特集 日本列島花巡り
萩の花々に秋を求めて
[2017.11.13]

植物が眠りにつく冬を前にして咲く秋の花々。そんな中でも、日本の風習と関わりの深い萩の花を見に墨田区の向島百花園を訪れた。同園では、東京の都心部とは思えない落ち着いた雰囲気で、秋の景色を楽しむことができる。

最も秋を感じさせる花

色鮮やかな花々が力強く咲く夏が終わり、コスモスや彼岸花、りんどうなど、どこかしおらしい秋の花々の季節がやってくる。中でも、秋を代表する花と言ええば、萩だろう。あまり目立つ花ではないが、漢字を想像すれば「なるほど」と納得するはず。「草冠」に「秋」と書くのだから。

萩という名を聞いただけで、花の姿をイメージできる人は少ないだろう。山野で普通に咲いている花だが、東京の街中で見付けようとするとちょっと難しい。ところが、東京の都心部にも隠れた萩の名所があるという。墨田区にある向島百花園の「萩のトンネル」だ。

萩の雰囲気にぴったりの着物姿の女性も。絹織物である銘仙(めいせん)の着物は、この日に合わせて萩の柄

入り口の庭門をくぐり、園内へ。取材に訪れた9月末は暑さがぶり返し、園内の緑は生き生きと茂っていた。くねくねと曲がる細い道を少し進むと、園内中央の開けた場所に出る。見回すと「萩のトンネル」と書かれた看板が見える。竹でアーチ状に編まれた柵の外側から栽培されている萩が、長いつるを伸ばし覆いかぶさる形でトンネルを形成していた。

「萩のトンネル」の入り口

トンネル入り口から中を覗(のぞ)くと、太陽の光が差し込みキラキラと輝いている。高さ2メートルほどのトンネル内を歩くと、柵の隙間から萩がところどころ垂れ下がり、視界は萩一色。2〜4センチメートルほどの赤紫色の花が無数に咲いていた。小ぶりで派手さはないが、楚々として上品な花だ。トンネル内で足を止めて、思わず見入ってしまう。

いくつもの花が美しく枝垂(しだ)れる様が萩の魅力の一つ

萩は秋の七草の一つ

萩の花は、秋を代表する七種の草花である「秋の七草」の一つとしても知られている。

秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り
かき数ふれば 七種(ななくさ)の花

萩の花 尾花葛花(くずばな)瞿麦(なでしこ)の花
女郎花(おみなへし) また藤袴(ふぢばかま) 朝貌(あさがほ)の花

歌人・山上憶良が『万葉集』に詠んだこの二首によって秋の七草は選定された。同園では、七つの花すべてが植栽されており、取材に訪れた9月末は、葛(かずら)と撫子(なでしこ)以外の五つの花が開花時期を迎えていた。

薄(すすき)。馬などの尾に似ていることから尾花(おばな)と呼ばれた

女郎花(おみなえし)。美女を圧倒する美しさを持つことから、この漢字が当てられたと言われている

藤袴(ふじばかま)。小さな花が袴(はかま)の形に似ているという説がある

朝貌(あさがお) 。夏の花・朝顔ではなく、桔梗(ききょう)のことを指す

秋の七草は、秋の収穫を喜び感謝する祭り「十五夜」との関わりが深い。陰暦八月十五夜の月は、“中秋の名月”とも呼ばれる。空気中の水蒸気量が少なく、空気が澄んでいることから一年で最も月が美しく見えるのだそうだ。そのため、十五夜(2017年は10月4日)に最も近い満月の夜は、月を鑑賞する「お月見」が古くから楽しまれてきた。

お月見では、月から見えるよう15個の団子や里芋を供え、秋の七草が飾られる。中でも、薄(すすき)がよく知られ、稲穂に似ていることから豊作の象徴として用いられてきた。長い茎をもつマメ科の萩は、神様が使う箸としての意味があるとされている。かつて村上天皇(926〜967年)や、皇女和宮(1846〜77年)などが、萩の箸で里芋に穴をあけ、穴から覗いて月見を楽しんだそうだ。

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