※1)が発達した「装飾花」で、正確には花ではない。

真花を縁取るように装飾花が並ぶ

そのガクアジサイは、ヨーロッパでセイヨウアジサイに改良された。中心の真花が退化し、装飾花に覆われたまん丸の形状から「手まり咲き」と呼ばれる。

セイヨウアジサイの一種

他には白い花の「アナベル」や、「ヤマアジサイ」など、箱根登山鉄道の沿線では多様なアジサイが楽しめる。

真っ白で愛らしいアナベル

土で決まる色彩

アナベルなどの珍種を除いて、基本的に咲き始めは白っぽく、次第に青やピンクへと変化する。この色は土壌が酸性であれば青く、アルカリ性が強ければピンクに傾く性質を持っている。それは、土壌のアルミニウムが、花の色のベースになる「アントシアニン」という色素を青や赤に変化させるからだ。

日本の梅雨は降雨量が多いため、土壌は弱酸性になりやすく青色の花が多く見られる傾向にある。さらには、湿度が高い場合には濃く色づく。同じ種類でも、天気や土壌によって異なる色を見せてくれるのがアジサイの魅力だ。

色とりどりのアジサイが咲くケーブルカーの線路脇

早朝や夜も魅力的なアジサイ

1日の中でも、アジサイは表情が変化するという。市原さんにお薦めの時間帯を聞くと、「箱根に宿泊するのであれば、早朝に見るアジサイが最高ですよ。華やかな日中とは違い、朝露にぬれてしっとりとした表情が楽しめます」と話してくれた。

ケーブルカーの座席もアジサイ模様になっている

また、箱根登山鉄道で忘れてはならないのが、ライトアップされたアジサイが楽しめる特別電車「夜のあじさい号」だ。毎年6月中旬から7月初めまでの間、予約制で運行されている。ライトアップ地点では徐行や停止をしながらゆっくりと進み、途中駅のホームで記念撮影をする時間もあるので、ぜひカメラを持って出掛けたい。

ライトで浮かび上がる色彩も魅力的だ(写真提供=箱根登山鉄道)

都心から日帰りで楽しめる箱根観光

観光客の方が箱根を訪れる際には、「箱根フリーパス」が便利。小田原駅から、箱根登山鉄道やケーブルカーはもちろん、箱根登山バス、箱根ロープウェイ、そして芦ノ湖を遊覧する箱根海賊船まで利用可能。

新宿駅から箱根湯本駅までは、小田急ロマンスカーを使えば約1時間半。日帰りでも十分楽しめる。箱根はアジサイの季節だけでなく、春は桜、秋は紅葉、冬は雪景色と、1年を通して美しい自然に出会える。列車やパスを途中下車して、景色を眺め、美術館や温泉に立ち寄ろう。

箱根フリーパス
  • 2日間有効:大人4000円、子ども1000円
  • 3日間有効:大人4500円、子ども1250円
  • 箱根ナビ

取材・文=阿部 愛美
撮影=コデラ ケイ

(※1)^ 花の一番外側の、花びらを囲んで支える部分。通常は緑色で、つぼみのときに内部を包み保護する。

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