災害時における車の可能性【清水 和夫・自動車ジャーナリスト】

被災地で医療活動を行うための車とドライバーを手配する活動を行う自動車ジャーナリストの清水和夫氏が、災害の際の自動車の強みについて語る。

被災地で医療活動を行うための車とドライバーを手配する活動を行う自動車ジャーナリストの清水和夫氏が、災害の際の自動車の強みについて語る。

東日本大震災以来、自動車の世界に生きる立場として私には何ができるのだろうかということを考えてきました。被災地の現実を受け入れて前に進むために、自動車の移動性に大きなポテンシャルがあり、自動車は人の役に立つものだということを再認識しています。

3月22日に実際に仙台へ赴いてみると、とにかく物資が不足していることが分かりました。まずはジャーナリストとしての発信力を活かして医療用手袋や防寒対策となるエアキャップのニーズを日本中へ呼びかけ、被災地へ提供してきました。

モビリティを機動力に

しかし4月に入ると、緊急の物資調達よりも、被災地の方の体調ケアをするために医療支援の必要性を感じるようになりました。医師、看護師、薬剤師などをチームとして宮城県石巻市湊地区へ派遣するために車とドライバーの手配を決意しました。NPO法人「モビリティ21」の活動として「ドクター・カー」の提供をしています。

車の提供は自動車メーカーが快諾してくれました。また、ドライバーはTwitterで募集しました。100人ほどの方から反応があり、日程などの関係で最終的に45人ほどの方の協力を得ることになりました。

現地で不足するのではないかと懸念していた燃料も、長崎の日産ディーラーなどからガソリン缶提供の申し出を受け、20リットル携行缶が7缶集まりました。このように、「モビリティ21」では常に4台ほどのドクター・カーを稼動するための人とモノをまとめています。ドクター・カーは7月末まで運転させる予定です。

震災直後の混乱状態の中、率先してともかく行動を起こしてみると、被災地のニーズと、被災地の方々に対して手助けをしたい人たちが多くいることが分かりました。意志ある人の思いを結集するのに、メディアとしてTwitterの力が大きかったと痛感しています。

災害をきっかけに一層強まる車の絆

東日本大震災で道路や信号といった交通網が崩壊した中、物資輸送や救援などで被災地に真っ先に辿り着けたのはホンダの車でした。ホンダには「インターナビ」という独自の道路情報システムが構築されています。これは全国のホンダ車ユーザーのナビから集められた通行実績データを収集・提供する仕組みです。そのため、通常のカーナビに比べてより「早く正確」なルートを案内することが可能となります。ホンダは、2004年の中越地震、2007年の中越沖地震の際に、ナビシステムの検討・改良を重ね、東日本大震災の際に活かされています。その後、ホンダに続いて、トヨタや日産もカーナビ情報を公開し、被災地における通行情報は厚みを増して、より正確な道路状況の把握ができるようになっています。

被災地で役立つ車

エネルギーや環境対策として注目が高まるハイブリット・カーは、燃費が良いので被災地においても利点があります。ホンダのフィット・ハイブリットはコンパクトなので、がれきで埋もれた宮城県石巻市の住宅街に入っていきやすく、さらにアイドリングストップも備わっていたので、ガソリンが少なくても長距離を走行することができました。

被災地での移動には、ぬかるんでいる沿岸部では冠水しやすいため四輪駆動が威力を、路面の凹凸が激しい道路では車高が高い車が機動力を発揮しました。

また、重い荷物を積んで高速移動しながら燃料満タンで1000Km走れる車は日本においてはメルセデスのブルーテックディーゼルだけでした。今回の震災で、燃費の良いディーゼルは今後ますます必要になる技術だと感じています。

災害によって車の強みが見直されていますが、強みをさらに創意工夫していくことが可能なのではないでしょうか。エンジンを備える車はそれ自体が発電機となっており、たとえばトヨタのプリウス1台で、70世帯分の電力供給が可能です。日本において、今回の震災をきっかけに新たな車の可能性が広がっていくのかもしれません。

車は一人ひとりの元へモノを届ける「足」になるだけではなく、暮しを守る道具にもなります。今後も、災害時を含めて人間の生活に重要なアイテムとなるように、特性を活かして進化を続けていくことでしょう。

(6月3日 談)

タイトル写真について
宮城県石巻市の湊小学校の校庭に停車しているドクター・カー。左から、ホンダのフィット、マツダのプレマシー、スバルのフォレスター。写真提供:清水和夫氏

清水 和夫

清水 和夫
Shimizu Kazuo

自動車ジャーナリスト プロのレースドライバーのキャリアを持つ。自動車の安全環境技術と国際産業論に精通。東海大学機械工学の講師を務める。自動車専門誌を中心に活躍。主な著書に「燃料電池とはなにか」「ITSの思想」(いずれもNHK出版)など。
http://www.shimizukazuo.com/
http://www.startyourengines.jp/