震災後の日本文化振興【渡邊 啓貴・東京外大教授】

震災で打撃を受けた日本のイメージアップのため、政府はさまざまな活動を行っている。筆者は日本文化が真に国際的な理解を得るため、さらなる文化外交への取り組みが必要だと主張する。

震災で打撃を受けた日本のイメージアップのため、政府はさまざまな活動を行っている。筆者は日本文化が真に国際的な理解を得るため、さらなる文化外交への取り組みが必要だと主張する。

東日本大震災のマイナスイメージを挽回するべく政府は各省庁の連携を強化し、官民一体となった広報文化活動の強化をめざしている。東日本大震災の後で知的財産戦略本部が発表した「クールジャパンアクションプラン」では海外の周年事業などを利用した発信(外務省、ロンドンオリンピックは文科省)、コンテンツ・フェスティバル(経産省)、日中間での「映画、テレビ週間」、「アニメ・フェスティバル」の開催(外務省・経産省)、国際放送の強化(総務省)などとともに、日本復興の情報発信、震災防災に関する国際会議(文科省)、海外見本市・展示会でのイメージの増進(農林水産省・経産省)などである。クールジャパン官民有識者会議の提言でも、「新しい日本の創造」を基本メッセージとして復興の発信や東日本の地域産品のブランディングを提唱している。

政府の「クールジャパン」への取り組み

クールジャパンは次第にコンセプトやジャンルが整理されはじめている。ファッション、食、コンテンツ、デザイン、ものづくりなど領域を世界の対象地域ごとにプライオリティーをつけて発信する方針をとっている。この方向は当面正しい。また筆者は以前からこうした活動の統合化を提唱していたので、最近の内閣府を中心とする方向性を大いに評価したい。

かつて19世紀後半から1920年代まで欧州、とくにフランスを中心に「ジャポニズムの時代」があった。日本の浮世絵や陶器、家具調度を含む日常品がヨーロッパの人々の間でブームとなった。ジャポニズムがブームとなった大きな理由は、その高度な技術や美的感覚に対する高い評価にあったが、同時に異国情緒趣味がその背景にあった。しかも日本文化は芸術家や知識人の間で流行したに過ぎなかった。

底辺の広い日本文化ブーム

今日の日本文化ブームはそれとはまったく違う。戦後日本が世界第二位の経済大国、先進工業国として成功し、かつ安定した近代社会として欧米諸国と比肩しうる国であるという点がまず日本に対する高い評価の前提にある。その上で歴史的伝統文化を持ち、ハイテクを用いた多彩なポップカルチャーの供給国として世界に新しい「顔」を見せようとしている。かつてのジャポニズム時代と異なって、日本文化理解者の底辺が拡大し、日本文化は世界でその普遍性を認められつつある。文化を通して、日本という国がまさに「ブランド」になり、「慎ましさ」「平和」「安定」「他人への思いやり」「繊細」などの新たな好イメージを伴っている。

加えて、日本文化は幅が広いことである。伝統文化からポップに至るまで多様で、総合的な文化である。海外での日本文化紹介の際には、茶道・華道・浮世絵からはじまり、アニメ・ゲーム・Jポップまで総合的に紹介されるケースが多い。

一部に伝統芸術に固執してポップカルチャーに消極的な向きもあるが、もはやポップの是々非々を論じている段階ではない。その影響力はもはや無視できない現実だ。実際に現場に行ってみるとよい。海外でのイベント会場ではその熱気とエネルギーは驚くばかりだ。マンガやアニメを入り口に、日本語を学び、日本の伝統文化に興味を持つ若者がどんどん増えている。

インドネシア・日本文化祭(於バンドン)、Anime Festival Asia (AFA)(シンガポール) 、Japan Festa inBangkok by Mainichi(バンコク)、「中国国際動漫祭」(浙江省杭州市)アルマゲドン・エクスポ(ニュージーランド)、ルッカ・コミックス&ゲームズ(イタリア)、Salón del Manga de Barcelona(バルセロナ)、ジャパン・エキスポ(Japan Expo)(パリ)など日本専門ないし日本が中心的な存在となる、一万人を超えるファンが集う、大きなイベントは四十件ほども挙げることができるし、規模を問わなければ日本文化が主要な役目を果たすイベントは世界で400件もある。その多くは、アニメ・DVD・テレビゲーム・J-ポップなど若者向けの領域を中心として、武道・茶道・書道など日本の伝統文化を伝達する、網羅的な「祭り形式の」参加型見本市や展示会である。

日本文化への関心をブームで終わらせないために

日本文化振興は従来型の伝統芸の紹介とコンテンツ産業部門での販売増進という二つの異なった領域の別々の外交路線ではない。オールジャパンの外交分野として取り組む課題の一つとなっている。フランスで行われている日本ポップカルチャーのヨーロッパ最大規模のイベントである「ジャパン・エキスポ」でもここ数年来経済産業省、観光庁がそれぞれブースを出展、昨年からはそれらの省庁に大使館・外務省、文化庁を加えた連携企画も定例化している。日本伝統楽器のコンサートや、アニメを通じた日本語の体験学習、日本の地方紹介などのイベントを行っている。

ただ、文化が真の意味で一過性でない普遍性を持つためには「美しさ」「内面的な奥深さ」「インパクトの強さ」などが不可欠である。伝統芸術やわびさびを特徴とする日本文化の世界観は究極のところ「質素さ」を善として認めるところにある。そうした「地味な文化」の本当の理解には高度の知的教養が必要である。他方で日本のポップカルチャーのブームが単なる面白さで終わることがないように、今後工夫が必要であることは改めて言うまでもない。それは今日の「ジャポニズム」のブームがかつてのジャポニズムと同じ運命をたどらないようにするには、どうするのか、という問題提起でもある。政府が経済振興と合わせて文化外交を本腰で模索するならば、そこまでの覚悟が必要である。筆者はそのことを切に望む。

バックナンバー

国際社会における日本の将来像【渡邊 啓貴】

第3回「震災後の日本文化振興」
第2回「国際安全保障共同体の一員として」(5月9日)
第1回「日本の意識改革と広報文化外交の重要性」(4月22日)

渡邊 啓貴

渡邊啓貴
Watanabe Hirotaka

1978年東京外大フランス語学科卒、80年同大大学院地域文化研究科修了、83年慶大大学院法学研究科博士課程修了、86年パリ第一大学大学院パンテオン・ソルボンヌ校現代国際関係史専攻DEA修了、99年から東京外大教授。2008~10年在仏日本大使館公使(広報・文化担当)。主な著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)『米欧同盟の協調と対立―二十一世紀国際社会の構造』(有斐閣、2008年)