自然を畏怖する心【栄久庵 憲司】

キッコーマンの醤油瓶などのデザインで世界的に著名なデザイナー、栄久庵憲司氏は、建築計画、都市デザインなどにも造詣が深い。再生する日本にとって必要なのは文明と自然の在り方を再考することだと言う。

キッコーマンの醤油瓶などのデザインで世界的に著名なデザイナー、栄久庵憲司氏は、建築計画、都市デザインなどにも造詣が深い。再生する日本にとって必要なのは文明と自然の在り方を再考することだと言う。

ヒロシマが頭をよぎる

今回の東日本大震災により、日本の国の5分の1が災害に見舞われた。戦後、復員して広島駅に降り立った時、街は一望千里、廃墟と化していたが、その印象と大震災が重なり合った。戦争のように、人の起こした罪は憎むべきものだが、天災はそうもいかない。

日本は古来、山や川、雨や風、自然の草花にまで神々が宿るアニミズム、つまり精霊主義の国であり、それが人々の心を常に支え、日本人の生活・文化の根底に流れている。文明以前、「水」は洪水を招くことはあっても、本質的には心安らぐ母の胎内へと人々をいざなうものだった。しかし、今回の震災と津波によって、自然への畏敬の延長線上には恐ろしさもあることを思い知らされた。

文明と自然の在り方を再考

地震や津波は、人々の怒りや同情だけに収れんしていくのだろうか。天災の恐ろしさを超え、むしろ自然に対する畏怖の念を抱いた方が救いとなろう。これからの日本は、古(いにしえ)の人々が心に抱いていた自然に対する尊敬や畏敬の念を取り戻すべきなのだ。関東大震災、空襲、原爆、阪神・淡路大震災をはじめ、日本は数多くの災害を経験し、その度に何度もやり直してきた。しかし、その経験はまだ生かしきれていない。被災地では今でもライフラインが回復していない所がある。今こそ文明と自然の在り方について再考する時が来たといっていい。

日本人には忍耐力があり、協調性があると世界の人々は評価しているが、その日本の精神からすれば、必ず再興できると信じる。これからは、天災から学んだ新しい叡智が必要となるだろう。それには、何よりも自然に対するしっかりとした心構えが必要なのだ。新しく生まれる街や村の姿が、未来をさらに輝かせるだろう。その時、日本は世界の国々を指導していける国となる。日本にはその力がある。

(4月5日 記す)

栄久庵 憲司

栄久庵 憲司
Ekuan Kenji

1929年東京生まれ。デザイナー。GKデザイングループ代表。国際インダストリアルデザイン団体協議会(ICSID)名誉顧問。Design for the World会長。コーリン・キング賞、藍綬褒章を受章。著書は、『幕の内弁当の美学』『道具論』『デザインに人生を賭ける』など。