日本の大使館を訪ねる

大使館訪問① 駐日コロンビア共和国大使館

文化

日本からは地球の裏側に位置する南米大陸の国「コロンビア」。観光地として世界的に人気が高まっているが、日本では情報が少なく、まだまだ親しみは薄い。駐日コロンビア大使館は多様性に富んだ自国の風土や文化を積極的に発信している。

ガブリエル・ドゥケ 駐日コロンビア共和国大使

コロンビアのコーヒー産地は世界遺産なのです

「コロンビアはアンデス山脈からアマゾン、カリブ海まで、地形や気候がとても変化に富んでおり、野鳥、爬虫(はちゅう)類、ランの花など生物の多様性が豊かな国です。また、人種も先住民、ヨーロッパ系、アフリカ系が混在しているため、幅広い文化があり、陽気で人懐っこい国民性なのです。

20世紀、政情不安な時代もありましたが、現在は安定した社会になりました。コロンビアを訪れる日本人はまだ少なく、なしみが薄いかもしれませんが、日本の方々親しまれているコーヒーにはコロンビア産が多くあります。世界遺産にもなっているコーヒー産地の文化的景観や、カリブ海沿岸の美しい街カルタヘナ・デ・インディアスなどを、ぜひ訪れてみてください」

多様性にあふれた国・コロンビア

駐日コロンビア共和国大使館と領事館は、JR目黒駅より南へ徒歩5分、閑静な住宅街の一角にある。

東京都品川区にある在日コロンビア大使館のビル外観

この近辺は、明治末に元岡山藩士で外交官の子爵・花房義質(はなぶさ・よしもと)が屋敷を構えたことで、花房山と呼ばれた由緒ある地。東京城南地区の高台にある高級住宅地、「城南五山」の一つに数えられる。歴代大使の希望で大使館内に建てられた日本家屋と庭園に、旧花房邸にあった石垣の一部がしっくりと溶け込んでいる。

大使館の正門には、南米のアンデス5カ国を独立に導いた英雄シモン・ボリバルの胸像がある。門の奥に見えるのが大使公邸

ゲストの宿泊用としても使われている日本家屋。庭園には滝も流れている

大使の執務室には、コロンビアの伝統工芸品が並んでいる

コロンビアは南米大陸の北端に位置し、ベネズエラ、ブラジル、エクアドル、ペルー、そしてパナマと国境を接する。日本の約3倍の国土は、アマゾン熱帯雨林、アンデス山脈、カリブ海沿岸、太平洋沿岸、大平原地帯と地域ごとの変化に富み、気候や文化の多様性にあふれている。

コロンビアの絵画や民芸品などの装飾に、障子や日本画が見事に融合している

大使公邸1階の応接室やダイニングルームは、イベントやパーティーにも使用される

大使の発言にもあるように、コロンビアと聞いてまず思い浮かべるのはコーヒー。日本のコーヒー豆の国別輸入量では第3位だ。コロンビアには国立のテーマパークになっている農園もあり、スペイン統治時代のコロニアル様式建造物が残る農園などが世界文化遺産に登録されている。

エメラルドの産出量は世界一で、あざやかな緑に輝く高品質なため、日本に多く輸入されている。そして、日本で見られるカーネーションの約7割もコロンビア産だ。

「コロンビア独立記念祭」では、コロンビア産コーヒーが無料で振る舞われた

自国の文化を積極的に発信

大使館や大使公邸には、黄金伝説(エルドラド)を生んだ先住民が作った装飾品や金細工のレプリカが並べられている。スペイン統治以前の「プレ・コロンビア」時代の文化は、今もコロンビア人の心に生きているという。

大使公邸に飾られた、きらびやかな先住民文化の金細工

そして、調度品を彩るのが、所々に飾られた華麗な花たち。広報担当の女性から、「実はこのバラは、5年前の花なんですよ」と聞いて驚く。これは、生花の水分を抜いて特殊な液を注入した「プリザーブドフラワー」。長期にわたって保存できるため、ウエディングブーケやギフト用に利用されている。日本のフラワーアーティストの間では「コロンビア産のプリザーブドフラワーは質が良い」という定評があるそうだ。一般の愛好家を対象としたプリザーブドフラワーのコンテストが長年開催されており、コロンビア大使館も後援を続けている。

大使公邸エントランスに飾られたプリザーブドフラワー。まるで生花のような、みずみずしい質感

大使館ではコロンビアから招致した芸術家の展示会や、音楽家のコンサート、コロンビア料理の紹介イベントなどを定期的に開き、積極的に自国文化を発信している。主催する最大の催しは、毎年7月20日の独立記念日に合わせて行われる「コロンビア共和国独立記念祭」。今年は東京・日比谷公園で7月16日に開催し、コロンビアの料理や民芸品の露店が集まり、舞台上ではクンビア、バシュナート、サルサといったコロンビア音楽やダンスなど多彩な伝統芸能が披露された。

独立記念祭のステージ上では、陽気で明るいダンスが繰り広げられた

来場客にはサッカー・コロンビア代表のユニホーム姿が目立った

日本の青少年にもコロンビアを紹介

教育・学術担当の大使館員、永松パオラ睦美さんは日本各地の小中高で、定期的にレクチャーを行っている。コロンビアの多様な自然や文化、その魅力を子どもや若者たちに紹介するのが目的だ。2014年に開催されたサッカーのワールドカップ・ブラジル大会において、予選で日本に勝利してベスト8まで勝ち進んだため、サッカーからコロンビアを知った子どもたちも少なくないという。

「美しい景色と多様な文化に出会えるコロンビア旅行は本当にお薦め」と言う永松さん

領事館の入り口には、サッカー・コロンビア代表のハメス・ロドリゲスの写真が飾られている

コロンビアをもっと知ってもらい、その文化に触れてもらうことで、まずは「治安が悪い」という南米諸国に対するイメージをなくすことが目標だという。そして、日本と同様に米を主食としたコロンビアの料理も、多くの日本人に味わってほしいと言う。

「東京には、本格的なコロンビア料理のお店がまだ少ないです。3種類のジャガイモを使った鶏肉とトウモロコシのスープ『アヒアコ』をはじめ、コロンビア料理はバラエティー豊かでとてもおいしいですよ。2016年のアカデミー賞にノミネートされたコロンビア映画『彷徨える河』が、17年10月からセルバンテス文化センターで上映されます。料理や映画、サッカーなどを通して、コロンビアに興味を持ってもらえたらうれしいです」

大使公邸には専属シェフがいて、1階のダイニングルームで招待客にコロンビア料理が振る舞われることも

独立記念祭でもコロンビア料理は好評で、客の長い列ができていた

コロンビア共和国 基本データ

  • 面積:114万1748km²(日本の約3倍)
  • 人口:約478万人
  • 首都:ボコタ
  • 民族:混血75%、ヨーロッパ系20%、アフリカ系4%、先住民1%
  • 言語:スペイン語
  • 宗教:カトリック
  • 日本への主な輸出品:コーヒー、エメラルド、カーネーション、プリザーブドフラワー、バナナ
  • 駐日コロンビア大使館WEBサイト http://www.colombiaembassy.org/ http://japon.embajada.gov.co/

取材・文=鈴木 尚人
撮影=ニッポンドットコム編集部

(バナー写真 「コロンビア共和国独立記念祭」で民族衣装をまとってダンスを披露した人たち)

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